「爆サイ中傷被害者の会」事件

2015年9月30日

原告の写真等が、LINE開設のブログ「爆サイ中傷被害者の会(仮」に掲載され、著作権侵害されたため、犯人に損害賠償を求め訴えるべく、LINE社から開示された電子メールアドレスを管理し、インターネットメール事業を開設運営する被告へ、犯人の発信者情報を求め、訴訟し、東京地裁が被告へ原告に対し、「発信者の住所」の開示を命じた事例である。

東京地裁平成27年5月15日判決(平成27年(ワ)第1107号)

原告(株式会社アクトコミュニケーション)は、インターネット上における商業デザイン・工業デザインの企画、制作、販売、インターネットのホームページデザインのシステム設計及び計画等を主な目的とする会社である。
被告(AOLオンライン・ジャパン株式会社)は、コンピュータ・ソフトウエアの開発、制作、販売及び保守管理等のサービスの提供、電気通信事業法に基づく第2種電気通信事業並びに付加価値情報通信網及び有償提供、インターネット接続等を主な目的として営業する株式会社で、無償でインターネットメールを開設・運営するサービスを行っている。

原告は、平成25年1月頃、「求人おきなわ」を通じて、求人募集を行う際、原告ロゴマーク、原告の社内風景等を撮影した写真(本件写真等)」を作成し、「求人おきなわ」のウエブサイトに掲載された。
平成25年1月頃、本件写真等が、原告、「求人おきなわ」に無断で、LINEが開設、運営するliveddoorブログに開設された「爆サイ中傷被害者の会(仮」というウエブログ(本件ブログ)に記事とともに掲載された。
原告は、LINE社を相手に、LINE社が開設管理するlivedoorブログ上に、本件発信者(犯人)が本件ブログ開設時の電子メールアドレスの開示を求めて、東京地裁に訴訟を提起し、 東京地裁平成26年7月23日判決(筆者未入手)は、電子メールアドレスについて原告のLINE社に対する開示請求を認める判決を下した。LINE社は、この判決を受けて、原告に対し、7月30日付け書面で、本件発信者の電子メールアドレスが「○○@○○」であることを開示した。
原告は本件メールアドレスのドメイン名登録情報から、被告が本件メールアドレスを管理していることを特定し、被告に対し、平成26年8月28日、発信者情報の開示請求を行った(筆者注、メールアドレスが、(○○@aol.com)だったと思われる。
被告は、本件発信者に対し、平成26年10月15日付け「発信者情報開示に係る意見照会書」を出して、発信者の意見を紹介したが、発信者の回答がなかった。
平成27年、原告は、被告に対し、「別紙記事目録記載の投稿記事に係る別紙発信者情報目録記載の情報を開示せよ」との請求の訴えを起こした。
裁判で、次の点が争われた。

  1. 被告が、「特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律」4条1項に該当するか。

    [原告の主張]
    本件ブログは、インターネットを通じて誰でも閲覧でき、「不特定の者によってア、受信されることを目的とする電気通信の送信」といえる。法2条1号の「特定電気通信」に該当する。

    1. 本件発信者は、被告を経由プロバイダとして本件ブログを投稿していると推認される。
      本件ブログが経由したリモートホスト、電気通新設部一式は「特定電気通信の用に供される電気通信設備」で、法2条2号の「特定電気通信設備」に該当する。
    2. 被告は、イの「特定電気通信設備」を用い、本件ブログの投稿閲覧を媒介し、他人の通信の用に供しており、法2条3号の「特定電気通信役務提供者」に該当する。
    3. 以上により、被告は、法4条1項の「当該特定電気通信役務提供者」に該当する。

    [被告の主張]
    電子メール等の1対1の通信は、「特定電気通信」には含まれない。被告が「開示関係役務提供者」に該当する余地はない。

  2. 権利侵害の明白性について
    原告は、著作権侵害された。法4条1項1号に該当する。
    被告は争う。
  3. 発信者情報の開示を受けるべき正当な理由の有無。
    原告は、正当な理由がある。
    被告は、争う。

東京地裁民事29部の嶋末和秀裁判長は、次のように判断した。

  1. 電子掲示板等に係る特定電気通信設備の記録媒体に情報を記録するための当該特定電気通信設備を管理運営するコンテンツプロバイダと本件発信者との間の1対1の通信を媒介する、いわゆる経由プロバイダであっても、法4条1項にいう「開示関係役務提供者」に該当する。最高裁平成22年4月8日判決(「しずちゃん」経由プロバイダ事件)
    (2010-3).被告は、経由プロバイダである。
  2. 本件記事に掲載された本件写真は、原告の職務著作で、そのまま転載されたのであり、原告の著作権(複製権、公衆送信権)侵害は明らかである。
  3. 「発信者情報目録」のうち、「発信者の住所」について開示を受けることが必要だが、「発信者の郵便番号」については、住所が開示されれば、容易に、調査できるから、郵便番号は不要とした。

「判決主文

  1. 被告は、原告に対し、別紙記事目録記載の投稿記事に係る、別紙発信者情報目録記載1の情報及び同目録記載2の情報のうち「発信者の住所」を開示せよ。
  2. 原告のその余の請求を棄却する。
  3. 訴訟費用は被告の負担とする。」
最高裁平成22年4月8日判決(「しずちゃん」経由プロバイダ事件)(2010-3).を引用している。この事件の「本件記事」は、どういうものだったのであろうか。
原告は、約2年半、相当な努力を払って、犯人(発信者)を捉えることができた。