日本のテレビ番組をインターネットにより、海外の日本人が視聴できる仕組みが、著作隣接権侵害とされた事例である。
海外諸国へ転勤し、その外国で働く日本人は、日本で放映されている日本のテレビ番組をどうしても観たいと思っている。その希望を叶えたいとAという事業者が考えた。
A(有限会社エフエービジョン)は、「録画ネット」の名称で、インターネット回線を通じて、テレビ番組の受信・録画機能を有するパソコンを操作して、日本で録画されたファイルを、海外の邦人の自宅等のパソコンに転送できる環境を提供する方法により、海外など遠隔地居住の日本人が日本のテレビ番組を視聴できるサービスを提供しようとした。
サービスとは、次の通りである。
放送事業者(NHKなど)は、Aの行為は、NHKなどの放送を複製するもので、放送事業者の有する著作隣接権侵害(放送に係る音又は映像の複製権)(著作権法98条)であるとして、本件サービスによる放送の複製の差止を求める仮処分を求めた。
争点は、次の通り。
東京地方裁判所民事40部賴晋一裁判官は、平成16年10月7日、NHKの請求を認容する仮処分決定をした。
「本件サービスにおける複製は、債務者の強い管理・支配下において行われており、利用者が管理・支配する程度はきわめて弱い」「より具体的にいえば、本件サービスは、解約時にテレビパソコンのハードウエアの返還を受けられるという点を除き、実質的に、債務者による録画代行サービスと何ら変わりがない。債務者が主張する、テレビパソコンの販売とその保守管理というのは、本件サービスの一部を捉えたものにすぎず、サービス全体の本質とはいえない。」「本件サービスにおいて、複製の主体は債務者であると評価すべきである」とした。
Aは、この決定に対し、異議を申し立てたが、上級審は、この仮処分を認可する決定を行い、東京地裁平成16年10月7日決定を是認した。カラオケ法理(ア、管理支配の帰属、イ、利用による利益の帰属)によって、A(抗告人)は、敗訴した。
[参考文献]
相澤英孝「知的財産法判例の動き」(『ジュリスト』1313号)276頁は、「特定の記録媒体から利用者の機器への送信は公衆送信とはいえないので、記録媒体を管理している者の行為を複製権の侵害とすることによって著作隣接権の効力を及ぼしたものと理解される。」とする。