大家重夫の世情考察

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エステックサロン対楽天仮処分事件

発信者情報開示請求権を被保全権利とする発信者情報の開示を命ずる断行の仮処分が認められた事例である。

東京地裁平成17年1月21日決定(平成16年(モ)第54824号判時1894号35頁)
東京地裁平成16年9月22日決定(平成16年(ヨ)第2963号判時1894号40頁)

債権者Xは、A又はエステキューズ及びBの名称で、エステックサロンの経営等を業とする株式会社である。
債務者Y(楽天株式会社)は、各種マーケッテイング業務の遂行及びコンサルテイング等を業とし、インフォーシークレンタル掲示板という電子掲示板を開設、インターネットサービスを提供している。

インフォシークレンタル掲示板に、「ベルボーというサポーターが、全部で20万円もするにかかわらず、開封してみると紙1枚だけでどういう仕組みで痩せられるかのか等について全く掲載されておらず、グルメッツという食品に至っては詳しい成分の記載もなく、こんな怪しい商品は今まで見たことがない」といった記事が掲載された(ベルボーもグルメッツもXが販売している商品である。)。
Xは、Yに対して、Yの電子掲示板に対する投稿により、名誉を毀損されたとして、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報開示に関する法律(以下、プロバイダ責任制限法)4条1項の発信者情報開示請求権を被保全権利として、同投稿にかかるIPアドレス等の開示を求めた。

[平成16年原決定]
平成16年9月22日東京地裁は、Xの申立の内、別紙記事目録1記載番号15(タイトル、返品について),97(まとめて返事),143(Aやめました),178(現社員です),別紙記事目録2記載番号14(最悪でした)については、理由があるとして、これを認容し、その余の申立は、被保全権利の疎明を欠くとして、これを却下した。債務者Yが保全異議を申し立てた。

[平成17年本決定]
民事9部大橋寛明裁判長は、別紙記事目録1掲載番号178及び同目録2掲載番号14に係る発信者情報の開示を命じた部分については、被保全権利の疎明があるとはいえず、不当であるから、これを取消し、その余の部分は正当であるからこれを認可し、債権者の仮処分命令申立は、上記取消に係る部分につきこれを却下した。

電子掲示板においては、化粧品、健康食品などの商品、サービスへの悪口、非難、批評があり、これに対し、信用毀損、名誉毀損で対抗する事例が多い。

電話番号ネット掲示板公表事件

電話帳に記載されている実名、電話番号等をパソコン通信に無断で公開したことがプライバシーの侵害にあたるとして、20万2380円の損害賠償が命ぜられた事例である。

神戸地裁平成11年6月23日判決(判時1700号99頁)

原告Xは、個人で診療所を開業している眼科医で、ニフテイ(株)の会員である。
被告Yも、ニフテイ(株)の会員である。

XYともに、ニフテイの運営する掲示板を利用していた。
Yは、平成9年5月17日未明、Xの氏名、職業、Xが開設する診療所の住所及び電話番号等の個人情報をニフテイの掲示板に掲載した。
Xの氏名、職業等の個人情報は、医師会名簿には掲載されていても、ネットの参加者には公開されていなかった。Xは、個人情報をネットの掲示板システムに掲載されて、自己のプライバシーを侵害され、その結果、原告Xは、数名の者から無言電話のいやがらせの電話を受け、眼科の診療を妨害され、信用を毀損され、被害を被ったとして、Yに対し、不法行為に基づく損害賠償181万0360円(内訳、1,営業損害30万7980円、2,治療費2380円、信用毀損による損害50万円、4,慰藉料100万円)を請求した。

竹中省吾裁判長は、Yの本件表示は、プライバシーを侵害に当たるとして、20万2380円(治療費2380円、慰藉料20万円)および遅延損害金を支払うようYへ命じた。

インターネット掲示板で、プライバシーが暴露された者が勝訴した事件である。慰謝料20万円は低く、50万円程度にしてもよかったのではないか。

[参考文献]
新保史生「サイバー法判例解説」(岡村久道編・商事法務・2003年)92頁。
牧野二郎「ニフテイ・プライバシー事件」(岡村久道編「インターネット訴訟2000」(ソフトバンク・パブリッシング・2000年)222頁)

