個人情報流出事件

2015年12月9日

インターネット接続サービスの加入者の個人情報が外部に流出したことにつき、サービス業者に不正アクセス防止につき過失があるとして、会員のサービス業者に対する慰藉料請求が認容された事例である。

大阪地裁平成18年5月19日判決(平成16年(ワ)第5597号(甲事件)・同17年(ワ)第4441号(乙事件)、判時1948号122頁)

原告は、甲事件3名、乙事件2名で、いずれも「Yahoo!BB」という非対称加入者線伝送(ADSL)方式等を用いたインターネット接続サービス及びこれに付随するメールサーバーのレンタル等の総合電気通信サービス(以下、本件サービス)の会員である。
被告Y1は、BBテクノロジー株式会社である。
被告Y2は、ヤフー株式会社である。

Y1Y2は、「Yahoo!BB」の統一名称を用いて、電気通信事業法にいう電気通信事業にあたる本件サービスを顧客に提供している。
原告等は、いずれも平成16年1月までに、被告らそれぞれと本件サービスに係る契約を締結し、本件サービスに入会した。
Bは、Y1へ業務委託先から派遣され、顧客データベースのメンテナンスやY1会社のサーバー群の管理業務に従事していたが、Bの知人Cと共に、顧客データベースに含まれる顧客情報を外部に転送し、Cのハードデスクに保存して不正に取得、この不正取得された顧客情報はCを通じて恐喝の実行犯であるDに渡った。
原告等は、Y1及びY2が個人情報の適切な管理を怠った過失等により、自己の情報をコントロールする権利を侵害されたとして、被告らは、甲事件原告らにそれぞれ各自10万円、被告らは乙事件原告等にそれぞれ、各自10万円支払うよう求めて訴訟を提起した。

[大阪地裁]
民事11部山下郁夫裁判長は、次のように判断した。

  1. Y1は、リモートメインテナンスサーバーを設置し、リモートアクセスを可能にしたが、情報漏洩の危険性に鑑み、必要な範囲に限り、相当な措置を講じてアクセスを許すべきであったこと、Y1は、Bが退職後に知り得た情報を悪用しないように、ユーザー名の削除、パスワードの変更をすべきであったのにBの退職後も長期間これを放置したこと、本件不正取得について、Y1は予見が可能で、結果回避の可能性があった、とした。
  2. しかし、Y2は、Y1と管理している情報の範囲が異なり、利用料の徴収業務、クレジットカード番号の決済情報の保有であって、その管理している顧客情報は、他に流失していないこと、Y2が、Y1の顧客情報を適切に管理監督する義務もないので、Y2は、Xらに対する不法行為責任は、ないとした。
  3. 判決は、Y1は、甲事件原告等それぞれに対し、各自6000円及び遅延利息を支払うよう命じた。また、判決は、Y1は、乙事件原告等それぞれに対し、各自6000円及び遅延利息を支払うよう命じた。6000円の内訳は、各原告等の精神的苦痛に対する慰藉料として、1人当たり5000円、弁護士費用1人当たり1000円である。
判決の慰謝料の金額は、低すぎる。