花画像デジタル写真集事件

2015年12月2日

携帯電話の待受画面用に1日1枚1年分として、花の画像を365枚集めたデジタル写真集について、その著作権の譲渡を受けた者が、週1回1枚ずつその画像を携帯電話の待受画面として配信した行為は、編集著作物としてのデジタル写真集の同一性保持権を侵害するものではない、という事例である。

知財高裁平成20年6月23日判決(平成20年(ネ)第10008号、判時2027号129頁)
東京地裁平成19年12月6日判決(平成18年(ワ)第29460号

 原告Xは、主として四季の風景、野花などの自然写真の撮影、発表を専門とする写真家で「四季の肖像」(1994年)等の写真集を出版している。
被告Yは、通信システム等の製造・販売等を業とする富士通株式会社で、インターネット上に同社製造のiモード対応携帯電話利用者のための「@Fケータイ応援団」というサイト(本件サイト)を開設している。

Xは、1日1枚、日めくりカレンダー用に、花の写真365枚を画像データにした、デジタル写真集(本件写真集)を作成した。
2003年、Yは、子会社の富士通パレックスを通じて、この携帯電話向け画像について、画像に関する権利をXから237万7500円で、譲渡を受けた(1枚7500円×365=237万7500円)。
Yは、平成15年6月27日から、週1回、1枚の割合で、本件写真集の写真の配信を行ない、平成17年7月15日にすべての配信を終了した。
平成20年、Xは、Yに対し毎日である各配信日に、対応する写真を用いなかったことは、編集著作物である本件写真集の同一性保持権等の侵害であるとして、不法行為による損害賠償額として慰藉料273万7500円と遅延損害金の支払いを求めて訴訟を提起した。

[東京地裁]

  1. 本件写真集は、著作権法12条の編集著作物か。
  2. 週1回の配信行為は、著作権法20条1項の同一性保持権の侵害か。
  3. 週1回の配信方法にXは、明示又は黙示の同意があったか。

の争点について、原被告の主張が行われた。

東京地裁は、3.についてのみ判断し、花の写真が毎週1回の割合で更新してYが配信することにXは、Yに対して黙示の同意を与えていたとして、Xの請求を棄却した。

[知財高裁]

次のように判断した。

  1. 本件画集は、編集著作物である。
  2. 編集著作権の譲渡を受けたYが、概ね7枚に1枚の割合で、X指定の応当日前後に配信していて、いわば編集著作物たる本件写真集について、公衆送信の方法で、その1部を使用するもので、Xから提供を受けた写真の内容に変更を加えていない。著作権法20条1項の「変更、切除その他の改変」の文理的意味からして、配信行為が同一性保持権を侵害していない。

本件控訴を棄却するとした。

編集著作物かどうか、そうだとしてもこのような使い方は、侵害でない、という結論が正いと思う。

[参考文献]
井関涼子・Law &Technology49号40頁(2010年10月)
堀江亜以子・発明2009年5月号52頁。
平澤卓人・知的財産法政策学研究24号259頁(2009年9月)