大家重夫の世情考察

大学院教授対医博作家海堂尊事件

医博で作家である海堂尊がインターネット上で、記事を掲載し、大学院教授から名誉毀損で訴えられ、110万円の損害賠償が命じられた事例である。

東京地裁平成22年1月18日判決(平成20年(ワ)第29905号、判時2087号93頁)

原告Xは、T大学大学院教授で日本病理学会副理事長である。
被告Yは、独立行政法人放射線医学総合研究所重粒子医科学センター病院勤務の病理専門の医学博士で、海堂尊のペンネームをもつ作家でもある。

Xは、社団法人内科学会が平成17年9月1日から厚生労働祥補助事業として実施の「診療行為に関連した死亡の調査分析モデル事業」に関与していたが、平成20年度科学研究費補助金で、研究課題「『診療行為に関連した死亡の調査分析』における解剖を補助する死因究明手法の検証に関する研究」の募集に応じ採択された。応募はXのみであった。
Yは、海堂尊の名前で、(株)日経ビーピー社が運営する「日経メデイカルオンライン」というサイト(医師限定のサイト)内で、「Aiめぐる生臭い話」などの記事を掲載した。
また、Yは、(株)宝島社が運営する「『このミス』大賞受賞作家・海堂尊のホームページ・宝島社」サイト内に「学会上層部と官僚の癒着による学術業績剽窃事件」と題する記事を掲載した。

Xは、Yに対して、これらの記事により、Xの名誉を毀損されたとして、330万円(慰謝料300万円、弁護士費用30万円)を求めて訴えた。
Yは、記事の摘示した事実は、真実であり、また公正な論評であると主張し、争った。
東京地裁民事5部(畠山稔裁判長、熊谷光喜、折田恭子裁判官)は、日経ビーピーのサイトの記事1と宝島社のサイトの記事2を合わせて、これを、別紙とし、「No.1」部分を、「本件記述1」とし、本件記述12まで、を順に、主張を並記し、検討した。

  1. 本件記述1,2,4,5,6,7,8,9,はXの社会的評価を低下させるとした。
  2. 本件記述3,4の摘示事実は、真実かどうかについて、真実と認める証拠はない、とした。
  3. 本件記述10,11,12は、公正な論評でないとした。
  4. 原告は、精神的苦痛を被っており、本件記事1は、閲覧記事ランキング一位になり、多数の目にふれたこと、Xの社会的地位その他本件に現れた一切の事情を総合考慮し、慰謝料100万円、弁護士費用10万円、合計110万円の支払いをYに命じた。
学者間の争いである。問題の記事について裁判官は、両者の主張を並記し、丁寧に審理している(判例時報2087号参照)。内部告発的な記事と思われる。

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中国政官データ[2016年5月版]

著者:大家 重夫(Shigeo Ohie)のご紹介

著者:大家 重夫(Shigeo Ohie)の写真

2013年 フランス ランスにて

プロフィール

1934(昭和9)年生まれ
久留米大学名誉教授・国際日本語普及
協会理事
LAIT(IT知財法務研究所)
客員研究員

京都大学法学部卒
1960年文部省(現・文部科学省)
1970年文化庁著作権課長補佐
1988年私立久留米大学法学部教授。
1995年久留米大学法学部長
2005年久留米大学特任教授・名誉教授
2011年日本ユニ著作権センターより
「著作権貢献賞」を受賞

主な著書に

  • 肖像権(1979年・新日本法規)
  • 改訂版ニッポン著作権物語(1999年・青山社)
  • タイプフェイスの法的保護と著作権(2000年・成文堂)
  • 唱歌『コヒノボリ』『チューリップ』と著作権(2004年・全音楽譜出版社)
  • 肖像権 改訂新版(2011年・太田出版)
  • 美術作家の著作権 その現状と展望
    (福王子一彦と共著・2014年・里文出版)
  • ウルトラマンと著作権
    (上松盛明氏と共編・2014年・青山社)
  • インターネット判例要約集(2015年・青山社)

などがある。

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