動物病院対電子掲示板事件

2015年12月22日

名誉毀損書き込み放置した管理者責任が問われた事件である。

東京高裁平成14年12月25日判決(平成14年(ネ)第4083号判時1816号52頁)
東京地裁平成14年6月26日判決(判時1810号78頁)

原告X1(動物病院)および原告X2(同院院長)は、被告Yが設置しているインターネット上の無料電子掲示板「Y2ちゃんねる」の「ペット大好き掲示板」に、X1を「悪徳病院」として批判、非難する発言が書き込まれていることを知った。
 X2は、名誉毀損発言の箇所を削除するよう求めたが、インターネットに不馴れなため、所定の削除依頼の方法に従ってなく、一部の削除にとどまった。
 X1,X2は、平成13年1月、訴訟を起こし、掲示板にXらの名誉毀損発言が掲載されたにもかかわらず、Yがこれらを削除するなどの義務を怠り、Xらの名誉が毀損されるのを放置したことにより、X1及びX2らそれぞれに対し、不法行為に基づき、損害賠償250万円を支払うよう、また、掲示板の名誉毀損発言の削除を求めた。

[東京地裁判決]
原告の請求のうち、損害賠償金額の一部を認容し、名誉毀損発言の削除を命じ、X側が勝訴した。「Yは、遅くとも本件掲示板において他人の名誉を毀損する発言がなされていることを知り、又は、知り得た場合には、直ちに削除するなどの措置を講ずべき条理上の義務を負っているものというべきである」と述べ、Yが、書き込まれた各発言を具体的に知っていたにもかかわらず、削除するなどの措置を講じなかったことから、Yの作為義務違反を認め、Xらへそれぞれ、200万円支払うことと、掲示板上の発言番号を特定し、その部分の削除するよう命じた。

[東京高裁判決]
Yは、控訴した。
控訴審は、合計400万円の損害賠償及び特定した掲示板上の発言の削除を命じる1審判決を支持し、控訴を棄却した。控訴審は、次の点を指摘した。
本件掲示板で、被害を受けた者が、その発言者を特定し、その責任を追及することは事実上不可能で、本件掲示板に書き込まれた発言を削除しうるのは、本件掲示板を開設し、これを管理運営する控訴人のみである。控訴人は、本件掲示板に他人の権利を侵害する発言が書き込まれないようにするとともに、書き込まれたときには、被害者の被害が拡大しないようするため、直ちにこれを削除する義務がある。「被害者自らが発言者に対して被害回復の措置を講じ得ないような本件掲示板を開設し、管理運営している以上、その開設者たる控訴人自身が被害の発生を防止すべき責任を負うのはやむを得ない。」と。また、名誉毀損の要件である公共性、公益目的、真実性・相当性について、1審同様、被害者の相手方が主張立証すべきであるとした。

控訴審で、400万円の損害賠償と2倍になっていることが注目される。

[参考文献]
新保史生・別冊ジュリスト179号「メイデイア判例百選」228頁(2005年)。
潮見佳男・コピライト499号27頁。町村泰貴・判タ1104号85頁。同・NBL742号6頁。同・2ちゃんねる動物病院事件(第1審判決)・(岡村久道編「サイバー判例解説」42頁)同・2ちゃんねる動物病院事件(控訴審判決)・(岡村久道編「サイバー判例解説」58頁)