大家重夫の世情考察

山野草動画事件

フリーのカメラマンとパケージソフト製作会社の間で、契約の解釈の相違から紛争が起こった事件である。

知財高裁平成26年4月23日判決(平成25年(ネ)第10080号)
東京地裁平成25年8月29日判決(平成24年(ワ)第32409号、平成25年(ワ)第5163号)

原告は、フリーのカメラマン。
被告は、音楽、教養、文芸等のパッケージソフト、デジタルコンテンツの企画、製作及び販売を業とする株式会社ポニーキャニオンである。
原告は被告の委嘱により、平成21年11月1日付で、「Virtual Trip 山野草(仮題)」に使用する録音録画物の製作業務を行い、被告が一時金150万円及び印税を支払うことを内容とする契約を行った。

  1. 契約の中に、「製作された原版」「及び原版を製作する過程で生じた中間成果物」「に関する所有権並びに著作権法上の一切の権利(著作隣接権、並びに著作権法第27条、28条の権利を含む)、産業財産権及びその他一切の権利は甲(被告)に帰属するものとする」(1条2項)があった。
  2. 原告は、ソニーPCL株式会社運営の「髙画質ビデオライブラリー」に映像動画(本件映像動画1)を提供し、ライブラリーにおいて、これらを販売し、株式会社アマナイメージズ運営の動画素材販売ウエブサイトにおいて映像動画(本件映像動画2)を販売した。
  3. 被告は、平成24年3月21日、原告が撮影した映像動画を収録した「Virtual Trip 花 Flowers 四季の山野草と高山植物」という題名のDVD及びBlu-rey(以下、本件作品)を発売した。本件作品は、春、夏、高山植物、秋、冬の5ブロックからなり、それぞれのブロックについて、風景の映像動画、山野草の映像動画、その山野草の映像動画の間に風景の映像動画(以下、本件風景映像動画)を収録し、山野草の映像動画等は448点、尺数58分4秒、本件風景映像動画は、点数52点、尺数9分8秒である。
  4. 被告は、本件映像動画1が、契約1条2項の本件成果物に当たることを理由に、10日以内に、ソニーPCL株式会社運営の「髙画質ビデオ素材ライブラリー」への掲載と販売を中止し、被告へ引き渡すよう催告した。

被告は平成24年6月12日、本件契約を解除する旨の意思表示をした。

[訴訟の提起]
原告は、被告が本件作品に本件風景映像動画を使用しているが、その複製、頒布を許諾していない。本件作品から、「風景の映像動画」を全て即刻削除せよ、不法行為による損害賠償請求権に基づき、225万円及び遅延損害金の支払を求めた。

[反訴]
被告は、反訴を起こし、原告が契約の条項に違反したことを理由に、原告との間の製作委嘱契約を解除したとして、上記契約に基づき、原告撮影の山野草の映像動画について、被告が著作権を有することの確認、これらを収録した映像素材(原版)の引渡並びに原告に対する既払金合計153万6465円及びこれに対する遅延損害金の支払いを求めた。

[東京地裁]
民事47部高野輝久裁判長は、次のように判断し、判決した。

  1. 原告は、「扉」について各季節を意味すると解し、4点の風景の映像動画の使用は承諾したが、風景の映像動画を収録することは承諾していない。
  2. 損害額は、9分8秒分に相当する23万5935円である。
  3. 削除請求は、前提である差止め請求をしていないから不適法である。

反訴について。

  1. 本件映像動画1,2の著作権確認請求、これらを収録した映像素材(原版)の引渡請求は理由がある。
  2. 原告は、既払金153万6465円及び遅延損害金を被告へ支払え。

判決は、

  1. 被告は、原告へ23万5935円支払え。
  2. 別紙映像動画について、被告が著作権を有することを確認する。
  3. 原告は、被告に対し、各映像動画を収録した映像素材(原版)を引き渡せ。
  4. 原告は、被告に153万6465円支払え。
  5. 原告のその余の損害賠償請求を棄却し、原告のその余の請求に係る訴えを棄却する。
  6. 被告のその余の請求を棄却する。(7,8.省略)

