大家重夫の世情考察

アクセス制御機能事件(刑事)

プログラムの瑕疵や不備のため識別符号を入力する以外の方法によってもこれを入力したときと同じ特定利用できることをもって、直ちに識別符号の入力により特定利用の制限を解除する機能がアクセス制御機能に該当しなくなり、合法というわけではないとし、執行猶予付8月の懲役に処せられという事例である。

東京地裁平成17年3月25日判決(平成16年特(わ)第752号、判時1899号155頁)

「不正アクセス行為の禁止等に関する法律」とは、

  1. 不正アクセス行為を禁止し、
  2. 電気通信回線を通じて行われる電子計算機に係る犯罪の防止、
  3. アクセス制御機能により実現される電気通信に関する秩序維持を図り、

もって高度情報通信社会の健全な発展に寄与することを目的とする法律である(1条)。

この法律は、「アクセス制御機能」を次のように定義している(2条3項)。
(特定電子計算機の特定利用を自動的に制御するために当該特定利用に係るアクセス管理者によって当該特定電子計算機又は当該特定電子計算機に電気通信回線を介して接続された他の特定電子計算機に付加されている機能であって、当該特定利用をしようとする者により当該機能を有する特定電子計算機に入力された符号が当該特定利用に係る識別符号であることを確認して、当該特定利用の制限の全部又は一部を解除するものをいう)、と定義してる(条文中の括弧書きを省略した)。この法律は、不正アクセス行為をしてはならない(3条1項)、として2項に3類型を掲げる。

1号)、アクセス制御機能を有する特定電子計算機に電気津信回線を通じて当該アクセス制御機能に係る他人の識別符号を入力して当該特定電子計算機を作動させ、当該アクセス制御機能により制限されている特定利用をし得る状態にさせる行為。

2号)、アクセス制御機能を有する特定電子計算機に電気津信回線を通じて当該アクセス制御機能による特定利用の制限を免れることができる情報又は指令を入力して当該特定電子計算機を作動させ、その制限されている特定利用をし得る状態にさせる行為。

3号)電気通信回線を介して接続された他の特定電子計算機が有するアクセス制御機能によりその特定利用を制限されている特定電子計算機に電気津信回線を通じてその制限を免れることができる情報又は指令を入力して当該特定電子計算機を作動させ、その制限されれている特定利用をし得る状態にさせる行為。

 被告人は、平成15年11月6日午後11時23分55秒頃から同月8日午後3時47分50秒頃まで、合計7回にわたり、京都市内ほか数カ所において、パーソナルコンピュータから電気通信回線を通じて、アクセス管理権者である大阪市中央区安土町甲野ビル3階乙山株式会社が大阪市内に設置した「アクセス制御機能を有する特定電子計算機であるサーバーコンピュータ」に当該アクセス制御機能による特定利用の制限を免れることができる指令を入力して上記特定電子計算機を作動させ、上記アクセス制御機能により制限されている特定利用をし得る状態にさせた。
 これは、「不正アクセス行為の禁止等に関する法律」3条2項2号違反に当たるとして、起訴された。被告人はコンピュータシステムなどで、本来の手順を踏まずにアクセスが可能になるような保護設計上の欠陥を利用したのであった。
 弁護人は、被告人のアクセス行為は、「アクセス制御機能」のない電子計算機に対するものであったから、不正アクセス禁止法3条2項2号に当たらない。2,被告人が、本件アクセスに及んだのは、コンピュータの脆弱性について、ボランテイア的問題提起であって、違法性は阻却される、3、仮にアクセス制御機能が存在していたとしても、被告人はそれを知らず、アクセス行為が禁止行為との認識がないとして、無罪を主張した。

東京地裁刑事10部青柳勤裁判長は、次のように判断した。

  1. 「アクセス制御機能」の有無は、プロトコル(コンピュータ間のデータ通信の規約)ごとでなく、特定電子計算機ごとに判断すべきである。特定電子計算機の特定利用のうち一部がアクセス制御機能によって制限されている場合であっても、その特定電子計算機はアクセス制御機能があると解すべきである、とした。
  2. 本件の各特定利用ができたのは、プログラムないし設定上の瑕疵があったためで、アクセス管理者が本件アクセス行為のような特定利用を誰にでも認めていたとはいえない。
  3. 被告人のアクセス行為が、サーバーの脆弱性に関する正当な問題指摘活動には当たらない。

とした。

[判決主文]
被告人を懲役8月に処する。この裁判が確定した日から3年間その刑の執行を猶予する。訴訟費用は全部被告人の負担とする。

不正アクセス行為の禁止等に関する法律違反の刑事事件判決は、多くない。
これは、珍しい判決例と思われる。

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中国政官データ[2016年5月版]

著者:大家 重夫(Shigeo Ohie)のご紹介

著者:大家 重夫(Shigeo Ohie)の写真

2013年 フランス ランスにて

プロフィール

1934(昭和9)年生まれ
久留米大学名誉教授・国際日本語普及
協会理事
LAIT(IT知財法務研究所)
客員研究員

京都大学法学部卒
1960年文部省(現・文部科学省)
1970年文化庁著作権課長補佐
1988年私立久留米大学法学部教授。
1995年久留米大学法学部長
2005年久留米大学特任教授・名誉教授
2011年日本ユニ著作権センターより
「著作権貢献賞」を受賞

主な著書に

  • 肖像権(1979年・新日本法規)
  • 改訂版ニッポン著作権物語(1999年・青山社)
  • タイプフェイスの法的保護と著作権(2000年・成文堂)
  • 唱歌『コヒノボリ』『チューリップ』と著作権(2004年・全音楽譜出版社)
  • 肖像権 改訂新版(2011年・太田出版)
  • 美術作家の著作権 その現状と展望
    (福王子一彦と共著・2014年・里文出版)
  • ウルトラマンと著作権
    (上松盛明氏と共編・2014年・青山社)
  • インターネット判例要約集(2015年・青山社)

などがある。

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