インターネット・ショッピングモールの運営者は、同モールの出店者による商標権侵害行為について責任を負わない、とされた事例である。
原告Xは、イタリア法人であるペルフエツテイ・ヴァン・メッレ・ソシエタ・ペルアチオニ(Perfetti Van Melle S.p.A)で、商標「Chupa Chups」に関する登録商標を有している。
被告Yは、楽天株式会社で、自らインターネットショッピングモール「楽天市場」を運営している。
原告は、被告が運営する「楽天市場」というインターネットショッピングモールにおいて、被告が主体となって出店者を介し、あるいは出店者と共同で、あるいは幇助して、原告の商品の周知または著名表示若しくは原告の登録商標に類似する標章を付した各商品を展示又は販売(譲渡)する行為は、
と主張して、被告に対し、商標法36条1項及び不正競争防止法3条1項に基づき、上記の類似した標章を付した商品の譲渡等の差止めと民法709条及び不正競争防止法4条に基づく損害賠償金の支払を求め提訴した。
[東京地裁]
民事46部の大鷹一郎裁判長は、本件各出店者の出店ページに登録された右各商品の展示及び販売について、当該出店ページの出店者が当該商品の「譲渡」の主体で、被告は、その主体でない。Yの行為は、商標法2条3項2号の「譲渡のための展示」又は「譲渡」に該当しない、不正競争防止法2条1項1号及び2号の「譲渡のための展示」又は「譲渡」についても、商標法2条3項2号と同様に解するのが相当である、として、請求を棄却した。
[知財高裁]
第一部中野哲弘裁判長は、次のように述べ、控訴を棄却した。
この被告のようなサイトの運営者は、単に出店者によるウエブページの開設のための環境等を整備するだけでなく、運営システムの提供・出店者からの出店申込みの拒否・出店者へのサービスの一時停止や出店停止等の管理・支配を行い、出店者からの基本出店料やシステム利用料の受領等の利益を受けている。
このような事例で、ある出店者による商標権侵害があることを、サイト運営者が知ったとき又は知ることができたと認めるに足りる相当の理由があるに至ったときは、その後の合理的期間内に侵害内容のウエブページからの削除がなされない限り、右期間経過後から、商標権者は、サイトの運営者に対し、商標権侵害を理由に、出店者に対するのと同様の差止請求と損害賠償請求をすることができると解する。
本件において、商標権者からの指摘又は出訴等を切っ掛けとして、「楽天市場」運営者は、その8日以内に、本件商標権侵害品の展示を削除しており、商標権侵害の事実を知り又は知ることができたと認めるに足りる相当の理由があるときから合理的期間内にこれを是正した。「楽天市場」の運営が、商標権者の本件商標権を違法に侵害したとまではいえない。原判決は結論において誤りがない。控訴を棄却するとした。
[参考文献] 水谷直樹・発明2010年11月号37頁。