大家重夫の世情考察

3,国内受け入れ体制

 当初、総理府に事務局を置く予定であったと思われる。
しかし、総理府総務長官が部下から突き上げられ、総理府に「難民対策室」、「難民対策課」という室や課を置くことを断ったらしい、という噂を聞いた。何人か、総理府プロパの知人もいたし、文部から総理府へ出向した者もいた。誰から聞いたか、もう覚えていない。総理府は、各省に跨がる業務を担当する事務室を多く抱えていた。青少年対策本部、北方対策本部、交通安全対策室、老人対策室、同和対策室…とたしかに多かった。その話を聞いて、尤もだなと思ったものである。
 うまみのない仕事には、どの省も権限争いはしない。難民を受け入れる業務は、これに当たる。
 そこで、各省が、難民事業のうち、各省が、自分の業務範囲の中で、仕事をする、内閣が連絡調整する、その事務局を内閣に置く、という形態になった。
 またその省庁の業務範囲に含まれなくても、他の省庁が(難民対策)事業を行っても、どの省庁も文句はいわない、ということも意味した。
 各省が一体となって、この事業を行うため、内閣に、「インドシナ難民対策連絡調整会議」をおき、その事務局を置くことにした。
この前に、「ベトナム難民対策連絡会議」が設けられ、1977年、総理府に「ベトナム難民対策室」が設置され、法務省入国管理局の黒木忠正氏が配属されていたから、その後身でもある。
 厚生省出身の翁官房副長官は、大平総理や田中六助官房長官から、受け入れ事業の事務局作りを命ぜられて、こういう仕組みを考案した。
 中心となる事務局長は、外務省が出すことになった。内政については不得意な外務省が前面に出ることになった。これは、大半の予算を外務省が負担することでもあった。
 外務省からの初代は、村角泰氏(注5)で、2代目は色摩力夫氏(注6)である。
色摩氏とは、のちのち、交遊が続く。色摩さんは、南米の大使ののち、浜松の常葉大学教授に就任され、著書論文多数の大変な学者で、のち、わたしが久留米大学の教員になってから、市民講座の講師として「オルテガ」などを講じて頂いた。夫人が佐賀県多久市のご出身のため九州へ喜んでおいで下さった。
 ナンバー2は、法務省の入国管理局から黒木忠正氏(注7)で、ボートピープル救助の事例が増えたため、1年前から内閣に出向していた。難民問題の一番の専門家である。法務省の2代目は桔梗博至氏(注8)である。村角、黒木両氏は、昭和55年度を終えると、本省に戻られたが、私は、56年度、3年目にもここにいたため、色摩さん、桔梗さんとも知り合えた。
 ナンバー3が私、難民を日本社会に受け入れる、そのためには、日本語教育が必要だ。そこで、文部省からも人を出せ、と内閣にいわれ、文部省の古村澄一総務課長は、課長級の人を出し、難民のために日本語教育を担当すると、内閣に伝えた。そして私が選ばれたのだった。
 厚生省と労働省が課長級の人を、何故、出さなかったのか、今も、私の疑問である。
 各省が一体となって、この事業を行うため、内閣に、「インドシナ難民対策連絡調整会議」をおき、その事務局員という格付けである。事務局員では格好が付かないので、「内閣審議官」という「身分」のような肩書きをいただき、名刺に、内閣審議官と刷り込んだ。
総理府の5階に、事務局を置く事になり、田中六助官房長官が墨書の看板を掛け、挨拶された。小倉出身のわたくしは、同じ福岡県田川の田中六助さんが、池田勇人番の日経記者であったこと、宏池会で、前尾繁三郎でなく、大平正芳を擁立した論功もあり、官房長官になったことをのちに知った。
 看板を掲げ、挨拶をされたとき、田中六助さんが、「インドシナ」というところを「インドネシア」と間違われて言われたことを思い出す。
 政務の内閣官房副長官は、加藤紘一衆院議員であったが、私は殆ど会っていない。
 翁内閣官房副長官は、温和な方で、ときどき、我々の部屋を覗いて、声をかけてくださった。


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中国政官データ[2016年5月版]

著者:大家 重夫(Shigeo Ohie)のご紹介

著者:大家 重夫(Shigeo Ohie)の写真

2013年 フランス ランスにて

プロフィール

1934(昭和9)年生まれ
久留米大学名誉教授・国際日本語普及
協会理事
LAIT(IT知財法務研究所)
客員研究員

京都大学法学部卒
1960年文部省(現・文部科学省)
1970年文化庁著作権課長補佐
1988年私立久留米大学法学部教授。
1995年久留米大学法学部長
2005年久留米大学特任教授・名誉教授
2011年日本ユニ著作権センターより
「著作権貢献賞」を受賞

主な著書に

  • 肖像権(1979年・新日本法規)
  • 改訂版ニッポン著作権物語(1999年・青山社)
  • タイプフェイスの法的保護と著作権(2000年・成文堂)
  • 唱歌『コヒノボリ』『チューリップ』と著作権(2004年・全音楽譜出版社)
  • 肖像権 改訂新版(2011年・太田出版)
  • 美術作家の著作権 その現状と展望
    (福王子一彦と共著・2014年・里文出版)
  • ウルトラマンと著作権
    (上松盛明氏と共編・2014年・青山社)
  • インターネット判例要約集(2015年・青山社)

などがある。

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