本と雑誌のフォーラム事件

ニフテイサーブ「本と雑誌のフォーラム」での名誉毀損事件である。

東京地裁平成13年8月27日判決(平成11年(ワ)第2404号、判時1778号90頁判タ1086号181頁)

Yは、インターネット上の電子掲示板の運営会社。
Xは、Yが提供するニフテイサーブの会員として、「本と雑誌のフォーラム」において、ID番号とハンドル名で意見表明をしていた。匿名で参加してきたAの第三者宛コメントに対しXが、「私に対する個人的侮辱だ」と発言し、Aが「やれやれ、妄想系ばっかりかい、この会議室は(笑)?」と応じ、言論による20通の書き込みの応酬がつづいた。

Xは、Yに対し、

  1. YがAの不法行為に対し適切な措置をとらなかったため、Xが精神的苦痛を被ったとして、債務不履行ないし不法行為により損害賠償を請求し、
  2. Yが発信者Aの契約者情報(氏名、住所)の情報を開示せず、Xの名誉権回復を妨害しているとして、

人格権による差止請求権及び不法行為に基づく妨害排除請求権を根拠に、Aの契約者情報(氏名、住所)を請求した。

[東京地裁判決]
原告の請求を棄却した。

  1. 言論による侵害に対し、言論で対抗するというのが表現の自由の基本原理であり、被害者が、加害者へ十分な反論をし、それが功を奏した場合、被害者の社会的評価は低下していないから、このような場合、不法行為責任を認めることは、表現の自由を萎縮させるおそれがあり、相当と言えない。
  2. 本件において、「会員であれば、自由に発言することが可能であるから、被害者が、加害者に対し、必要かつ十分な反論をすることが容易な媒体であると認められる。」
    「被害者の反論が十分な効果を挙げているとみられるような場合には、社会的評価が低下する危険性が認められず、名誉ないし名誉感情毀損は成立しない」
  3. 「被害者が、加害者に対し、相当性を欠く発言をし、それに誘発される形で、加害者が、被害者に対し、問題となる発言をしたような場合には、その発言が、対抗言論として許された範囲内のものと認められる限り、違法性を欠く」
  4. 「Aは、Xに対し、不法行為責任を負わない。よって、Aに不法行為が成立することを前提としたXのYに対する本件請求は」「理由がない。」
書込がXの挑発的発言に対する反論、対抗的言論で許されるという法理から、不法行為(名誉毀損)にならないとした点が興味を引く。

[参考文献]
山口成樹・別冊ジュリスト179号「メイデイア判例百選」226頁(2005年)。
大須賀寛之・ニフテイーサーブ「本と雑誌のフォーラム」事件・(岡村久道編「サイバー 判例解説」96頁)

現代思想フォーラム事件

パソコン通信の電子会議室における発言が名誉毀損とされ、50万円の支払いを命じられたが、会議室主宰者とシステムオペレーターは、発言削除義務違反等の責任がなく、損害賠償を負わなかった事例である。

東京高裁平成13年9月5日判決(平成9年(ネ)第2631号・2633号・第2668号、5633号、判タ1088号94頁判時1786号80頁)
東京地裁平成9年5月26日判決(判時1610号22頁)

 パソコン通信ニフテイサーブの主宰者Y1(被告・控訴人)は、ニフテイサーブ上に、「現代思想フォーラム」を開設し、Y2(被告・控訴人)をシステムオペレーターにし、その管理運営に当たらせていた。X(原告・被控訴人)及びY3(被告・控訴人)は、ニフテイサーブの会員である。平成5年11月から平成6年3月にかけて、Y3は、Xが名誉毀損等に当たると主張する発言を書き込んだ。
シスオペのY2は、問題点を指摘したが、削除はしなかった。その後、平成6年2月15日、Y2は、Xの訴訟代理人から発言番号を特定し、削除要請を受けたため削除した。

