2ちゃんねる削除義務放置事件

2015年12月14日

インターネットの運営者はどんな責任があるかが論ぜられた事件である。

東京高裁平成17年3月3日判決(平成16(ネ)第2067号、判時1893号126頁。)
東京地裁平成16年3月11日判決(平成15年(ワ)第15526号)

 インターネットの運営者は、どういう責任を負うか、という事件である。
書籍に掲載された対談記事(原告ら2名が著作権共有)が、ある利用者によりそのまま「2ちゃんねる」に転載され、送信可能化され、アクセスした者に自動公衆送信された。
対談者の1人が、「2ちゃんねる」の運営者に対し、「運営者は著作権侵害を行っている」との警告をし、対談記事の削除を求めて、訴えた。
 原告は、対談記事の発言者、被告は、「2ちゃんねる」の運営者である。

[東京地裁]

  1. 裁判所は、自動公衆送信又は送信可能化差止請求について、相手方が、現に侵害行為を行う主体となっているか、あるいは侵害行為を主体として行うおそれのある者に限られる。被告は、書き込みの内容をチェックしたり、改変したりすることはできず、運営者である被告は、侵害行為を行う主体でない、とした。
  2. 発言者から削除要請があるにも拘わらず、ことさら電子掲示板設置者が要請を拒絶したりすれば、著作権侵害の主体と観念され、差止請求も許容されようが、本件ではその事情はない。プロバイダー責任制限法に照らし、本件では、被告が送信防止装置を講じた場合、同法による発信者に対する損害賠償責任が免責される場合に当たらない、発信者から責任追及されるおそれあり、また被告に送信可能化又は自動公衆送信を止める義務なし。

 原告敗訴。原告控訴。

[東京高裁]
2審では、逆転し、原告が勝訴した。
(1),電子掲示板の設置者は、書込まれた発言が著作権侵害(公衆送信権侵害)に当たるとき、侵害行為を放置しているときは、放置自体が著作権侵害行為と評価すべき場合がある。電子掲示板の運営者は、著作権侵害となる書込みがあったと認識した場合、適切な是正措置を速やかにとる義務がある。著作権侵害が極めて明白な場合、ただちに削除するなど、速やかに対処すべきである。本件の場合、被告は、本件発言がデッドコピーで、著作権侵害と容易に理解し得た。発言者に照会もせず、是正措置をとらなかった。被告は、故意過失により著作権侵害に加担したと評価できる。原告著作権者が、著作権侵害者の実名、メールアドレス等発信者情報を得ることはできず、削除要請が容易であるとは到底言えない。被告は、著作権の侵害者である、とした。

山本隆司「コピライト」2004年8月号20頁は、1審東京地裁判決に対して、17頁にわたり批判的に判例紹介をしている。田中豊も「コピライト」同号7頁(講演録)において東京地裁平成16年3月11日判決に批判的である。草地邦晴・知財管理55巻13号2007頁は、2審東京高裁判決を「貴重な事例を提供するもの」として、好意的である。