本と雑誌のフォーラム事件
2016年1月4日
ニフテイサーブ「本と雑誌のフォーラム」での名誉毀損事件である。
東京地裁平成13年8月27日判決(平成11年(ワ)第2404号、判時1778号90頁判タ1086号181頁)
Yは、インターネット上の電子掲示板の運営会社。
Xは、Yが提供するニフテイサーブの会員として、「本と雑誌のフォーラム」において、ID番号とハンドル名で意見表明をしていた。匿名で参加してきたAの第三者宛コメントに対しXが、「私に対する個人的侮辱だ」と発言し、Aが「やれやれ、妄想系ばっかりかい、この会議室は(笑)?」と応じ、言論による20通の書き込みの応酬がつづいた。
Xは、Yに対し、
- YがAの不法行為に対し適切な措置をとらなかったため、Xが精神的苦痛を被ったとして、債務不履行ないし不法行為により損害賠償を請求し、
- Yが発信者Aの契約者情報(氏名、住所)の情報を開示せず、Xの名誉権回復を妨害しているとして、
人格権による差止請求権及び不法行為に基づく妨害排除請求権を根拠に、Aの契約者情報(氏名、住所)を請求した。
[東京地裁判決]
原告の請求を棄却した。
- 言論による侵害に対し、言論で対抗するというのが表現の自由の基本原理であり、被害者が、加害者へ十分な反論をし、それが功を奏した場合、被害者の社会的評価は低下していないから、このような場合、不法行為責任を認めることは、表現の自由を萎縮させるおそれがあり、相当と言えない。
- 本件において、「会員であれば、自由に発言することが可能であるから、被害者が、加害者に対し、必要かつ十分な反論をすることが容易な媒体であると認められる。」
「被害者の反論が十分な効果を挙げているとみられるような場合には、社会的評価が低下する危険性が認められず、名誉ないし名誉感情毀損は成立しない」
- 「被害者が、加害者に対し、相当性を欠く発言をし、それに誘発される形で、加害者が、被害者に対し、問題となる発言をしたような場合には、その発言が、対抗言論として許された範囲内のものと認められる限り、違法性を欠く」
- 「Aは、Xに対し、不法行為責任を負わない。よって、Aに不法行為が成立することを前提としたXのYに対する本件請求は」「理由がない。」
[参考文献]
山口成樹・別冊ジュリスト179号「メイデイア判例百選」226頁(2005年)。
大須賀寛之・ニフテイーサーブ「本と雑誌のフォーラム」事件・(岡村久道編「サイバー 判例解説」96頁)