眼科医対電子掲示板事件

2015年12月22日

電子掲示板に医療法人の名誉信用を毀損する書き込みがなされ、医療法人が発信者情報の一部を把握している場合に、プロバイダ責任制限法4条の要件が肯定された事例。

東京地裁平成15年3月31日判決平成14年(ワ)第11665号判時1817号84頁、金判1168号18頁

 原告は、E眼科という名称で全国に眼科病院を運営する医療法人である。
 被告は、インターネット上で、電子掲示板を管理運営する者である。

 訴外のAが、平成14年2月16日、ハンドルネームBを名乗って、本件掲示板に、「E眼科のセミナーにいってきた。投稿者B。あのヤロー他院の批判ばかりだよ。Mが裁判かかえてるて。お前のところは、去年3人失明させてるだろうが!」というメッセージを書き込んだ。
 原告は、少なくともこの情報により1名の患者が手術取消をし営業利益を侵害されたこと、平成13年に患者が3人失明した事実はないこと。原告は、訴外Aと面談し、同人の住所氏名は、入手したこと。これは、名誉毀損、信用毀損であり、損害賠償請求権を行使するため、発信者情報の開示を求めるとし、「特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律」(プロバイダ責任制限法)4条の正当な理由があると主張し、被告に開示を求めた。また、原告はすでに訴外Aと面談しているが、Aが、原告と競業関係にある病院を運営する医療法人の理事長が経営する会社の正社員であったことから、医療法人へも損害賠償請求を検討中で、そのため本件発信情報が訴外人の個人のパソコンから発信されたか、勤務先のパソコンからの発信からか、知る必要があるとして、発信者情報の開示を求めて訴えた。

[東京地裁判決]
東京地裁民事6部の高橋利文裁判長は、原告(被害者)が発信者情報の一部を把握し、送信行為自体をおこなった者が特定されているような場合であっても、その余の発信者情報の開示を受けることにより、当該侵害情報を流通過程に置く意思を有していた者すなわち、当該送信行為自体を行った者以外の「発信者」の存在が明らかになる可能性がある、として、発信者情報の開示を受けるべき必要性があるとし、原告の請求を認容した。

平成13年11月22日成立し、平成14年5月27日施行の「特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律」(平成13年法律第137号)の4条をめぐる初めての裁判例である。動画無断使用事件(東京地裁平成25年10月22日判決平成25年(ワ)第15365号)参照。

[参考文献]
長谷部由紀子「プロバイダ責任制限法による開示命令(1)」『別冊ジュリスト』「メデイア判例百選」179号230頁。