ロックバンド「HEAT WAVE」事件

2015年12月4日

1997年著作権法改正で規定された「実演家の送信可能化権」は、ロックミュージシャンがもっているか、レコード会社へ譲渡されていたか、が争われ、原告Xミュージシャンが原始的に取得し、同時に、訴外Aレコード会社へ譲渡され、のちその地位を承継した被告Yレコード会社に承継された、と判断した事例である。

東京地裁平成19年4月27日判決(平成18年(ワ)第8752号、平成18年(ワ)第16229号)

原告X1、X2,X3は、ロックミュージシャンで、1979年から2001年まで、X1がリーダーだった「HEAT WAVE」という名称のロックバンドのメンバーであった。
被告Y((株)エピックレコードジャパン)は、著作権及び著作隣接権の取得、管理等を目的とするレコード会社である。

1989年9月1日、Xら3人は、Xらが所属するマネジメント会社Aの代表者とレコード会社Bの3者の間で、(Xらが、Bの専属実演家になる)という「専属実演家契約」を結んだ。この契約の中に「4条 本契約に基づく原盤に係る一切の権利(原告等の著作隣接権を含む)は、何らの制限なく原始的且つ独占的にBに帰属する。」とあった。
この契約の後、1998年、インターネットに対応した著作権法が改正され(平成10年法律第101号)、実演家には、新たに送信可能化権が認められた(92条の2)。
2001年10月1日、Bの上記契約上の地位が、新設のYへ移転した。
Xらは、上記契約により、Bに帰属する権利の中に「送信可能化権」は、含まれていない、Yに承継されていない、と主張し、Yへ「各音源について、実演家の送信可能化権を有することを確認する」との訴えを起こした。

東京地裁民事第40部市川正巳裁判長は、「本件音源についての実演家の送信可能化権も、本件契約4条柱書きの『一切の権利(Xらの著作隣接権を含む)』に含まれ、平成10年1月1日に著作権法92条の2が施行された時点で、Xらが原始的に取得すると同時に、Bに対して譲渡され、その後、Yに承継されたものというべきである。」とした。

法律や契約書に関心を持たない実演家が多い中で、自分の音楽がパソコン向けに配信されたことを知り、ネット音源配信については、許諾していない、と気つき、Xらが権利主張をしたことは、勝敗は別として、非常に素晴らしい。

[参考文献]
升本喜郎「譲渡契約の解釈(1)」著作権判例百選[第4版]140頁。
田中豊「」コピライト561号23頁。
藤野忠「知的財産法政策学研究」19号313頁。