漫画家佐藤秀峰の描いた天皇の似顔絵を無断で、画像投稿サイトに投稿したことが著作権侵害及び著作者人格権侵害とされ、50万円の損害賠償が命ぜられた事例である。
原告X(佐藤秀峰)は、著名な漫画家であるが、2012年9月、「ブラックジャクによろしく」の二次使用を商用、非商用をとわずフリーにしたことで話題になった。
訴外A(有限会社佐藤漫画製作所)は、Xが制作した作品の著作権の管理等を行う特例有限会社である。
Aは、「漫画on Web」というウエブサイトを運営しているが、販売促進活動の一環として、同サイトで、Xの作品を購入した顧客に対し、その希望する人物の似顔絵をXが色紙に描き、これを贈与するというサービスを提供した。
被告Yは、平成24年3月20日頃、このサイトを通じて、Xの「特攻の島」3巻及び4巻を購入すると共に、Aに対し、Xが描いた昭和天皇及び今上天皇の似顔絵を各1枚贈るよう申し入れ、Xは、これに応じAがYに送付した。
平成24年3月24日、Yは、ツイッターのサイト(以下、本件サイト)に、
「天皇陛下にみんなでありがとうを伝えたい。陛下の似顔絵を描いてくれるプロのクリエータさん。お願いします。クールJAPANなう、です。」
と投稿し、その後、似顔絵のうちの1枚を撮影した写真をTwitpicという画像投稿サイトにアップロードした上、本件サイトに
「陛下プロジェクトエントリーナンバー1,X.海猿、ブラックジャックによろしく、特攻の島」
と投稿し、上記画像投稿サイトへのリンク先を掲示した。また、Yは、残る1枚の似顔絵についても、上記画像投稿サイトにアップロードし、本件サイトに
「はい応募も早速三通目!…なんとまたXさんの作品だ!なんか萌えますな。萌え陛下。」
と投稿し、上記画像投稿サイトへのリンク先を掲示した(以下、本件行為1)。
これに対しXは、
「お客様のリクエストには極力お応えするのですが、政治的、思想的に利用するのはご遠慮ください。あくまで個人的利用の範囲でお応えしたイラストです。」
と投稿したところ、Yは、
「あ、はいゴメンなさい。賛同していただけるかと思ったのですが、届きませんでしたか…ごめんなさい。消します。」
と投稿し、その後、本件似顔絵の写真を上記画像投稿サイトから削除した。
しかし、Yは、本件サイトに、平成24年3月25日、
「毒をもって毒を制すということで、大手マスコミと同じ手法を取ってみた。」
翌26日
「どんな手を使っても注目を集めて伝えたいことがあるんです。」
「Xさんにも○害予告されましたし、あちこちから狙われてますのでW俺の交友範囲は右から左、官から暴、聖から貧まで幅広いですが、危険情報ばかり流しているので…アブナイJAPANというのに少しまとめてあります…(以下省略)」
と投稿した(以下、本件行為2)。
本件サイト及び画像投稿サイトにおけるYの投稿内容は、Yがブロックした者以外の者に自由に閲覧できた。
Xは、
[東京地裁]
民事46部の長谷川浩二裁判長は、本件行為1の著作権侵害による損害額20万円、本件行為1による著作者人格権侵害、及び本件行為2のXへの名誉毀損について、それぞれ15万円(合計30万円)と認定し、Yは、Xへ50万円を支払うよう命じた。
Yは、控訴し、Xは、自らの作品について、著作権フリーの姿勢をみせており、Yには著作権侵害の故意はない、と主張、これに対し、Xは、「自ら制作した特定の作品のみ他人意よる自由な二次利用を許諾したにすぎない」と反論した。
[知財高裁]
第3部の設楽隆一裁判長は、原判決が認容した限度で、理由がある、と1審判決を支持し、本件控訴を棄却した。
[参考文献]
判例評釈として、小泉直樹「著作者の名誉声望の侵害」『ジュリスト』2013年10月号6頁、大家重夫「入手した天皇似顔絵を政治・思想目的でウエブサイトに掲載利用した事件」日本マンガ学会ニューズレター36号(2014年1月)8頁。