産能ユニオン会議室事件

2015年11月30日

インターネット上の掲示板会議室の管理者が他人の名誉を毀損する投稿を知ったときの削除義務等が議論された事例である。

東京地裁平成20年10月1日判決(平成18年(ワ)第23518号判時2034号60頁)

原告Xは、S大学を設置する学校法人である。
被告Yは、もとS大学助教授を務めていたが、裁判上の和解により、平成17年3月31日退職し、同年10月以降、S大学の教職員組合(産能ユニオン)代表者兼執行委員長を務めている。産能ユニオンは、インターネット上に「産能ユニオン 会議室」(本件掲示板)を設置していたが、平成16年9月17日から平成18年6月1日までの間に、投稿(1ないし15を総称して「本件各投稿」)がなされた。

原告Xは、この投稿は、被告Yが行なったとし、ア、本件各投稿が名誉毀損又は業務妨害に当たる、被告が全てを投稿していないとしても予備的に、掲示板管理者であるYが本件掲示板の削除義務を怠ったこと、又は本件投稿(9,13,14)を公開したことを理由とする損害賠償5850万円、イ、名誉毀損行為及び被告原告敷地に立ち入ったことが和解の債務不履行に当たり和解解除に基づく原状回復請求権として、500万円の支払を求めて訴えた。

民事32部の高部眞規子裁判長は、次のように判断した。

  1. まず、本件投稿について、Yの投稿は、7,8,10,11,12,15とした。
    掲示板の管理者の責任について、インターネット上掲示板に第三者による投稿が、自動的に公開される管理体制が採られている場合、意見して第三者に対する誹謗中傷を含むなど第三者の名誉を毀損することが明らかな内容の投稿については、右内容の投稿を具体的に知ったときは、第三者による削除要求がなくても削除義務を負う。これに至らない内容の投稿については、第三者から削除を求める投稿を特定した削除要求があって初めて削除義務を負う、とした。
  2. インターネット上の掲示板が、管理者による投稿内容の確認を経て公開される体制の下において、掲示板に第三者の名誉を毀損する投稿がなされた場合、掲示板管理者は、当該投稿を公開しない条理上の義務を負い、これに反して当該投稿を公開した場合には、速やかにこれを削除すべき条理上の義務を負う、とした。
     これにより、被告Yは、第三者の名誉を毀損する本件投稿9,13,14につき、自ら投稿した者と共に共同不法行為責任を負うべきであるとした。
  3. 本件投稿7,8,10ないし15は、原告Xの名誉毀損とした。これについて、真実と信じるにつき、相当の理由があるとは認めなかった。
  4. 被告は、原告は言論による対抗で、名誉回復を図ることが可能であったことを理由として、本件投稿7,8,10ないし15の違法性は、対抗言論の法理により、違法性が阻却されるべきだ、と主張したが、この主張も採用されなかった。
  5. 使用者であるXに関する表現行為である上記投稿が名誉毀損に当たる場合、被告Yの行為は、団結権に基づく正当な組合活動とはいえず、その範囲を逸脱しており、違法性が阻却されないとした。

以上により、高部眞規子裁判長は、(7,8,10ないし15の)名誉毀損行為によって原告Xの被った損害を400万円、弁護士費用50万円とし、

  1. 被告は、原告に対し、450万円及びこれに対する平成18年11月3日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
  2. 原告のその余の請求を棄却する。

(3,4省略)

と判決した。和解の債務不履行についての500万円は、和解条項において違反の場合の違約金の定めが明示されてなく、Xの主張は理由がないとした。

ネット上の名誉毀損等の背景には、学校法人とその労働組合委員長との紛争、対立がある。