大家重夫の世情考察

人材派遣会社対電子掲示板事件

ウエブサイトの電子掲示板に名誉毀損、信用毀損の投稿があるのに、速やかに削除しなかったサイトの運営管理者に対する不法行為に基づく損害賠償と謝罪文掲載要求が否定された事例である。

東京高裁平成22年8月26日判決(判時2101号39頁)
東京地裁平成21年11月27日判決(平成19年(ワ)第26700号)

原告X1は、英語指導助手の人材派遣業務等を営む会社で、X2は、その代表者である。
被告Yは、インターネットを利用した各種情報提供サービス等を行う会社で、英語総合情報サイト「GaijinPot.com」というフォーラムを運営している。

X1X2は、Yに対して、民法709条の不法行為にあたるとして、X1会社へは、信用の無形損害、弁護士費用の損害賠償と本件サイトへの謝罪文の掲載、X2に対しては、慰藉料と弁護士費用の損害賠償を請求し、訴えた。

X1X2は、サイトに、Xらへの誹謗中傷の書き込みがなされたが、

  1. Yがこの書き込みを行った(主位的主張)、
  2. そうでなくても、本件サイト管理に当たって、意図的に、Xらにとって不利な書き込みを行った者の格付けを上げる処分をし、Xらにとって有利な書き込みを行った者には、以後の書き込みを禁止する処分を行うことによりXらを誹謗中傷する書き込みを誘導した(予備的主張1)。
  3. Xらからの削除要請に応じず、第三者がXらを誹謗中傷する書き込みを行っていることを知りながら、これを放置し、削除する義務を怠った、

と主張した。

[東京地裁判決]

1審は、

  1. 主位的主張事実は認められない。
  2. 投稿者の格付けは、投稿数に応じて、機械的にランク付けする仕組みで、Yが意図的に格付けを引き上げたりしたものは認められず、不適切な書き込み者への書き込み禁止処分も予め公表されたルールに従がってなされ、YがXらを不当に攻撃する書き込み者に対して、書き込み禁止処分もしていて、X有利な書き込み者を意図的に書き込み禁止処分をして、Xらを誹謗中傷する書き込みを誘導したとは、認められない。
  3. Xらの書き込み削除要請にYが不当に応じないという対応をしたことや、本件サイトへの広告掲載を削除の条件として要求したことは、認められない

として、Xらの請求をいずれも棄却した。

[東京高裁判決]
東京高裁は、原審判決を支持して、控訴を棄却した。Xらに有利な書き込みを行う者を閉め出す意図がYにあったとは認められず、Yが削除要請があったときに要請者と対話の機会を設けるような運営を行っていることは不合理、不当でなく、Xらの削除要請を広告掲載の交換条件として、事実上削除処理を拒絶したことは、認められないとした。

サイト運営者が公平に運営しているのに、インターネット利用者が、不当に取り扱われ、名誉毀損、信用毀損の権利侵害を受けたと思い込んだ事例のようである。

ページトップへ

中国政官データ[2016年5月版]

著者:大家 重夫(Shigeo Ohie)のご紹介

著者:大家 重夫(Shigeo Ohie)の写真

2013年 フランス ランスにて

プロフィール

1934(昭和9)年生まれ
久留米大学名誉教授・国際日本語普及
協会理事
LAIT(IT知財法務研究所)
客員研究員

京都大学法学部卒
1960年文部省(現・文部科学省)
1970年文化庁著作権課長補佐
1988年私立久留米大学法学部教授。
1995年久留米大学法学部長
2005年久留米大学特任教授・名誉教授
2011年日本ユニ著作権センターより
「著作権貢献賞」を受賞

主な著書に

  • 肖像権(1979年・新日本法規)
  • 改訂版ニッポン著作権物語(1999年・青山社)
  • タイプフェイスの法的保護と著作権(2000年・成文堂)
  • 唱歌『コヒノボリ』『チューリップ』と著作権(2004年・全音楽譜出版社)
  • 肖像権 改訂新版(2011年・太田出版)
  • 美術作家の著作権 その現状と展望
    (福王子一彦と共著・2014年・里文出版)
  • ウルトラマンと著作権
    (上松盛明氏と共編・2014年・青山社)
  • インターネット判例要約集(2015年・青山社)

などがある。

シリア難民とインドシナ難民 - インドシナ難民受入事業の思い出のイメージ

シリア難民とインドシナ難民 - インドシナ難民受入事業の思い出 【2,800円+税】

ウルトラマンと著作権 - 海外利用権・円谷プロ・ソムポート・ユーエム社のイメージ

ウルトラマンと著作権 - 海外利用権・円谷プロ・ソムポート・ユーエム社 【4,500円+税】

インターネット判例要約集 - 附・日本著作権法の概要と最近の判例のイメージ

インターネット判例要約集 - 附・日本著作権法の概要と最近の判例 【2,800円+税】