弁護士対行政書士事件

2015年10月26日

控訴人(一審被告、行政書士)が自らのブログに掲載した被控訴人(一審原告、弁護士)に関する記事の内容は、控訴人の意見ないし論評にすぎないか、事実の摘示に当たる部分も虚偽とは認められないとして、一審は被控訴人(弁護士)の請求を一部認めたが、二審は、かかる記事の掲載は不正競争防止法の違反にならぬとして、被控訴人の請求を棄却した事例である。

知財高裁平成25年9月25日判決(平成25年(ネ)第10004号)
東京地裁平成24年12月6日判決(平成24年(ワ)第11119号)

原告は、東京都千代田区で「神田のカメさん法律事務所」を開設している弁護士である。
被告は、清瀬市内で「かなめ行政書士事務所」を開設している行政書士である。

被告は、モバイル用URLを開設し、そのブログで、平成23年6月9日、「南洋株式会社」と題する記事を書き、「この会社も社債を募集していますが、どうなんでしょう?」、南洋株式会社の有価証券を購入すれば、これを担保に先物取引で被った損失を取り戻せるという電話を受けた相談者への回答として「被害回復型の詐欺だと思います…損失を取り戻すと言って釣っておいて、南洋株式会社の社債を買わせようとしているんだと思います」などと書いた。
原告は、南洋株式会社から記事の削除を依頼され、被告へ記事の削除を求めたが、被告は拒否した。原告は、平成23年10月17日、東京都行政書士会長へ、被告は行政書士12条違反などの行為をしている、ブログの削除等の指導や対応を求めた。
被告も同月31日、東京弁護士会に、原告への懲戒を求めた。
南洋株式会社は、原告を代理人として、被告のブログが掲載されているニフテイ株式会社に対し人格権に基づき、本件各先行記事等の削除を求める仮処分命令を申立て、平成23年12月25日、本件第二先行記事の削除を命じる判決を得た。
被告は、原告への懲戒請求手続きにおいて、原告が提出した答弁書を被告のブログなどに掲載した。原告は、著作権に基づき、答弁書の削除を求める仮処分命令を出すよう東京地裁へ申し立てた。

平成24年5月、原告は、不正競争防止法2条1項14号、3条を根拠に訴訟を提起した。

  1. 被告は、インターネット上の「かなめ行政書士事務所」ブログ、モバイル用URLその他のブログ電子掲示板等へ別紙記事目録の記事を掲載してはならない。
  2. 被告は、インターネット上の「かなめ行政書士事務所」ブログ、モバイル用URLに掲載している別紙目録の請求欄記載の記事を削除せよ。
  3. 被告は、原告に対し、744万円及びこれに対する平成24年5月2日から支払済みまで年5分の割合の金員を支払え。

1審の東京地裁17部(高野輝久、志賀勝、小川卓逸)は、次の判決を下した。

  1. 被告は、インターネット上の「かなめ行政書士事務所」ブログ、モバイル用URLその他のブログ、電子掲示板等へ別紙記事目録の記事を掲載してはならない。
  2. 被告は、インターネット上の「かなめ行政書士事務所」ブログ、モバイル用URLに掲載している別紙目録の主文欄記載の記事を削除せよ。
  3. 被告は、原告に対し、50万円及びこれに対する平成24年5月2日から支払済みまで年5分の割合の金員を支払え。(以下省略)

 すなわち、一審判決は、原告が虚偽の記事であると主張する12件の記事の内、9件の記事について、原告の営業上の信用を害する虚偽の事実の流布に当たる部分があるとして、その掲載の禁止及び削除並びに損害賠償を命じた。
2審判決(設楽隆一、田中正哉、神谷厚毅)は、被控訴人の請求はいずれも理由がないとし、原判決が、被控訴人の請求の一部を認めていた部分を取り消して、被控訴人の請求をいずれも棄却した。

「主文」

  1. 原判決中控訴人敗訴部分を取り消す。
  2. 上記部分につき、被控訴人の請求をいずれも棄却する。
  3. 訴訟費用は、第1、2審を通じて、被控訴人の負担とする。」
1審判決と2審判決が全く違っている。