「新聞販売黒書」事件

2015年11月5日

フリージャーナリストがインターネット上において掲載した記事が、読売新聞社から名誉毀損で訴えられ、1審、2審は、名誉毀損による不法行為請求が棄却されたが、最高裁では、名誉毀損とされ、東京高裁も名誉毀損とし、ウエブサイトにより名誉毀損された被害者の損害額が、名誉毀損の内容、表現の方法と態様等により算定された事例である。

東京高裁平成24年8月29日判決(判時2189号63頁)
最高裁平成24年3月23日判決(判タ1369号121頁)
東京高裁平成22年4月27日判決(平成21年(ネ)第5834号)
さいたま地裁平成21年10月16日判決(平成20年(ワ)第613号)

 フリージャーナリストYは、「新聞販売黒書」と題するインターネット上のウエブサイトに「X1新聞西部本社は、○日、○県○市にある○○文化センター前のA所長に対して、明日○日から新聞の商取引を中止すると通告した。現地の関係者からの情報によると、○日の午後4時ごろ、西部本社のX2法務室長、X3担当の3名が事前の連絡なしに同店を訪問し、A所長に取引の中止を伝えたという。その上で明日の朝刊に折り込む予定になっていたチラシ類を持ち去った。これは窃盗に該当し、刑事告訴の対象になる」という記事を掲載した。Xらは、記事の第2文により名誉を毀損されたとして、Yに対し、不法行為にによる損害賠償請求をした。

1審のさいたま地裁は、名誉毀損による不法行為を否定した。

2審の東京高裁も、最高裁昭和31年7月20日(民集10巻8号1059頁)を引用し、一般の読者の普通の注意と読み方を基準として判断すべきであるとし、第1文は、事実の摘示で、第2文は、被告の法的見解の表明で、直ちに原告社員らが「窃盗」に該当する行為を行ったものと理解する可能性は乏しいとし、本件記載部分によって原告等の社会的評価が低下したということを否定して、原告等の請求を棄却した。

最高裁第二小法廷(古田佑紀裁判長、竹内行夫、須藤正彦、千葉勝美)は、「インターネット上のウエブサイトに掲載された記事が、それ自体として一般の閲覧者がおよそ信用性を有しないと認識し、評価するようなものではなく、会社の業務の一環として取引先を訪問した従業員が取引先の所持していた物をその了解なく持ち去った旨の事実を摘示するものと理解されるのが通常であるなど判示の事情の下では、その記事を掲載した行為は、上記の会社及び従業員の名誉を毀損するものとして不法行為を構成する。」(要旨)とし、東京高裁へ差し戻した。

東京高裁平成24年8月29日判決は、1,本件記事の内容は、X2らがチラシ類を持ち去った行為が窃盗に該当し、刑事告訴の対象になる旨の虚偽の事実を摘示し、X2らの名誉を毀損するもので、Xらの損害につき慰藉料の請求を認めるのが相当であるとした。
また、X2らの行為がX1会社が窃盗を行わせるような会社と誤信されるから、X1会社も無形損害として賠償請求ができるとした。損害額について、名誉毀損の内容、表現の方法と態様、流布された範囲と態様、流布されるに至った経緯、加害者の属性、被害者の属性、被害者の被った不利益の内容・程度、名誉回復の可能性などの事情を考慮して算定することが相当であるとした。訴権の濫用に当たるとみるべき事情は見い出せないとした。
加藤新太郎裁判長は、控訴人会社X1への賠償額40万円、控訴人X2、X3、X4に対し、それぞれ20万円、弁護士費用X1につき、4万円、控訴人X2らにつきそれぞれ、2万円、合計110万円の支払をYに命じた。

ウエブサイトの記事を1審、2審が名誉毀損にならない、と判決したのに、3審の最高裁が名誉毀損になると判断し、東京高裁へ差し戻した、というのが注意を引く。