「自炊」事件

2015年10月8日

いわゆる自炊行為が違法とされ、株式会社サンドリームと有限会社ドライビバレッジジャパンが、書籍を電子的方法で複製することを禁止された事例である。

知財高裁平成26年10月22日判決(平成25年(ネ)第10089号、判時2246号92頁)
東京地裁平成25年9月30日判決(平成24年(ワ)第33525号)

原告は、小説家東野圭吾、浅田次郎、大沢在昌、林真理子、漫画家の永井豪、弘兼憲史、漫画原作者武論尊である。
被告は、株式会社サンドリーム(以下、サンドリーム)とY1、有限会社ドライバレッジジャパン(以下、ドライバレッジ)とY2である。

 紙の書籍を裁断して、スキャナーで読み取り、電子ファイルを作成し、インターネット上のダウンロード用サイトからダウンロードするか、電子ファイルを収録したDVD、USBメモリ等の媒体を配送して貰い、利用者(依頼者)は、iPadやKindle等の機器で読む、こういう利用者の自分用の電子書籍をつくる「自炊」の代行業者が出現した。代行業者は、サービス料金として、1冊100円から500円という。
 原告らは、2011年、代行業者約100社に、「自己(原告ら)の作品をスキャンして電子ファイルを作成することは、著作権侵害になる旨」の警告文、質問書を送付したが、被告サンドリームは、回答をせず、被告ドライバレッジは、スキャン事業を行わないと回答したが、注文を受けて、原告作品のスキャンニングを行った。

 そこで、原告らは、この2社に対し、原告らが著作権を有する別紙作品目録1~7の作品が多数含まれている蓋然性が高く、今後注文を受ける書籍にも含まれるであろうという蓋然性が高いとして、原告らの著作権(複製権)が侵害されるおそれがあるなど主張し、
被告サンドリームと被告Y1(サンドリームの代表取締役)、被告ドライバレッジと被告Y2(ドライバレッジの代表取締役)を相手に訴えた。すなわち、

  1. 著作権法112条1項に基づく差止請求として、法人被告らそれぞれに対し、第三者から委託を受けて、原告作品が印刷された書籍を電子的方法により複製することの禁止を求めるとともに
  2. 不法行為に基づく損害賠償として、
    1. 被告サンドリーム、Y1に対し、弁護士費用相当額として原告1名につき21万円(附帯請求として遅延損害金)
    2. 被告ドライバレッジ、Y2に対し、弁護士費用相当額として原告1名につき21万円(附帯請求として遅延損害金)の連帯支払を求めた。

[東京地裁]
民事29部の大須賀滋裁判長は、

    1. ロクラクII事件最高裁平成23年1月20日判決(第一小法廷判決・民集65巻1号399頁)を引用し、本件における複製は、書籍を電子ファイル化する点に特色があり、電子ファイル化の作業が複製における枢要な行為で、その枢要な行為は、法人被告らが行っていて、利用者でないとし、法人被告らを複製の主体とした。
    2. 被告側が、複製物は増加していない、との主張に対し、著作権法上の「複製」は、有形的再製それ自体をいうとし、有形的再製後の著作物及び複製物の個数にによって、複製の有無が左右されないとした。
    3. 法人被告らが原告らの著作権を侵害するおそれがあると認めるとし、原告らの著作権侵害112条1項に基づく差止請求は理由があるとした。
  1. 損害賠償について。
    1. 被告サンドリーム、Y1に対し、弁護士費用相当額として原告1名につき10万円(附帯請求として遅延損害金)
    2. 被告ドライバレッジ、Y2に対し、弁護士費用相当額として原告1名につき10万円(附帯請求として遅延損害金)の連帯支払を求める限度で理由がある、とした。

 ドライバレッジジャパンとY2が控訴した。 

[知財高裁]
4部富田善範裁判長は、「1,本件各控訴をいずれも棄却する。2 控訴費 用は控訴人らの負担とする。」とした。

 判決は、

  1. 一審とおなじく、複製する主体が、利用者でなく、被告・控訴人である、とした。すなわち、ドライビバレッジは、独立した事業者として、営利を目的としたサービスの内容を自ら決定し、スキャン複製に必要な機器及び事務所を準備・確保した上で、インターネットで宣伝広告を行うことにより不特定多数の一般顧客である利用者を誘引し、その管理・支配の下で、利用者から送付された書籍を裁断し、スキャナで読み込んで電子ファイルを作成することにより書籍を複製し、当該電子ファイルの検品を行って利用者に納品し、利用者から対価を得るサービスを行っている。ドライバレッジは、利用者と対等な契約主体で、営利を目的とする独立した事業主体として、サービスにおける複製行為を行っているから、サービスにおける複製行為の主体である、とした。
  2. ドライバレッジを利用者の「補助者」ないし「手足」と認めることもできないとし、著作権法30条1項の適用を否定した。
  3. 差止めの必要性があるとした。
  4. 損害賠償請求の成否と損害額について。原告・被控訴人は、訴訟提起を余儀なくされ、訴訟追行を弁護士に委任したと認められ、ドライバレッジは、少なくとも過失がある。
    Y2と共同不法行為責任を負う。諸事情を勘案し、被控訴人1名につき10万円が相当であり、ドライビレッジとY2は、連帯して、上記金額につき損害賠償の責任を負う。
利用者がそこへ行けば、スキャン複製の器具が完備し、利用者が自分で電子ファイルを作成し、電子書籍化できる。そういう事業所があり、複製の主体が利用者であると認められれば、現行法下で、「自炊」が可能である。

「参考文献」横山久芳「自炊代行訴訟判決をめぐって」ジュリスト1463号(2014年2月号)36頁。週刊新潮2012年1月5・12日合併号52頁。読売新聞2012年1月10日朝刊(多葉田聰記者)。島並良・法学教室2011年3月号(366号)2頁。 生田哲郎・森本晋「『自炊』代行サービスを著作権侵害と判断した事例」発明2013年12月号41頁。