無許諾の音楽付動画ファイル視聴サービスが音楽著作権者の公衆送信権等を侵害するとされた事例である。
(1)東京地裁平成21年11月13日判決
被告Y1(ジャストオンライン社)は、インターネット上で、動画投稿・共有サービスを運営する会社で、旧商号を株式会社パンドラTVといい、平成17年11月10日、インターネット等の通信ネットワークを利用した映像コンテンツ配信事業等を目的として設立された株式会社である。
被告Y2は、Y1の代表者である。
原告X(日本音楽著作権協会JASRAC)は、音楽著作物の著作権等の管理事業者である。 原告Xは、被告Y1が主体となって、そのサーバーに原告Xの管理著作物の複製物を含む動画ファイルを蔵置し、これを各ユーザーのパソコンに送信しているとして、
を求めた。
すなわち、音楽著作権者であるXが、
との請求の訴訟を提起した。
被告Yらは、本件サービスにおいて、著作権侵害の主体は、ユーザーであると主張した。
被告Yらは、原告Xは、本件管理著作物を示すことはしても権利侵害コンテンツとする具体的な権利侵害情報の特定をしないまま漠然と権利侵害通知をしたのみであるから被告Y会社は、具体的な権利侵害の認識はない。放置したことをもって被告Y1が著作権侵害の主体という結論は導くことはできない等の反論を行った。
[東京地裁判決]
民事40部の岡本岳裁判長は、次のように述べて、音楽著作権者の公衆送信権等を侵害するとして、差止請求を認容するとともにし、約9000万円の損害賠償を命じた。
「著作権法上の侵害主体を決するについては、当該侵害行為を物理的、外形的な観点のみから見るべきではなく、これらの観点を踏まえた上で、実態に即して、著作権を侵害する主体として責任を負わせるべき者と評価することができるか否かを法律的な観点から検討すべきである。」「この検討に当たっては、問題とされる行為の内容・性質・侵害の過程における支配管理の程度、当該行為により生じた利益の帰属等の諸点を総合考慮し、侵害主体と目されるべき者が自らコントロール可能な行為により当該侵害結果を招来させてそこから利得を得た者として、侵害行為を直接に行う者と同視できるか否かとの点から判断すべきである。」とし、「被告Y1は、著作権侵害行為を支配管理できる地位にありながら著作権侵害行為を誘引、招来、拡大させてこれにより利得を得る者であって、侵害行為を直接に行う者と同視できるから、本件サイトにおける複製及び公衆送信(送信可能化を含む。)に係る著作権侵害の主体というべきである」とした。
主文
[知財高裁判決]
知財高裁第4部滝澤孝臣裁判長は、原判決の文章を基にして加除あるいは、改変し、その上で、「原判決は相当であって、本件控訴は棄却」とした。
著作権侵害主体について、次のように述べている。
「控訴人会社が、本件サービスを提供し、それにより経済的利益を得るために、その支配管理する本件サイトにおいて、ユーザーの複製行為を誘引し、実際に本件サーバーに本件管理著作物の複製権を侵害する動画が多数投稿されることを認識しながら、侵害防止装置を講じることなくこれを容認し、蔵置する行為は、ユーザーによる複製行為を利用して、自ら複製行為を行ったと評価することができるものである。よって、控訴人会社は、本件サーバに著作権侵害の動画ファイルを蔵置することによって、当該著作物の複製権を侵害する主体であると認められる。また、本件サーバに蔵置した上記動画ファイルを送信可能化して閲覧の機会を提供している以上、公衆送信(送信可能化を含む。)を行う権利を侵害する主体と認めるべきことはいうまでもない。以上からすると、本件サイトに投稿された本件管理著作物に係る動画ファイルについて、控訴人会社がその複製権及び公衆送信(送信可能化を含む。)を行う権利を侵害する主体であるとして、控訴人会社に対してその複製又は公衆送信(送信可能化を含む。)の差止めを求める請求は理由がある。」
[参考文献]
岡村久道「プロバイダ責任制限法上の発信概念と著作権の侵害主体」(堀部政男監修「プロバイダ責任制限法実務と理論」(商事法務・2012年)116頁)
田中豊編「判例で見る音楽著作権訴訟の論点60講」184頁(市村直也執筆)
小泉直樹、池村聰、高杉健二「平成24年著作権法改正と今後の展望」ジュリスト1449号12頁。小泉直樹「日本におけるクラウド・コンピューテイングと著作権」(小泉直樹、奥邨弘司、駒田泰土ほか「クラウド時代の著作権法」勁草書房・2013)25頁。
平成24年著作権法改正により、情報通信の技術を利用した情報提供の場合(各種動画投稿サイト、SNSなど)、「記録媒体への記録または翻案」など準備に必要な情報処理のための利用を、著作権侵害にしない、という「47条の9」が設けられた。このことと、当該情報自体が著作権侵害物であること、は別で47条の9によって影響を受けない、ことが小泉直樹教授、池村聰弁護士の問答(ジュリスト1449号17頁)で明らかにされている。また、サーバーへの蔵置が、「準備」にあたる(当該提供を円滑かつ効率的に行うための「準備」に必要な電子計算機による情報処理を行うのため必要な限度であること)とされれば、47条の9により合法である。
この判決は、クラウド・コンピューテイングに関連して、重要な判決となった。