として、被告の反訴を全面的に認めた。

[知財高裁]
原告・控訴人は、
1,被控訴人・被告が販売する後記「本件作品」中の「本件風景映像動画」部分が控訴人の著作権(複製権)を侵害するとして、不法行為に基づき、損害賠償金225万円及び附帯金の支払、
2,本件風景映像動画の著作権(複製権)に基づいて、本件作品から本件風景映像を削除することを求めた。
被告・被控訴人は、控訴人に対し、反訴として、
3,控訴人が販売する「本件映像動画1」及び「本件映像動画2」は、録音録画物製作委託契約である「本件契約」に基づき被控訴人が著作権を取得したとし、著作権に基づいて、本件映像動画1及び本件映像動画2の著作権確認と、
4,本件契約に基づいて、本件映像動画1及び本件映像動画2の映像素材の引渡と、
5,本件契約の解除に基づいて、既払金153万6465円の返還及び附帯金の支払を求めた。
控訴人は、本件作品を収録したDVD等の販売等の差止めと本件作品を収録したDVD等の廃棄を申立てた。被控訴人は、原判決主文1項の取消を求めた。

2部清水節裁判長は、次のように判断した。

  1. 控訴人は、本件風景映像動画を複製、頒布することの許諾をした。
  2. 本件映像動画1及び本件映像動画2,は、一体として、本件成果物である。
  3. 本件契約の解除の有効性。被控訴人のした本件契約の解約は、効力を有する。
  4. 本件契約の解除の効果について。

本件は、本件契約10条が本来的に想定する事例と異なるとして、契約の合理的解釈として、被控訴人は、控訴人に対し、本件作品を返還する必要はなく、本件映像動画1及び本件映像動画2の著作権等の取得も継続されるが、既払金の返還を求めることはできない、というべきである。(控訴人に既払金153万6465円の返還及び既払金の遅延金の支払を命じた原判決主文4項は不当であるからこれを取り消す)。

「主文」

  1. 本件控訴について
    1. 原判決主文第4項を取り消す。
    2. 前項の取消部分に係る被控訴人の請求を棄却する。
    3. その余の本件控訴を棄却する。
  2. 本件附帯控訴について
    1. 原判決主文第1項を取り消す。
    2. 前項の取消部分に係る控訴人の請求を棄却する。
  3. 当審請求について
    控訴人の当審における新たな請求を棄却する。
  4. 訴訟費用は、第1、2審とも、本訴反訴を通じて、これを2分し、その1を控訴人の、その余を被控訴人の各負担とする。
原告・控訴人は、弁護士を依頼せず本人で、訴訟を追行している。

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中国政官データ[2016年5月版]

著者:大家 重夫(Shigeo Ohie)のご紹介

著者:大家 重夫(Shigeo Ohie)の写真

2013年 フランス ランスにて

プロフィール

1934(昭和9)年生まれ
久留米大学名誉教授・国際日本語普及
協会理事
LAIT(IT知財法務研究所)
客員研究員

京都大学法学部卒
1960年文部省(現・文部科学省)
1970年文化庁著作権課長補佐
1988年私立久留米大学法学部教授。
1995年久留米大学法学部長
2005年久留米大学特任教授・名誉教授
2011年日本ユニ著作権センターより
「著作権貢献賞」を受賞

主な著書に

  • 肖像権(1979年・新日本法規)
  • 改訂版ニッポン著作権物語(1999年・青山社)
  • タイプフェイスの法的保護と著作権(2000年・成文堂)
  • 唱歌『コヒノボリ』『チューリップ』と著作権(2004年・全音楽譜出版社)
  • 肖像権 改訂新版(2011年・太田出版)
  • 美術作家の著作権 その現状と展望
    (福王子一彦と共著・2014年・里文出版)
  • ウルトラマンと著作権
    (上松盛明氏と共編・2014年・青山社)
  • インターネット判例要約集(2015年・青山社)

などがある。

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