エステックサロン名簿流出事件

2015年12月4日

エステックサロン経営社の管理するウエブサイトに送信した個人の氏名、住所、職業、電話番号等が流出し、プライバシー侵害で、経営者が敗訴した事件である。

東京地裁平成19年2月8日判決(平成14(ワ)7790号、平成15(ワ)7975号、平成16年(ワ)8051号、1部認容、1部棄却(控訴)、判時1964号127頁)

被告Yは、エステックサロンを経営する会社である。Yは、インターネット上にウエブサイト等を開設することにし、訴外A社((株)ネオナジー)とサーバーコンピュータのレンタル契約などを締結した。平成11年頃、Yは、ホームページの政策、保守についてもAと契約し、Yは、ホームページの閲覧者から、質問に対する回答を集めるなどして、そのサイトに送信した個人の氏名、住所、職業、電話番号、メールアドレス等の個人情報を保管し、蓄積していた。集積した個人情報は、サーバー内の特定の電子ファイル(本件電子ファイル)に格納され、本件電子ファイルへの第三者からのアクセスを拒否する設定がなされた状態で保管された。Yは、本件電子ファイルにアクセスし、これに格納された個人情報を被告の社内のパソコンに転送し、それを保管していた。

 平成14年3月、年々アクセス数が増加し、サーバーの容量が十分ではなくなったため、Aは、Yの同意を得て、本件ウエブサイトをY専用のサーバーに移設する作業を行った。
その際、本件本件電子ファイルは、インターネット上の一般の利用者が、特定のURLを入力することで自由にアクセスし、閲覧することのできる状態に置かれた。
同年5月26日頃、インターネット上に開設された掲示板「2ちゃんねる」に「大量流出!TBCのずさんな個人情報管理」との表題のもとに5種類のURLと「おなごの個人情報とかスリーサイズが丸見えじゃん」といった書き込みがなされた。AもYもそれまで全く知らなかった。

X1からX14までの14人が個人情報の流出により、プライバシー権侵害で訴えた。
原告X1からX14まで、それぞれ、115万円(慰謝料100万円、弁護士費用15万円)を請求し、それぞれ訴訟提起の日から支払済みまでの年5分の金員の支払を求めた。

民事15部(阿部潤裁判長、中里敦、丹下友華裁判官)は、

  1. 本件ウエブサイトからインターネット上に流出したことは、原告X等のプライバシーを侵害する
  2. Aが民法709条の不法行為責任を負う
  3. 被告Yは、Aに対し実質的な指揮、監督関係にあり、民法715条の使用者責任を負う
  4. 原告Xらは、情報流出事故で、精神的苦痛を受けている
  5. 原告X10を除く各被告は、2次的被害を受けており、各3万円の慰謝料が相当である
  6. 原告X10は、慰謝料1万7000円が相当である
  7. 弁護士費用として、各原告あたり、5000円が相当である

とした。

判決は、Yは、

  1. X1からX9までは、3万5000円
  2. X10に対し2万2000円
  3. X11からX13まで、に対し、各3万5000円
  4. X14に対し、3万5000円

それぞれ、訴訟提起日から支払済みまでの年5分の金員を支払うよう命じた。

少なくとも平成14年3月から平成14年5月26日頃まで、第三者の閲覧可能な状態に置かれ、原告のうち、早い者は、平成15年早々に訴訟提起している。
この判決は、事件発覚後、被告Yが、謝罪のメールを発し、全国紙に謝罪の広告をだし、発信者情報開示請求請求訴訟を提起し、保全処分事件の申立を行ったことを評価し、原告1人当たり、3万円としたと考えられる。筆者としては、このプライバシー侵害に対し、3万円はやや低すぎると思う。