「しずちゃん」経由プロバイダ事件

2015年11月25日

経由プロバイダが、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律」(以下、法)2条3項にいう「特定電気通信役務提供者」に該当するとした判例である。

最高裁平成22年4月8日判決(平成21年(受)第1049号民集64巻3号676頁)
東京地裁平成20年9月19日判決、東京高裁平成21年3月12日判決

被告Yは、株式会社NTTドコモである。
原告X1は、土木工事事業等を目的とする株式会社である。原告X2は、X1の代表取締役である。原告X3は、X2の妻である。原告X4は、X1の従業員である。

ウエブサイト「しずちゃん」内の電子掲示板に、原告X1ではいじめがはげしい、X2は、不貞行為をしている、X3は、従業員と不貞行為をしている、X4は暴力団と関係があるなど、という事実無根の記事を、複数の氏名等不詳の者(本件発信者)から書かれた。
Xらは、名誉毀損、プライバシー権等の人格権侵害をされているとして、原告等は、静岡地方裁判所浜松支部に対し、「しずちゃん」管理者から委託を受けたホステイング業者を相手に仮処分命令を申立てて、投稿した者のIPアドレス及びタイムスタンプ等の情報を得、これにより、本件発信者らは、被告Yの管理するサービスのユーザーで、Y経営の携帯電話からの発信と判明、X等は、東京地裁へ、Yを相手に発信者情報の消去の禁止を求める仮処分命令申立をしたが、自動消去されていたので、同地裁から却下決定がなされた。
原告等は、コンテンツプロバイダ「しずちゃん」管理者に発信者の携帯端末機の機種、シリアルナンバー及びFOMAカード個体識別子がアクセスログとして記録されているので、被告Yに、発信者等の情報を特定することが可能であるとして、経由プロバイダである、被告Yへ、発信者情報の開示を求めて訴えた。
被告Yは、被告は経由プロバイダであるから、法4条1項、法2条3号にいう「特定電気通信役務提供者」に該当しないと主張した。

1審の東京地裁民事第37部は、

  1. 被告は、「特定電気通信役務提供者」(法4条1項、2条3号)に該当しない
  2. 原告主張のFOMAカード個体識別子による情報は、法4条1項所定の「権利の侵害に係る発信者情報」ではなく、被告は発信者情報を保有していない、原告らの本件請求はいずれも理由がない

とし、原告らの各請求をいずれも棄却した。

2審の東京高裁第24民事部は、解釈を変えた。

[判決主文]

  1. 原判決を次の通り変更する
  2. 被控訴人は、控訴人X1に対し、原判決別紙アクセスログ目録(1)の表の2,3及び5の「投稿日」及び「時間」欄記載の日時における、これに対応する同表の「icc」欄記載のFOMAカード個体識別子によって特定されるFOMAカードに係るFOMAサービス契約の相手方の住所及び氏名又は名称をそれぞれ開示せよ。」とし、被控訴人は、控訴人X2、X3,X4に対しても、同様の開示をせよ

と命じ、控訴人らのその余の請求は棄却した。

最高裁(金築誠志裁判長、宮川光治、櫻井龍子、横田尤孝、白木勇)は、上告を棄却した。

[判決要旨]
「最終的に不特定多数の者に受信されることを目的として特定電気通信設備の記録媒体に情報を記録するためにする発信者とコンテンツプロバイダとの間の通信を媒介する経由プロバイタは、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律2条3項にいう「特定電気通信役務提供者」に該当する。

東京地裁平成15年9月17日判決(平成15年(ワ)第3992号判タ1152号276頁)は、経由プロバイダについて同旨の判断をしていた。