ワットシステム対東京国税局事件

2015年12月8日

東京国税局がそのホームページに、原告株式会社のホームページの記載は、事実に反する部分があるとの注意文書を掲載し、公表したことは公務員による適切な職務行為であり、名誉毀損、信用毀損による不法行為の成立が否定された事例である。

東京地裁平成18年6月6日判決(平成17年(ワ)第11648号(第一事件)・第27297号(第二事件)判時1948号100頁)

原告X1(株式会社ワット)は、平成11年8月設立の株式会社で、

  1. 視聴覚機器、文具事務機器の販売及び輸入
  2. 情報通信、情報処理機器の販売、輸入等及びこれらに附帯する一切のレンタル事業等

を目的としている。

原告X2は、X1の代表取締役である。

X2は、償却資産すべてを対象とした全企業向けのサービスを展開するビジネスモデル(ワットシステム)を考案し、X1において、この事業を取り扱うことを考えた。
X1X2は、この事業が、法人税法、所得税法でどのように取り扱われるか、東京国税局に行き、課税第1部審理課を訪問したり、文書で照会したりした。
X1は、そのホームページに、東京国税局が事前照会に対する回答により、ワットシステムの税務面での効果を承認しているかのような内容の記載を行った。
この記載を見て、東京国税局は、X1又はX2へ、X1のホームページの内容の削除又は訂正を要求するなどし、また、東京国税局のホームページにおいて、「誤解を招くホームページにご注意ください」との見出しで、X1X2の実名を挙げて、X1のホームページの記載中に事実に反する部分があるとの内容の注意文書を掲載し、公表した。

平成17年、X1及びX2は、この公表がXらの名誉・信用を毀損する不法行為であるとし、これにより無形の損害を被たとして損害賠償を求め訴えた。

東京地裁民事48部(水野邦夫裁判長)は、

  1. 本件注意文書の掲載行為について、法律上の根拠は要しない。
  2. X1のホームページの記載内容の真実性について広く、国民に情報提供するという目的は正当である。東京国税局は、一般納税者がX1ホームページ記載内容を真実と誤信、不測の損害発生を防ぐため、X1のホームページの内容が真実に反するとの情報提供の必要があった。
  3. 本件注意文書の内容が摘示する事実について真実性がある。
  4. 本件注意文書を国税局がそのホームページにおいて公表することは、手続保障の精神がみたされ、公務員による適切な職務行為であり、違法性が阻却される。

として、X1及びX2の請求を棄却した。

ホームペ-ジ同士のやりとりで、東京国税局を相手に訴訟提起した珍しい事例である。