ウイニー事件(刑事)

2015年11月17日
最高裁平成23年12月19日決定(平成21(あ)第1900号刑集65巻9号1380頁)(刑事事件)
大阪高裁平成19年10月8日判決(平成19(う)第461号)
京都地裁平成18年12月13日判決(平成16(わ)第726号)

 元・東大助手X(金子勇)は、平成14年5月、ファイル交換ソフト・ウイニーを開発し、ネット上に公開し、配布した。平成15年11月、AおよびBは、このウイニーを用いて、米国映画、ゲームソフトを違法にコピーし、ABは、それぞれ、著作権法違反で、逮捕され、懲役1年、執行猶予3年の判決を受けた。開発者Xも逮捕された。

[京都地裁]
平成18年判決は、Xを有罪とした。

Xは、

  1. ウイニーによって、著作権侵害がインターネット上に蔓延することを積極的に企図したとまでは認められないが、
  2. 著作権侵害が起こることを認識しながら不特定多数の者が入手できるようにホームページで公開しており、幇助罪に当たる。
  3. 社会に生じる弊害を十分知りつつ、ウイニーを公開しており、独善的かつ無責任で非難は免れない。

として罰金150万に処した。幇助罪の成立要件として「ウイニーの現実の利用状況やそれに対する認識、提供する際の主観的態様がどうかということになる」との基準をあげて、幇助犯成立とした。

「主文」
 被告人を罰金150万円に処する。その罰金を完納することができないときは、金1万円を1日に換算した期間、被告人を労役場に留置する。訴訟費用は被告人の負担とする。」 Xは控訴した。

[大阪高裁]
平成19年、Xを無罪とした。大阪高裁は、

  1. 著作権侵害の幇助犯の成立は、侵害する者が出る可能性があると認識していただけでなく、ソフトを侵害の用途で使用するようインターネット上で勧めていることが必要であるとし、
  2. 被告人Xは、侵害の可能性を認識していたが、ネット上での発言を見ても著作権侵害の用途で使うよう勧めていたとはいえない。
  3. 原審のように認めると、ソフトが存在する限り、無限に刑事責任を問われることになり、罪刑法定主義の観点から慎重に判断することが必要、

とした。

[最高裁]
最高裁第3小法廷は、検察からの上告を棄却した。
被告人において、本件ウイニーを公開、提供した場合に、例外的とはいえない範囲の者がそれを著作権侵害に利用する蓋然性が高いことを認識、認容していたとまで認めることは困難である。したがって、被告人は著作権法違反罪の幇助犯の故意を欠く、とした。
言い換えれば、ウイニーは、中立価値のソフトである、入手者のうち例外的といえない範囲の人が著作権侵害に使う可能性を認容して、提供した場合に限って、幇助に当たる、とした。4人の裁判官のうち1人の裁判官は、幇助犯が成立すると反対意見を述べた。

非常に難しい事件である。

[参考文献]
林幹人「ファイル共有ソフトWinnyの公開・提供と著作権法違反幇助罪の成否」(「平成24年度重要判例解説」152頁)