第5章 親日派を養成すべきか

2019年10月11日

 日本人は、満州帝国を作り、王兆銘政権を作り、いずれも失敗した。この経験から、日本人は、中国の政治家に接近することを控えているように思う。
 親しくしたいが、失敗している。

 例外は、中曽根康弘で、彼が首相当時、胡耀邦と親しくした。ところが鄧小平により胡耀邦が失脚させられると、中国人で、親日を公言する政治家はいなくなった。
 官房長官をした野中広務自民党議員が曾慶紅と親しいと言われた。
 評論家では、馬立誠のみが親日である。2002年秋、「人民日報」の評論員、馬立誠が、「対日関係の新思考」と題して、「事実に即して言えば、(日本)はアジアの誇りである」「日本の謝罪問題はすでに解決している」とのべ、中国と日本でも大いに注目されたが、それ以後、日本へ理解を示し、日本寄りの評論家は出現していない。

 近藤大介氏は、「対中戦略ー無益な戦争を回避するために」(2013年)において、次のように述べる。
日本の政治家は、まず、次の3人にアプローチすべきであるとする。
李源潮国家副主席。
汪洋副首相。
劉延東副首相(女性)
次に、胡春華・広東省党委書記、孫春蘭(女性)天津市党委書記、張春賢・新疆ウイグル自治区党委書記を挙げる。

習近平の次は誰か。
石平は、「習近平にはなぜもう100%未来がないのか」(徳間書店・2015年)162頁において、2017年の党大会で、政治局常務委員入りする胡春華が国家副主席となる。李源潮(2015年、64歳)は年齢が高すぎる。李克強は、総理を辞任し、全国人民大会委員長、汪洋が総理になる。孫政才が副総理になる、と予想した。2022年、習近平が引退すれば、胡春華国家主席(2022年、59歳)、孫政才首相(2022年、59歳)と予想していた。2017年7月15日、孫政才は、重慶市共産党委員会書記を解職された。石平「冗談か悪夢のような中国という災厄」(ビジネス社・2017年)96頁は、孫政才の失脚は、習近平一派と共青団派が連携、展開した「江沢民派一掃作戦」の総仕上げ、と見ている。

2016年5月30日、党中央規律検査委員会は、江蘇省の李雲峰・副省長の調査を開始したと発表した。李雲峰は、党青年組織、共産青年年団(共青団)の李源潮の側近として知られていた。

6月3日、中国最高検察院は、仇和・雲南省元書記と楊衞沢・南京市元書記を収賄容疑で起訴したと発表した。いずれも李源潮に近い者という。

習近平は、共青団の次の代表者は、李源潮、のち、胡春華と見て、その力を殺ぐように動いている。また、陳敏爾を引き上げ、後継者候補に考えているそぶりを示した。宮崎正弘によると、国家副主席だった李源潮を、習近平が、「スキャンダルを周りで騒がせて、引退に追い込んだ」という(「米朝急転で始まる中国・韓国の悪夢」(徳間書店・2018年)112頁)。宮崎正弘氏は、習近平は、共産主義青年団(団派)と連立政権で、江沢民派を排除したが、団派の孫政才を失脚させ、これは、象徴的出来事という。

習近平政権は、習近平の盟友、王岐山の二人三脚であるとされた。

2016年になると、企業家任志強が、習近平批判とも読めるつぶやきの文章を書き、処分を受けたが、任志強の背後に王岐山がいて、任志強を擁護した(矢板明夫・正論2016年5月号52頁)。習近平は、強くなった王岐山をもてあましている、と思う。

王岐山は、経済通で、米国人に評価され、反日派だが、トクビルや岡田英弘を読み、豪胆で優れた政治家という評価が多かったが、「中国メデイア界の女傑と呼ばれる胡舒立」と王岐山の「ただならぬ関係はすでに中国の巷の噂であ」るという文章が公表されるようになった(福島香織「権力闘争がわかれば中国がわかる」(さくら舎・2015年11月13日)254頁。)。

2017年3月30日発行の「いよいよトランプが習近平を退治する!」(ワック)において、宮崎正弘と石平は、現在の中国政治は、王岐山と習近平との「連合政権」であり、王岐山は、自分の派閥を作り出し、実質的に一番の実力者であるという。

 2017年10月25日、習近平の第2期の政治局常務委員を発表した。

  1. 習近平(64歳)
  2. 李克強(62歳)
  3. 栗戦書(67歳)
  4. 汪洋(62歳)
  5. 王滬寧(62歳)
  6. 趙楽際(60歳)
  7. 韓正(63歳)

習近平は、共青団派の推す胡春華、習近平の推す陳敏爾を入れなかった。

習近平は、王岐山を留任させることができなかった。無理をして残さなかった。しかし、王岐山を国家副主席にした。対米交渉に使うとともに、自己の管理下に置き、裏切行為をさせないという意思表示であろうと思われた。ところが、2018年、米中貿易戦争が起こった。2017年の中国の対米輸出額が約4200億ドルに対し、アメリカの対中国輸出額は約1500億ドルで、トランプが貿易戦争を仕掛けたのもわからぬではない。ただ、米国との交渉について、習近平が汪洋や王岐山を使わず、劉鶴に当たらせている。石平は、これは、習近平にとって大きな失敗だという(宮崎正弘・石平「アジアの覇者は誰か、習近平か、いやトランプと安倍だ!」(ワック・2018年)6頁)。

[参考文献]