「まねきテレビ」事件

2015年11月10日

日本のテレビ番組をインターネットにより、海外の日本人は視聴できるか。

知財高裁平成24年1月31日判決(平成23年(ネ)第10009号)
最高裁平成23年1月18日判決(民集65巻1号121頁、判時2103号124頁、判タ1342号05頁)
知財高裁平成20年12月15日判決(平成20年(ネ)第10059号判時2038号110頁)
東京地裁平成20年6月20日判決(平成19年(ワ)第5765号)

 海外の日本人がインターネット回線を通じて、日本のテレビ番組を鑑賞できるよう日本に居住するAが事業を始めた。
 Aは、コンピュータ、その付属機器の製造販売、電気通信事業法に基づく一般第2種電気通信事業等を目的とする会社である。
Aは、「まねきTV」という名の、インターネット回線を通じてテレビ番組が視聴できるサービスを入会金3万1500円、毎月5040円で、提供しようとした。サービスとは、利用者が購入したソニー製の「ロケーション・フリー」という機器をAの事務所に置いて、インターネット回線に常時接続する専用モニター又はパソコンで、海外の利用者が、インターネット回線を通じてテレビ番組を視聴できるようにするものである。
ロケーションフリーという機器は、地上波アナログ放送のテレビチューナーを内蔵し、受信する放送をデジタル化し、このデータを自動的に送信する機能を有する機器(ベースステーション)を中核的なものとした機器である。
原告B(NHK,TBSなど)は、放送局である。Bは、Aの事業は、放送局(放送事業者)に無断で、そのテレビ番組を放送する権利すなわち公衆送信権又は送信可能化権を侵害するとして、訴えた。

[東京地裁]
 1審東京地裁は、Bの請求を棄却し、Aは勝訴した。
理由は、

  1. ベースステーションが自動公衆装置に該当すれば、送信可能化権侵害になるが、そのためには、送信者にとって当該送信行為の相手方が不特定または、特定多数の者に対する送信をする機能を有する装置が必要である。ところで、ベースステーションの所有者が利用者であり、サービスを構成する機器類は汎用品で、特別なソフトウエアは用いられていない。従って、ベースステーションによる送信行為は、各利用者によってなされるものだ。ベースステーションは、1対1の送信をする機能で、自動公衆送信装置に該当しない、送信可能化権侵害は認められない。
  2. 自動公衆送信しうるのは、デジタル化された放送で、アナログ放送のままではインターネット回線で送信できない。アナログ放送をベースステーションに入力することは自動公衆送信し得るようにしたものでない。アンテナから利用者までの送信全体が公衆送信(自動公衆送信)に当たらず、公衆送信権侵害は認められない

とし、原告の請求を棄却した。

[知財高裁]
 2審知財高裁は、

  1. 送信可能化とは、自動公衆送信装置の使用を前提とする。
    本件では、各ベースステーションは、あらかじめ設定の単一の機器あてに送信する1対1の送信を行う機能を有するに過ぎない、自動公衆送信装置とはいえない。利用者がベースステーションに放送を入力するなどして、放送を視聴しうる状態に置くことは、放送の送信可能化に当たらない、送信可能化権侵害は認められない。
  2. ベースステーションが自動公衆送信装置に当たらないとすれば、本件サービスにおけるベースステーションからの送信が自動公衆送信としての公衆送信行為にも該当せず、ベースステーションについても送信可能化行為がなされているともいえない。公衆送信権侵害も認められない。

[最高裁]
 最高裁は、次のように述べて事件を知財高裁へ差し戻した。

  1. 公衆の用に供されている電気通信回線に接続することにより、当該装置に入力される情報を受信者からの求めに応じ自動的に送信する機能を有する装置は、これがあらかじめ設定された単一の機器宛てに送信する機能しか有しない場合であっても、当該装置を用いて行われる送信が自動公衆送信であるといえるときは、自動公衆送信装置に当たる。
  2. 自動公衆送信が、当該装置に入力される情報を受信者からの求めに応じ自動的に送信する機能を有する装置の使用を前提としているが、当該装置が受信者からの求めに応じて情報を自動的に送信することができる状態を作り出す行為を行う者が、その主体である。
    当該装置が公衆の用に供されている電気通信回線に接続しており、これに継続的に情報が入力されている場合には、当該装置に情報を入力するする者が送信の主体である。

 2審では、

  1. ベースステーションを自動公衆送信装置と認めなかったが、最高裁は、自動公衆送信装置と認めた。
  2. 2審では、利用者が主体であるとしたが、最高裁は、ベースステーションをその事務所に置き、管理し、ベースステーションに放送の入力をしているAを主体とした。

[知財高裁]
知財高裁は、本件放送の送信可能化及び本件番組の公衆送信行為の各差止を求める原告(NHK、日本テレビ、TBS、フジテレビ、テレビ朝日、テレビ東京)らの請求には理由があり、被告に対し、著作権及び著作隣接権侵害による損害賠償の支払いを求める原告らの請求も一部理由があるとし、次の判決を下した。

主文

  1. 原判決を取消す。
  2. 被告は、別紙目録記載のサービス(まねきTV)において、別紙放送目録記載の放送(NHKなどが放送波を送信して行う地上波テレビ放送)を送信可能化してはならない。
  3. 被告は、別紙サービス目録記載のサービスにおいて、別紙放送番組目録記載の番組(NHK「バラエテイー生活百科」など)を公衆送信してはならない。
  4. 被告は、原告NHKへ、50万9204円支払え。
  5. 被告は、原告日本テレビ、原告TBS、原告テレビ朝日、原告テレビ東京へ、それぞれ24万0663円支払え。
  6. 被告は、原告フジテレビへ、20万6517円支払え。
  7. 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

知財高裁は、ベースステーションに本件放送の入力をしている者は、被告であり、ベースステーションを用いて行われる送信の主体は被告であり、本件放送の送信可能化の主体は、被告である。被告の本件サービスによる本件放送の送信可能化は、原告らの送信可能化(著作隣接権)侵害、本件番組の公衆送信は、原告らの公衆送信権(著作権)侵害であるとした。

重要な判決で、多くの判例批評がある。

[参考文献]
島並良「自動公衆送信の主体」(「平成23年年度重要判例解説」281頁。
『ジュリスト』1423号(2011年6月1日号)(特集まねきTV/ロクラクⅡ最判のインパクト)小泉直樹「まねきTV・ロクラクⅡ最判の論理構造とインパクト」『ジュリスト』1423号6 頁、田中豊「利用(侵害)主体判定の論理ー要件事実論による評価」『ジュリスト』1423号12頁、上原伸一「放送事業者の著作隣接権と最高裁判決のインパクト」『ジュリスト』1423号19頁、奥邨弘司「米国における関連事例の紹介ー番組リモート録画サービスとロッカーサービス の場合」『ジュリスト』423号25頁、「まねきTV最高裁判決の解説及び全文」『ジュリスト』1423号32頁。最高裁判決について、岡邦俊「ロケーションフリー」テレビへの入力者は送信可能化権の侵害主体である。」『JCAジャーナル』2011年4月号62頁。山田真紀最高裁調査官・Law & Technology 51号95頁