「海賊版」指摘名誉毀損事件

2015年12月1日

被告が、原告発行の書籍が他の出版社の発行する書籍の「海賊版」である旨を指摘する電子メールの内容及び被告のホームページの記事内容が、原告の名誉毀損及び信用毀損であるとして、不法行為に基づき、損害賠償と名誉回復のための措置として、上記ホームページに謝罪文の掲載を求めた事例である。

東京地裁平成20年8月29日判決(平成19年(ワ)第4777号)

原告は、韓国に本店を置き、韓国法によって設立された出版等を業とする会社である。
被告は、朝鮮民主主義人民共和国の図書等を専門的に扱う小売商人である。被告は、ホームページを管理している。ここで、関係する書籍は、

  1. 朝鮮総督府政務総監大野緑一郎関係文書
  2. 友邦文庫文書
  3. 不二出版書籍
  4. 龍渓書籍
  5. 原告の「日帝下戦時体制期政策史料叢書」

である。被告は、無断複製販売を続けている業者から無断複製本を購入した学校を訪問したこと、「このならずものの業者はどこか」と聞かれるので、これ以上日本の図書館に海賊版を入れさせてはいけないと思い、実名を出した。被告は、また「韓国・民族問題研究所出版『日帝下戦時体制期政策史料叢書』も海賊版」「間違いなく無許可でコピー販売しているものと思われます」という内容の電子メールを作成し、不特定多数人に送信した。また、被告ホームページに、「民族問題研究所編・韓国学術情報発行『日帝下戦時体制期政策史料叢書』は海賊版、復刻許可申請の記録なしとの、2005年9月ハーバート大学図書館」らの指摘に対し、韓国学術情報代表理事F氏は「1ページでも無断複製があれば、『日帝下戦時体制期政策史料叢書』は海賊版と語る」(表現3)と掲載した。原告は、被告を名誉毀損で訴えた。

 東京地裁民事40部市川正巳裁判長は、次のように述べて、原告の請求を棄却した。

  1. 「被告による表現の全体を一般読者の普通の注意と読み方とを基準として読めば、史料集の復刻版の無断複写物も海賊版の一種であると考えている被告が史料集の復刻版の無断複写を海賊版になぞらえて非難していることを読み取るにすぎない」。
  2. (表現3の名誉毀損性)「これを一般読者の普通の注意と読み方とを基準として読めば、Fが仮に1部でも無断複製があったとすれば原告書籍は海賊版となることを述べたものと理解され、『原告書籍は無断複製されたものである。』と理解されるものではないと認められる。」として、理由がない、とした。
    原告代表者Fが「仮に1部でも無断複製があったとすれば原告書籍2は海賊版となる」との発言自体、何ら原告の名誉や信用を毀損するものでない。
  3. (「海賊版」の真実性ー原告の版面権侵害行為)
    原告は、龍渓書舎の版面を複写したこと、不二出版の書籍については、「タイプ印刷」で補ったこと等を認定し、本件表現1及び2で摘示の事実の重要部分につき真実であるとの証明があり、被告の真実性の抗弁は理由がある。

とし、原告の請求を棄却した。

龍渓書舎といえば、東京高裁昭和57年4月22日判決(無体集14巻1号193頁)が有名である。