ヤフー電子掲示板発信者事件

2015年12月15日

インターネット上の掲示板に記載された情報で、名誉、プライバシー、名誉感情を傷つけられたとして、プロバイダ責任制限法により発信者情報開示が認容され、損害賠償請求は棄却された事例。

東京地裁平成16年11月24日判決(平成15年(ワ)第6540号、判タ1205号265頁)

原告Xは、田中次郎である。被告Yは、ヤフー株式会社である。

Yは、電気通信事業法に基づく一般第2種電気通信事業等を行う株式会社で、インターネット上で、「Yahoo!掲示板」を設営している。この掲示板に投稿するには、利用者は、Yに対して、住所氏名と「Yhoo!JAPAN ID」とパスワードを申告、YからIDが付与されることが必要である。利用者が掲示板に投稿しても、申告した住所氏名は表示されない。IDを取得した利用者は、プロフィールを公開することが可能で、これに本名真実の住所などを公開する必要もない。

 Xは、何者かによって、自己の名前のイニシヤルJとXの苗字のローマ字記載を連結した(j.tanaka.仮名)を取得され、同IDを使用してYが提供するサービスの1つ、公開プロフイールに、Xが持っている携帯電話番号が記載され、職業欄に知的障害者、住所欄は、精神病院隔離病棟などと記載され、Yが運営する掲示板にも、同IDを使用して携帯電話番号が書き込まれていた。さらに、他のID(bu)を使用して掲示板に、j.tanaka を侮辱する投稿がなされ、buから自己のIDに侮辱的な電子メールが送付された。
 そこで、Xは、各ID(j.tanaka,bu)を使用して、投稿等を行った者の発信者情報の開示を請求し、Yが、Xから前記投稿等の削除要求を受けながらこれを放置したとして、不法行為に基づく損害賠償請求をした(Yは、1週間後削除した)。
 Yは、電子メールは、プロバイダ責任制限法4条1項の特定電気通信による情報に該当しない、前記投稿の1部は、Y運営の掲示板へのものでない、j.tanakaは、個人として特定できないからXの名誉を毀損をしない、携帯電話番号は一般に公開されていないから、プライバシー侵害は不成立と主張した。

[東京地裁]
民事第5部の長秀之裁判長は、次のように判断した。

  1. 本件投稿等及び本件メールは、「特定電気通信による」情報にあたるか、について。
    プロバイダ責任制限法2条1号「特定電気通信」とは、不特定多数の者によって、受信されることを目的とする電気通信をいうから、「投稿」は、特定電気通信に当たるが、電子メールは、当たらない。
  2. 各投稿は、いずれもYが運営する掲示板に投稿されたものであり、職業欄に知的障害者、住所欄に精神病院隔離病棟などと記載するのは、Xへの名誉毀損であるとした。
  3. 上記掲示板に、個人名、携帯電話の電話番号、またj.tanakaと携帯電話番号を併記したことは、プライバシー侵害に当たるとした。 これにより、上記各投稿の発信者情報の開示を命じた。
  4. 損害賠償請求については、Yが、Xからの削除請求があってから1週間後に削除しており、遅きに失したと言えない、として、棄却した。

[判決主文]

  1. 被告は、原告に対し、別紙侵害情報目録記載1の1、1の5の各公開プロフイール並びに同目録記載1の2,1の3の1,1の4の1及び2,1の6,2の1の1,2の1の3ないし6,2の2の2及び3の各投稿に係る者の氏名又は名称、住所、発信者の電子メールアドレス、上記各公開プロフイール及び上記投稿に係るIPアドレス、同IPアドレスを割り当てられた電気通信設備から被告の用いる特定電気通信設備に上記各公開プロフイール及び上記各投稿が送信された年月日及び時刻の発信者情報を開示せよ。
  2. 原告のその余の請求を棄却する。(あと訴訟費用は省略)
電子掲示板への投稿、電子メールは「特定電気通信」に当たるか。