社保庁LAN電子掲示板事件

2015年12月2日

ジャーナリストが週刊現代に掲載した記事を社会保険庁の職員が、社会保険庁のLANシステムの中の新聞報道等掲示板にそのまま掲載し、ジャーナリストから訴えられた事件である。

東京地裁平成20年2月26日判決(平成19年(ワ)第15231号)

原告は、ジャーナリストで、社会保険庁に関する記事(本件著作物)を株式会社講談社発行の「週刊現代」に掲載した。
社会保険庁は、社会保険庁LANシステムを管理運営しているが、その電子掲示板に、社会保険庁の職員が、平成19年3月19日、同年4月2日、同年4月9日、同年4月16日に原告の本件著作物を掲載した。同年6月8日、本件掲示板を一旦閉鎖した。

原告は、被告国に対して、複製権および公衆送信権の侵害であるとして、本件LANシステムからの本件著作物の削除と掲載の差止めと374万円の損害賠償を求めて訴えた。
被告国は、著作権法42条1項「行政の目的のために内部資料として必要と認められる場合」にあた利、複製権侵害でない、その後の複製物の利用行為である公衆送信行為は、その内容を職員に周知させるという行政目的を達するためのもので、著作権法49条1項1号により、複製権侵害とみなされるべきでなく、著作権法42条の目的達成の行為であるから公衆送信権侵害でない、と主張した。

「東京地裁判決」
民事46部設楽隆一裁判長は、社会保険庁職員による本件著作物の複製は、公衆送信権侵害であると判断し、次のように判決した。

将来の掲載行為の予防的差止請求は、理由があるとして、

  1. 被告は、社会保険庁が運営する社会保険庁LANシステムの電子掲示板用記録媒体に別紙目録記載の著作物を記録し、又は当該著作物を公衆の求めに応じ自動送信させてはならない。
  2. 被告は、原告に対し、42万0500円及びこれに対する平成19年4月17日から支払い済みまで年5分の割合による金員を支払え。

本件著作物の公衆送信権侵害行為により、原告が被った損害額は、22万0500円とし、弁護士費用20万円、合計42万500円としたのである。

明治32年から昭和45年末まで施行された旧著作権法30条第9は、「専ラ官庁ノ用ニ供スル為複製スルコト」は、著作権侵害にならないと規定していた。

[参考文献]岡邦俊・JCAジャーナル55巻5号54頁。