「録画ネット」事件

2015年12月9日

日本のテレビ番組をインターネットにより、海外の日本人が視聴できる仕組みが、著作隣接権侵害とされた事例である。

知財高裁平成17年11月15日決定(平成17年(ラ)第10007号)
東京地裁平成17年5月31日決定(判タ1187号335頁)
東京地裁平成16年10月7日決定(平成16年(モ)第15793号判時1895号120頁判タ1187号335頁)

 海外諸国へ転勤し、その外国で働く日本人は、日本で放映されている日本のテレビ番組をどうしても観たいと思っている。その希望を叶えたいとAという事業者が考えた。
A(有限会社エフエービジョン)は、「録画ネット」の名称で、インターネット回線を通じて、テレビ番組の受信・録画機能を有するパソコンを操作して、日本で録画されたファイルを、海外の邦人の自宅等のパソコンに転送できる環境を提供する方法により、海外など遠隔地居住の日本人が日本のテレビ番組を視聴できるサービスを提供しようとした。

サービスとは、次の通りである。

  1. Aが利用者ごとに1台づつ販売したテレビチューナー付のパソコンをAの事務所内に設置し、テレビアンテナを接続するなどして、放送番組を受信可能な状態にする。
  2. 各利用者はインターネットを通じて、テレビパソコンを操作して録画予約し、録画されたファイルを海外の自宅のパソコンへ転送して貰う。

放送事業者(NHKなど)は、Aの行為は、NHKなどの放送を複製するもので、放送事業者の有する著作隣接権侵害(放送に係る音又は映像の複製権)(著作権法98条)であるとして、本件サービスによる放送の複製の差止を求める仮処分を求めた。

争点は、次の通り。

  1. 放送事業者側の主張。
    1. 本件サービスは、専ら利用者に放送番組をその無断複製物により視聴させるおのだ。
    2. 放送番組の複製は、Aの管理・支配下で行われている。
    3. このサービスで、Aは、直接利益を得ている。複製主体は、Aと評価すべきである。
  2. Aの主張。
    1. 本件サービスは、テレビパソコンの販売とそのハウジングサービス(寄託、インターネット接続、保守)であり、利用者は、自己のパソコンで、適法な私的複製(著作権法30条)をしている。
    2. 本件サービスにおける放送番組の複製行為は、Aの管理・支配下で行われていない。
    3. Aが得ているのは、テレビパソコンの対価とその保守管理費用で、複製のサービスによる対価でない。要するに複製主体は、利用者であるとした。

東京地方裁判所民事40部賴晋一裁判官は、平成16年10月7日、NHKの請求を認容する仮処分決定をした。
「本件サービスにおける複製は、債務者の強い管理・支配下において行われており、利用者が管理・支配する程度はきわめて弱い」「より具体的にいえば、本件サービスは、解約時にテレビパソコンのハードウエアの返還を受けられるという点を除き、実質的に、債務者による録画代行サービスと何ら変わりがない。債務者が主張する、テレビパソコンの販売とその保守管理というのは、本件サービスの一部を捉えたものにすぎず、サービス全体の本質とはいえない。」「本件サービスにおいて、複製の主体は債務者であると評価すべきである」とした。

Aは、この決定に対し、異議を申し立てたが、上級審は、この仮処分を認可する決定を行い、東京地裁平成16年10月7日決定を是認した。カラオケ法理(ア、管理支配の帰属、イ、利用による利益の帰属)によって、A(抗告人)は、敗訴した。

この一連の判決は重要なものである。

[参考文献]
相澤英孝「知的財産法判例の動き」(『ジュリスト』1313号)276頁は、「特定の記録媒体から利用者の機器への送信は公衆送信とはいえないので、記録媒体を管理している者の行為を複製権の侵害とすることによって著作隣接権の効力を及ぼしたものと理解される。」とする。