ロクラクII事件

2015年11月16日

インターネット通信によるTY番組ネット送信サービスは、著作権侵害、著作隣接権侵害か、という事件である。

知財高裁平成24年1月31日判決(判時2141号117頁。)
最高裁第一小法廷平成23年1月20日判決(民集65巻1号399頁判時2103号128頁判タ1342号100頁)
知財高裁平成21年1月27日判決(平成20年(ネ)第10055号、10069号)
東京地裁平成20年5月28日判決(判時2029号125頁判タ1289号234頁)

[東京地裁]
原告は、日本放送協会、日本テレビ放送網(株)、(株)静岡第一テレビ、(株)東京放送、静岡放送(株)、(株)フジテレビ、(株)テレビ静岡、(株)テレビ朝日、(株)静岡朝日テレビ、(株)テレビ東京である。
 被告は、(株)日本デジタル家電である。

被告は、「ロクラクIIビデオデッキレンタル」という名称の事業を始めようとした。
日本国内で放送されるテレビ番組を複製し、被告のそのサービスの利用者が海外で視聴できるようにしたものである。
すなわち、ハードデイスクレコダー2台のうち、1台(親機)を日本国内に置き、受信するテレビ放送の放送波を親機に入力するとともに、これに対応するもう1台(子機)を利用者に貸与又は譲渡することにより、当該利用者をして、子機を操作する。
親機ロクラクは、インターネット通信機能付き地上アナログ放送用TVチユーナー内蔵ビデオ録画装置をもち、テレビ番組を複製、複製した番組データを子機ロクラクに送信し、子機ロクラクは、インターネット上、親機ロクラクに録画を指示し、親機ロクラクから録画データの送信を受け、これを再生する。利用者は、子機ロクラクで、番組データを再生して、テレビ番組を視聴する。

 原告であるNHK、放送会社は、この被告の行為は、原告らが著作権を有する番組を複製し、又は原告らが著作隣接権を有する放送に係る音又は映像を複製する行為に当たるから、原告らの著作権(複製権=法21条)、又は著作隣接権(複製権=法98条)を侵害するとして、対象番組の複製等の差止、本件対象サービスに供されているハードデスクレコダーの廃棄及び逸失利益等の損害賠償を求めた。
東京地裁民事29部清水節裁判長は、「クラブキャッツアイ事件最高裁判決等を踏まえ」(筆者注、本稿、「クラブキャッツアイ事件」最高裁1988年3月15日判決参照)、被告の提供するサービスの性質に基づき、支配管理性、利益の帰属等の諸点を総合考慮し、被告が本件番組等の複製行為を管理支配しており、それによる利益も得ているとして、被告の侵害主体性を肯定し、原告の著作権又は著作隣接権を侵害しているとし、対象番組の著作物の複製禁止、対象番組の放送に係る音又は影像を録音又は録画の禁止、別紙目録記載の器具の廃棄、NHKへ、226万円、静岡第一テレビへ88万円、日本テレビへ33万円などの判決を下した。被告が控訴し、原告らが附帯控訴した。

[知財高裁]
知財高裁田中信義裁判長は、1審判決と異なる判断を下した。被告(控訴人)は、利用者が私的複製を行う環境を提供しているに過ぎず、主体性はないとした。

知財高裁は、

  1. 本件サービスの目的、
  2. 機器の設置・管理、
  3. 親機ロクラクと子機ロクラクとの間の通信の管理、
  4. 複製可能なテレビ放送及びテレビ番組の範囲、
  5. 複製のための環境整備、
  6. 被告が得ている経済的利益を総合

すれば、被告が本件複製を行っていることは明らかで有る旨主張する原告らの主張に即して、検討の上、「本件サービスにおける録画行為の実施主体は、利用者自身が親機ロクラクを自己管理する場合と何ら異ならず、被告が提供するサービスは、利用者の自由な意思に基づいて行われる適法な複製行為の実施を容易ならしめるための環境、条件等を提供しているにすぎない」として、被告の侵害主体性を否定した。
クラブキャッツアイ事件最高裁判決については、「上記判例は、本件とは事案を異にする」とした。第1審判決中、被告(控訴人)敗訴部分を取消し、原告らの請求をすべて棄却した。原告らが、上告及び上告受理申立をした。

[最高裁]
最高裁(金築誠志裁判長、宮川光治、櫻井龍子、横田尤孝、白木勇裁判官)は、次のように述べて、原審の判断と異なる判断をし、知財高裁に差し戻した。
「放送番組等の複製物を取得することを可能にするサービスにおいて、サービスを提供する者が、その管理、支配下において、テレビアンテナで受信した放送を複製の機能を有する機器に入力していて、当該機器に録画の指示がされると放送番組等の複製が自動的に行われる場合、その録画の指示を当該サービスの利用者がするものであっても、当該サービスを提供する者はその複製の主体と解すべきである。」と述べて、テレビ番組の録画転送サービスにおいて、一定の状況があれば、サービス提供者は複製の主体となることを示し、本件サービスにおける親機ロクラクの管理状況等を認定することなく、テレビ番組等の複製をしているのは、被告ではない、とした原審の判断には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があるとして、本件を知財高裁に差し戻した。

[金築誠志裁判官の補足意見]
金築裁判官は、「カラオケ法理」は、「法概念の規範的解釈として、一般的な法解釈の手法の一つにすぎず、特殊な法理論でなく、考慮されるべき要素も行為類型により変わりうる。録画の指示が利用者によってなされるという点にのみ、重点を置くのは相当でない。本件システムを単なる私的使用の集積とみることは、実態に沿わない。著作権侵害者の認定に当たっては、総合的視点に立って行うことが著作権法の合理的解釈である」とした。

[知財高裁]
知財高裁第3部(飯村敏明裁判長、八木貴美子、知野明裁判官)は、上告審において示された判断基準に基づいて、詳細な事実認定を行った。
その上で、インターネト通信による親子機能を有する機器を利用して、海外等において、日本国内の放送番組等の複製又は視聴を可能にするサービスについて、被告であるサービス提供者が、放送番組等の複製の主体であるとした。
放送事業者の著作権及び著作隣接権の侵害をしているとして、原告らの放送番組等の放送回数、平均視聴率、本件サービスの契約数等を斟酌し、著作権法114条の5により、「相当な損害額」を認定した。著作権侵害の損害額は、1番組当たり3万円から24万円。
著作隣接権侵害の損害額は、1社あたり、80万円から400万円と認めた。

知財高裁平成21年1月27日判決は、このサービスの利用者が録画の指示をださなければ、録画が実行されることはないので、利用者を複製の主体とし、この判決は注目された。しかし、最高裁は、この判決を認めなかった。

[参考文献]
『ジュリスト』1423号(2011年6月1日号)(特集まねきTV]/ロクラクII最判のインパクト)。小泉直樹「まねきTV・ロクラクII最判の論理構造とインパクト」『ジュリスト』1423号6頁、田中豊「利用(侵害)主体判定の論理ー要件事実論による評価」『ジュリスト』1423号12頁。上原伸一「放送事業者の著作隣接権と最高裁判決のインパクト」ジュリスト1423号19頁。奥邨弘司「米国における関連事例の紹介ー番組リモート録画サービスとロッカーサービス の場合」『ジュリスト』1423号25頁。「ロクラクII最高裁判決の解説及び全文」『ジュリスト』1423号38頁。
横山久芳「自炊代行訴訟判決をめぐって」ジュリスト1463号36頁。