わいせつ動画事件(刑事)

2015年10月7日

顧客のダウンロード操作に応じて、自動的にデータを送信する機能を備えた配信サイトを利用してわいせつな動画等のデータファイルを同人の記録媒体上に記録、保存させる行為は、刑法175条1項後段の「わいせつな電磁的記録の『頒布』にあたるとし、」刑法175条1項後段の「頒布」の意義を明らかにした事例である。

最高裁平成26年11月25日決定(平成25年(あ)510号)
東京高裁平成25年2月22日判決(平成24年(う)2197号)
東京地裁平成24年10月23日判決(平成24刑(わ)1356号)

刑法175条1項は、「わいせつな文書、図画、電磁的記録に係る記録媒体その他の物を頒布し、又は公然と陳列した者は、2年以下の懲役若しくは250万円以下の罰金若しくは科料に処し、又は懲役及び罰金を併科する。電気通信の送信によりわいせつな電磁的記録その他の記録を頒布した者も、同様とする。」とある。
同条2項「有償で頒布する目的で、前項の物を所持し、又は同項の電磁的記録を保管した者も、同項と同様とする。」

日本在住の被告人は、日本とアメリカ合衆国在住の共犯者らとともに日本国内で作成したわいせつな動画のデータファイルをアメリカ合衆国在住の共犯者に送り、共犯者がアメリカ国内に設置したサーバーコンピュータにそのデータファイルを記録、保存し、日本人など不特定かつ多数の顧客にインターネットを操作させ、データファイルをダウンロードさせる方法で有料配信する日本語のウエブサイトを運営していた。

  1. 日本国内の顧客Aが、平成23年7月及び12月、この配信サイトを利用し、わいせつ動画等のデータをダウンロードし、Aのパソコンに記録、保存した。
  2. 被告人等は、平成24年5月、有料配信の実施を予想し、バックアップ等のために、東京都内の事務所にDVDやハードデスクにわいせつ動画等のデータを保管した。

 被告人は、刑法175条1項の、「わいせつ電磁的記録等送信頒布罪」および2項「わいせつ電磁的記録有償頒布目的保管罪」に当たるとして起訴れた。
 被告人は、サーバーコンピュータから顧客Aのパソコンへのデータ転送は、顧客Aの行為であり、被告人らの頒布行為には当たらないと主張した。また、被告人は、配信サイトの開設、運用は日本国外でなされており、被告人等は、刑法1条「日本国内において罪を犯したすべての者に適用する」とあるが、これに当たらない、と主張した。
最高裁(大谷剛彦裁判長、岡部喜代子、大橋正春、木内道祥、山崎敏充裁判官)は、「顧客による操作は、被告人らが意図していた送信の契機となるものにすぎず、被告人らは、これに応じてサーバーコンピュータから顧客のパーソナルコンピュータへデータを送信したというべきである」とし、「不特定の者である顧客によるダウンロード操作を契機とするものであっても、その操作に応じて自動的にデータを送信する機能を備えた配信サイトを利用して送信する方法によってわいせつな動画等のデータファイルを当該顧客のパーソナルコンピュータ等の記録媒体上に記録、保存させることは、刑法175条1項後段にいうわいせつな電磁的記録の『頒布』に当たる」とした。また、「前記の事実関係の下では、被告人らが、同項後段の罪を日本国内において犯した者に当たることも、同条2項所定の目的を有していたことも明らか」とし、「わいせつ電磁的記録等送信頒布罪」及び「わいせつ電磁的記録有償頒布目的保管罪」の成立を認めた原判断は正当である、とし、上告を棄却した。

刑法175条の「頒布」の意義を明確にした。

「参考文献」判例時報2251号112頁のコメント。