パワードコム発信者情報開示事件

2015年12月18日

WinMXによるファイル送信は、「特定電気通信」=(不特定多数の者によって受信されることを目的とする電気通信の送信)に当たり、特定電気通信の始点は、特定電気通信役務提供者でなくてもよいから、本件ファイル送信が、「特定電気通信」に該当し、被告(株)パワードコムへ、発信者情報開示が命ぜられた事例である。

東京地裁平成15年9月12日判決(平成14年(ワ)第28169号)

原告Xは、ネット上、名誉毀損された者である。
被告Yは、株式会社パワードコムである。

 原告Xは、コンピュータプログラムWinmx を利用して行われた方法で、インターネットを経由した情報の流通で、(ユーザー942)という者が、Xのプライバシーを侵害した文章を書いていることを知った。
ユーザー942は、被告Y提供の通信装置を利用し、Yによって、インターネットプロトコルが付与され、Yは、ユーザー942の住所、氏名に関する情報を保有している。
Yは、Xらから本件発信者情報の開示を請求されたので、ユーザー942に対し、開示を問い合わせたところ、「勘弁して貰いたい」と回答した。YはXへ開示しなかった。
Xは、インターネット接続を提供したプロバイダであるYを被告として、発信者の住所氏名の開示を求めて訴えた。
 裁判で、WinMXによる電子ファイルの送信が、「特定電気通信」か、特定電気通信は、特定電気通信役務提供者が、始点に立つものである必要があるか、について論ぜられた。

[東京地裁]

民事第38部菅野博之裁判長は、次のように判断した。

  1. WinMXによるファイル送信は、プロバイダ責任制限法2条の「特定電気通信」の定義である「不特定の者によって受信されることを目的とする電気通信の送信」に当たる。
  2. 特定電気通信は、特定電気通信役務者が、その始点に立つものであることを要しない。

「判決主文」

  1. 被告は原告等に対し、平成14年12月6日22時48分ころに「61.204.152.48というインターネットプロトコルアドレスを使用してインターネットに接続していた者の氏名及び住所を開示せよ。
  2. 訴訟費用は被告の負担とする。
被告が東京地裁平成15年4月24日判決平成14年(ワ)第18428号(羽田タートルサービス事件)を援用したが、東京地裁は、別件判決であり、そもそもプロバイダ責任制限法のインターネット適用のない事案で、斟酌することはできないと、述べている。ナップ型音楽ファイル交換事件(東京高裁平成17年3月31日判決、東京地裁平成15年1月30日中間判決)は、送信者側コンピュータから受信者側コンピュータに対する電子ファイルの送信において、受信者側ユーザーが、アイデイーやインターネットプロトコルアドレスにより特定されていたとしても、送信側ユーザーから見て「不特定の者」に当たる、とする。
プロバイダについては、一般社団法人日本インターネットプロバイダー協会があり、正会員148,賛助会員6という(2015年6月)。なお、堀之内清彦「メデイアと著作権」(論創社・2015年)256頁。

[参考文献]森亮二・NBL771号(2003年10月15日)6頁。