MYUTA事件

2015年12月3日

CD等の楽曲を自己の携帯電話で聞くことのできる「MYUTA」という名称のサービスの提供は、許されるか。

東京地裁平成19年5月25日判決(平成18年(ワ)第10166号、判タ1251号319頁、判時1979号100頁)

 原告は、携帯電話向けストレージサービス等を業とする会社で、au WIN端末のユーザーを対象として、CD等の楽曲を自己の携帯電話で聴くことのできる「MYUTA」という名前のサービスを始めようと考えた。
 そこで、原告の行おうとする事業が円滑に行えるように、音楽著作権を多数管理している日本音楽著作権協会を被告として、被告(日本音楽著作権協会)が、「作詞者、作曲者、音楽出版者その他著作権を有する者から委託されて管理する音楽著作物の著作権に基づき、これを差し止める請求権を有しないことを確認する」との訴えを提起した。

 主要な争点は、次の通り。

  1. 複製権侵害の主体(本件サーバーにおける3G2ファイル(携帯向け動画音声ファイルの形式)の複製行為の主体)は、原告か、ユーザーか。
  2. 公衆送信、自動公衆送信がなされているか。なされているとして、その主体は誰か。

である。原告は、管理著作物が複製されていることは認めるが、行為主体は、ユーザーで、公衆送信に当たらないと主張した。

すなわち、本件サーバーからユーザーの携帯電話に向けた3G2ファイルを送信(ダウンロード)しているのは原告か、ユーザーか。自動公衆送信行為がなされたか、である。

東京地裁民事47部高部眞規子裁判長は、次のように判決した。

  1. 本件サーバーにおける3G2ファイルの複製行為の主体は、原告である。
  2. 本件サーバーからユーザーの携帯電話に向けた3G2ファイルを送信(ダウンロード)している主体は、複製と同様、原告である。
  3. 本件サービスを担う本件サーバは、ユーザーの携帯電話からの求めに応じ、自動的に音源データの3G2ファイルを送信する機能を有している。ユーザーによって、直接受信されることを目的として自動的に行われるから、自動公衆送信に当たり、その主体は原告である。
  4. 本件サーバーにおける音楽著作物の複製及びユーザーの携帯電話への自動公衆送信も原告が行っている。

これらの原告の行為は、被告の承諾がなければ、被告の著作権を侵害するものである。
本件サーバーにおける音楽著作物の蔵置及びユーザーの携帯電話に向けた送信につき、被告は差止請求権を揺する。よって、原告の請求は棄却する。

この事件は、CD等の楽曲を携帯電話で聴くことができるように音楽データのストレージサービス提供事業というビジネスモデルが、適法であるかどうか、を事業開始前に、裁判所の判断を仰いだ訴訟という点で、田中豊弁護士は、原告を高く評価している。同感である。

[参考文献]
田中豊「著作権侵害とJASRACの対応ー司法救済による権利の実効性確保」(紋谷暢男編「JASRAC概論ー音楽著作権の法と管理」(日本評論社・2009年)151頁、特に188頁)
相澤英孝「知的財産法判例の動き」『ジュリスト』1354号「平成19年度重要判例解説」286頁。