漫画家発信者情報開示請求事件

2015年10月20日

漫画の著作権者である原告が、インターネット上のあるブログにより、原告漫画本が無断で、アップロードされ、リンク先で本の表紙の画像とともに、著作物が掲載され、著作権(公衆送信権)が侵害されたとし、発信者を特定するため、インターネットに接続していた者について、KDDI株式会社に発信者情報の開示を請求した事件。

東京地裁平成26年1月17日判決(平成25年(ワ)第20542号)

原告は、同人サークル「Art Jam」をたちあげ、「B」のペンネームで漫画原作等を行っている者で、「本件漫画1」「本件漫画2」の著作権者である。
 被告(KDDI株式会社)は、電気通信事業者として、インターネット接続サービスやサービスプロバイダ業等を行う株式会社である。

 原告は、訴外LINE株式会社が管理するライブドアブログに開設の「どーじんぐ娘」(以下、本件ブログ)があり、誰かが、原告の漫画を原告に無断で、アップロードし、送信可能化したファイルに対するリンクが表紙の画像と共に掲載されていることを知った。
原告は、債権者となり、債務者をLINE株式会社として、発信者情報開示に関する仮処分決定を得て、

  1. 本件記事の発信者に係るIPアドレス及び
  2. 本件記事が送信された年月日時刻

の開示を受けた。
IPアドレスは、被告が管理している。被告は、プロバイダ責任制限法4条1項の「開示関係役務提供者」に当たると主張し、原告の権利侵害をした発信者を訴えるためには、被告に発信者情報の開示を求めて、訴えた。

 すなわち原告は、本件IPアドレス本件タイムスタンプの時刻に使用して、インターネットに接続していた者について、プロバイダ責任制限法4条1項に基づき、別紙発信者情報目録記載の発信者情報の開示を求めた。

[東京地裁民事29部判決]
大須賀滋裁判長は、次のように判断し、「被告は、原告に対し、別紙発信者情報目録記載の各情報を開示せよ。」と判決した。

  1. 被告は、本件IPアドレスを管理する経由プロバイダで、法4条1項の「開示関係役務提供者」である。
  2. 本件記事に対応するダウンロードサーバーに本件漫画の電子ファイルをアップロードした者は、公衆の用に用に供されている電気通信回線に接続している自動公衆通信装置の公衆送信用記録媒体に本件漫画の情報を記録(アップロード)して、原告の本件漫画を送信可能化し、自動公衆送信しうるようにしていた(パスワードは公開)ので、原告の公衆送信権侵害は明らかである。本件記事を投稿した発信者は、ダウンロードサーバーに本件漫画の電子ファイルをアップロードした者と同一人であると認めるのが相当であり、仮にそうでないとしても、少なくともアップロード者と共同して主体的に原告の公衆送信権を侵害したことは明である。
  3. 原告は、発信者に対し損害賠償請求の予定があるので、発信者を特定するため、本件IPアドレスを本件タイムスタンプの時刻に使用してインターネットに接続していた者(発信者)の住所、氏名及びメールアドレスの開示を受けるべき正当な理由がある。
LINEについては愼武宏・河鐘基「ヤバいLINE」(光文社新書・2015年5月20日)がある。