R学園長対電子掲示板事件

2015年11月24日

1,特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律」(以下、プロバイダ責任制限法)4条1項に基づく発信者情報の開示請求に応じなかった特定電気通信役務提供者は、当該開示請求が同項各号所定の要件のいずれにも該当することを認識し、又は上記要件のいずれにも該当することが一見明白であり、その旨認識することができなかったことにつき重大な過失がある場合にのみ損害賠償責任を負うとされ、2,インターネット上の電子掲示板にされた書き込みの発信者情報の開示請求を受けた特定電気通信役務提供者が、請求者の権利が侵害されたことが明らかでないとして開示請求に応じなかったことにつき、重大な過失があったとはいえないとされた事例である。

最高裁平成22年4月13日判決(平成21年(受)609号、判時2082号59頁民集64巻3号758頁)
東京高裁平成20年12月10日判決(平成20年(ネ)第3598号、民集64巻3号782頁)
東京地裁平成20年6月17日判決(平成19年(ワ)第27647号、民集64巻3号769頁)

原告Xは、学校法人R学園(湘南ライナス学園)の学園長兼理事である。
被告Yは、電気通信事業を営む株式会社で、DIONの名称でインターネット接続サービスを運営している。

平成18年9月頃、電子掲示板サイト「2ちゃんねる」において、X及びXが勤務する学園に関する書き込みがなされた。「気違いはどう見てもライナス学長」などである。Xは、プロバイダ責任制限法に基づき、2ちゃんねるに対して、発信者情報開示の仮処分を申立て、開示を命ずる仮処分決定を得た。その結果、2ちゃんねる側から、Xに対し、本件書き込みの発信者情報としてのIPアドレスが開示された。これにより、本件書き込みは、被告Yが運営するインターネット接続サービスDION経由と判明した。
Xは、Yへ、平成19年2月27日、発信者の情報を開示するよう依頼した。
Yは、平成19年6月6日書面で、権利侵害の明白性が認められないと回答した。
Xは、Yを訴えた。

[東京地裁]
民事26部は、次のように判断した。

  1. 本件書き込みは、違法性が強度で社会通念上許される限度を超える表現ではない。原告の権利が侵害されたことが明らかであるといえない。
  2. 原告による発信者情報の開示請求は理由がない。

Xの請求を棄却した。

[東京高裁]
第12民事部は、「気違い」という表現は、きわめて強い侮辱的表現で、差別用語で、名誉感情を侵害した。控訴人Xには、発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があるとして、

  1. 別紙目録記載の時刻頃に目録記載の書き込みを送信した者の氏名又は名称住所、電子メールアドレスを開示せよ。
  2. Yが開示請求に応じなかったのは、重大な過失で、これによるXの精神的苦痛に対する慰謝料として10万円、弁護士費用5万円

とし、これをXへ支払うようYへ命じた。

[最高裁]
第3小法廷(田原睦夫裁判長、藤田宙靖、堀籠幸男、那須弘平、近藤崇晴裁判官)は、東京高裁の判決中、損害賠償請求を認めた部分を廃棄し、同請求を棄却すべきものとした。発信者情報開示請求に関する上告は、上告受理申立理由が上告受理の決定において、排除されたので、棄却された。

最高裁の結論を冒頭に掲げたが、1審と3審最高裁が同じ判断をした。