「がん闘病記」医師ネット転載事件

2015年11月24日

医師が患者が月刊誌に掲載したがん闘病記事 を、患者に無断で、医師がクリニックのホームページに掲載し、医師が著作権(複製権、公衆送信権)侵害及び著作者人格権(氏名表示権、同一性保持権)侵害に問われた事例である。

東京地裁平成22年5月28日判決(平成21年(ワ)第12854号)

 原告Xは、平成14年、末期の子宮頸がんを宣告されたが、化学療法、外科療法等により治癒した者である。
 被告Yは、平成16年4月21日から平成20年3月18日まで、Xを診療、治療を実施したYクリニックを経営する医師である。

 Xは、平成18年1月頃から、体験を基に、「がん闘病マニュアル」を執筆をはじめて、月刊誌「がん治療最前線」に平成18年10月号(8月発売)から、20回にわたって連載し、のち単行本にした。
 Yは、平成17年に、Yクリニックのホームページを開設していたが、Xの記事の4回目(平成19年1月号)から10回目連載の分及び18回連載分の本文部分を、ホームページの「漢方コラム」欄に転載した。
 Xは、Yへ平成20年9月16日、Yの転載中止を求め、Yは、同年9月末日までに、転載記事を削除した。
平成21年、Xは、Yに対し、著作権侵害、著作者人格権侵害、プライバシー権侵害及び名誉権侵害で、1250万円の損害賠償を求めて提訴した。

[東京地裁]
民事40部の岡本岳裁判長は、次のように判断した。

  1. Yは、Xの文章をインターネット、ホームページに転載するについて、Xの許諾を得たと主張しているが、転載についてXが許諾した事実は認めることができないとした。
  2. Yは、本件転載は、著作権法32条1項の「引用」に当たる、と主張したが、これを認めなかった。著作権(複製権、公衆送信権)侵害を認めた
  3. Yは、Xに無断で、Xを「子パンダ」と表示したことは、Xの氏名表示権の侵害で、Xの文章を転載の際、リード文を切除し、本文のみを転載したが、これは、同一性保持権の侵害であるとした。
  4. Xは、プライバシー権侵害を主張したが、Yの転載記事は、Xが公開した事実の範囲内であり、認めなかった。Xは、Yの転載によりXの名誉権が侵害されたと主張したが、名誉権侵害は、認められないとした。
  5. Xの著作権(複製権、公衆送信権)侵害による財産的損害額について、損害額は利用許諾料の額とし、21万6000円(1頁12000円×18頁)とした。
     著作者人格権(氏名表示権、同一性保持権)侵害を慰藉する額として、15万円、弁護士費用5万円とした。

「判決主文」
1,被告は、原告に対し、41万6000円及びこれに対する平成21年4月25日から支払い済みまで年5分の割合の金員を支払え。(あと省略)」

患者に無断で医師が患者の著作物を転載したということは、相互の信頼関係が失われていたということである。