ネットで知合った女性をモデルにして、小説「狂人失格」を出版した作家中村うさぎが名誉毀損、プライバシー権侵害で訴えられ、100万円の損害賠償が命ぜられた事例である。
作家Y(中村うさぎ)は、ネットで、原告Xと知合い、その後、面談し、共著の本を出そうかという話もあったが、その計画は中止になった。
Yは、A出版社のPR誌に連載ののち、平成22年2月、A出版社から小説「狂人失格」を5000部発行した。この小説は、女性作家が、一人の有名になりたい女性と知合い、その女性との交流を通して、その女性の中に、自己顕示欲や作家自身の姿があることを剔抉し、哲学的自問自答を描いた作品である。
Xは、当初は、この小説の出版に異議を唱えず、かえって、A出版社に自らの著作の出版や、著名人のとの対談企画を提案したり、みずから自己が管理するウエブサイトに、Yの「狂人失格」のモデルは、自分であるとの宣伝活動をした。
平成23年、Xは、本件小説により、名誉を毀損され、プライバシー権を侵害されたとして、1000万円の損害賠償を請求した。
大阪地裁堺支部中村哲裁判長は、プライバシー権侵害、名誉毀損を認め、原告の被った精神的苦痛を金銭的に評価し、100万円の損害賠償の支払いを命じた。
[参考文献]
大家重夫「中村うさぎ『狂人失格』事件を読む」マーチャンダイジングライツレポート2013年7月号52頁