プロ野球ドリームナイン事件

2015年9月29日

「プロ野球ドリームナイン」というゲームをSNS上で提供・配信している控訴人が、「大熱狂!!プロ野球カード」というゲームを提供・配信している被控訴人に対し、著作権侵害、不正競争防止法に基づく等の請求をし、1審は、全て棄却されたが、2審は、被控訴人のカードの中、中島選手とダルビッシュ選手のカードは、控訴人ゲームのカードを翻案したものとされ、被控訴人は控訴人へ32万3322円(うち、弁護士費用20万円)の支払が命ぜられた事例である。

知財高裁平成27年6月24日判決(平成26年(ネ)第10004号)
東京地裁平成25年11月29日判決(平成23年(ワ)第29184号)

原告・控訴人Xは、株式会社コナミデジタルエンタテインメント。
被告・被控訴人Yは、株式会社gloopsである。

社会的交流をインターネット上で構築するサービスであるソーシャルネットワーキングサービス(SNS)上で提供され、他の利用者とコミュニケーションを取りながらプレイするオンラインゲームをソーシャルネットワーキングサービスゲーム(SNSゲーム)という。原告Xは、プロ野球カードを題材としたSNSゲームである原告ゲーム「プロ野球ドリームナイン」を制作し、グリー株式会社が運営している携帯電話等のプラットホームである「GREE」において、原告ゲームを提供・配信している。
被告Yは、プロ野球カードを題材としたSNSゲームである被告ゲーム「大熱狂!!プロ野球カード」を制作し、株式会社デイー・エヌ・エー(以下、DeNA)が運営する携帯電話等のプラットホームである「Mobage」において、被告ゲームを提供・配信している。

原告ゲームは、平成23年3月30日オープンベータ版、4月18日、正式版が提供・配信が開始された。
被告ゲームは、平成23年8月18日頃、提供・配信が開始された。
同年9月20日、原告Xは、被告Yに対して、主位的に、1)YがXゲームを複製ないし翻案して、自動公衆送信し、Xの著作権(複製権、翻案権、公衆送信権)を侵害している、2)、Xゲームの影像や構成は周知又は著名な商品等表示若しくは形態であるとし、不正競争防止法の不正競争に当たるとし、3)、Yに対し、著作権法112条1項又は不正競争防止法3条に基づき、Yゲームの配信(公衆送信、送信可能化)の差止を求め、4)。著作権侵害による不法行為に基づく損害賠償請求、又は不正競争防止法4条に基づく損害賠償請求として5595万1875円及び遅延損害金の支払い、弁護士費用として、260万円及び遅延損害金の支払いを求め、予備的に、5)、Yが行うYゲームの提供・配信は、Xゲームを提供・配信することによって生じるXの営業活動上の利益を不法に侵害する一般不法行為に該当するとし、不法行為に基づく損害賠償請求として1716万4696円及び遅延損害金の支払いを求め、訴訟を提起した。

[1審]東京地裁民事第40部東海林保裁判長は、次の争点を審理し、判断し、原告の請求をすべて、棄却した。

  1. 争点(1)、Yゲームの制作・配信行為はXの著作権を侵害するか。
    (1、著作物性、複製及び翻案について、
    (2、個別表現における著作権侵害の成否について、
    選手カードについては、中島裕之選手、ダルビッシュ有選手、坂本勇人選手、今江敏晃選手について、Xはいずれも著作物性を認めるべきと主張し、判決は(被告の)「中島選手とダルビッシュ選手の選手カードのポーズや構図は、原告ゲームにおけるそれと酷似している」と認めたが、「原告ゲームと被告ゲーム」は『選手カード』において共通する点があるとはいえ、その共通する部分は、ありふれた表現にすぎないか又は創作性のない表現であり、そもそも翻案にあたらないと認めるのが相当である。」とした。
    (3、まとまった表現についての検討、
    (4、ゲーム全体の著作権侵害について、の順に審理し、(5)「以上の通り、原告ゲームと被告ゲームは、個別の表現においても、表現全体においても、アイデアなど表現それ自体でない部分又はありふれた表現において共通するにすぎないと認められるから、被告ゲームについて複製権を侵害した、または翻案権を侵害したということはできず、公衆送信権を侵害したということもできない。」とした。
  2. 争点(2)被告ゲームの配信行為は、不正競争防止法2条1項1号又は2号の不正競に該当するか。
    原告ゲームは、「その影像が周知または著名な商品等表示」でないから、理由がない。
  3. 争点(3)被告ゲームの配信行為は不正競争防止法2条1項3号の「不正競争」に該当するか。
    Xが主張する原告ゲームの5つの要素における画面表示の展開の組合せといったものは、不正競争防止法2条1項3号「形態」に当たらない。
  4. 争点(4)被告ゲームの配信行為は不法行為に該当するか。
    最高裁平成23年12月8日判決(北朝鮮映画事件)を引用し、被告ゲーム配信行為が「著作権法の規律の対象とする著作物の利用若しくは不正競争防止法の定める不正競争行為の規制による利益とは異なる法的に保護された利益を侵害するなどの特段の事情は認められない」として、不法行為を構成しない、とした。

Xは、控訴した。

[2審]知財高裁第1部設楽隆一裁判長は、「被控訴人Yゲームの選手カードのうち、中島選手及びダルビッシュ選手の選手カードについては、控訴人Xゲームの選手カードの著作権(翻案権、公衆送信権)侵害に基づく損害賠償請求が認められる」とした。
損害額について。
Yが選手カードの表現を変更するまで9日間で、Yゲームにおけるレアパックの販売によりYが得た利益は、1541万円5312円である。
レアパックの販売利益の内、本件2選手カードによって得られた利益に相当する額のみが当該著作権侵害の行為によりYが受けている利益に当たる。「前記レアパックの販売利益のうち少なくとも8%が、本件2選手カードの販売によりYが受けた利益と認める」
したがって、著作権法114条2項によりXが受けた損害の額と推定される額は、123万3225円(1541万5312円×0.08)である。
ところで、著作権法114条2項の「推定覆滅事由」がある。Yの著作権侵害がなかったとしても、XがXゲームのレアパック(選手カード)の販売により得たとは認められない。
「XがXゲームのレアパックを販売することができたとは認められない割合は、少なくとも90%である」
「本件2選手カードの著作権侵害により控訴人Xが被った損害は、12万3322円(123万3225円×10%)となる」。
弁護士費用は、20万円が相当である。

[判決主文]

  1. 原判決を次のとおり変更する。
    1. 被控訴人は、控訴人に対し、32万3322円及びうち12万3322円に対する平成23年9月21日から、うち20万円に対する平成24年2月21日から支払済みまで年5分の割合におる金員を支払え。
    2. 控訴人のその余の主位的請求及び予備的請求をいずれも棄却する。
  2. 訴訟費用は、第1,2審を通じ、これを100分し、その1を被控訴人の負担とし、その余を控訴人の負担とする。
1審判決の判決文は、A4判139頁、2審判決は、53頁である。
ゲームjについては、「2012-9」釣りゲーム事件がある。