同年4月、Xは、

  1. Y3に対し、名誉毀損等の不法行為に基づき、
  2. Y2に対し、名誉毀損等の発言を直ちに削除する作為義務の懈怠による名誉毀損を放置した不法行為に対し、
  3. Y1に対しては、Y2の使用者責任等の債務不履行責任に基づき、

各自1,000万円及びこれに対する遅延損害金の支払い及び謝罪広告を求め訴訟になった。

[東京地裁]
Y3の発言は、名誉毀損に当たる、Y2は、本件各発言を知ったときから条理上の削除義務を負うとし、本件各発言の一部につき削除義務を怠った過失があるとし、Y1は使用者責任を負うとし、Yらについて各自10万円、Y3についてはさらに、40万円の支払いを命じ、謝罪広告掲載要求は棄却した。

[東京高裁]
 控訴審は、Y3の発言の一部が、名誉毀損・侮辱に当たると認め、Y3へは、50万円の支払いを命じた。Y2及びY1については、発言削除義務違反等の責任が認められないとし、原判決を取消して、Y2、Y1に対するXの請求を棄却した。

地裁と高裁の意見が異なる点が興味を引く。

[参考文献]
橋本佳幸・判例時報1809号178頁(判例評論530号16頁)。
大谷和子・ニフテイーサーブ「現代思想フォーラム」事件・(岡村久道編「サイバー判例解説」98頁)。西土彰一郎・別冊ジュリスト179号「メイデイア判例百選」224頁(2005年)。牧野二郎「ネット関連訴訟の現状について」自由と正義2002年6月号68頁。
参考:http://www.law.co.jp/cases/gendai2.htm

ホテル・ジャンキーズ事件

被告が、インターネットの掲示板への書き込みをした者の著作権を侵害したことは、認められたが2審で賠償額が減額された事例である。

東京高裁平成14年10月29日判決(平成14年(ネ)第2887号、第4580号)
東京地裁平成14年4月15日判決(平成13年(ワ)第22066号判時1792号129頁)

Y1(株式会社森拓之事務所)は、情報産業に関連する事業を営む会社で、「ホテル・ジャンキーズ」というホームページを設置、管理し、掲示板を設置し、書込みをさせていた。
Y2は、ホテルに関する執筆活動をしているジャーナリストで、Y1の取締役である。
Y3(株式会社光文社)は、図書、雑誌の出版を業とする株式会社で、Y1,Y2が執筆した書籍を出版、販売、頒布し、その宣伝広告をしている。
原告X1から原告X11までの11人は、Y1のホームページに文章を書き込んだ。被告らは、原告の文章を複製したとし、この行為は、著作権侵害であるとして、書籍の出版の中止を求め、また被告らに、X1らは、13万円から40万円までの損害賠償請求をした。

[東京地裁]
民事29部飯村敏明裁判長は、原告の書込みに著作物性を認め、被告らが複製権侵害をしたとした。被告Y3の過失を認定し、次の判決を下した。

  1. 書籍の出版、発行、販売、頒布、頒布のための広告及び宣伝の禁止。
  2. Y3(光文社)は、書籍並びにこれに関する印刷用紙型、亜鉛版、印刷用原板(フイルムを含む)の破棄。
  3. 被告らは、連帯して、X1、X2に対して、10万3300円、X10に対して10万7700円、X4に対して10万8800円、X7に対して、13万7400円、X8に対して10万2200円、X3に対して11万7600円、X6に対して10万2200円、X5に10万1100円、X9に対し10万3300円、X11に対して5万2200円の支払を命じた。

[東京高裁]
Yらは、控訴し、インターネットの特質を主張し、インターネットの書込みの著作物性の基準は、厳密な基準にすべし、と主張した。
民事第6部山下和明裁判長は、「創作性の高いものについては、少々表現に改変を加えても複製行為と評価すべき場合がある」「創作性の低いものについては、複製行為と評価できるのはいわゆるデッドコピーについてのみ」で、「少し表現が変えられれば、もはや複製行為とは評価できない場合がある」というように、「著作物性の判断に当たっては、これを広く認めた上で、表現者以外の者の行為に対する評価において、表現内容に応じて著作権法上の保護を受け得るか否かを判断する手法をとることが、できうる限り恣意を廃し、判断の客観性を保つという観点から妥当」とする。
原判決では、各記述について、一部分が省略された形で転載されているため、転載された部分毎に分けてそれぞれについて著作物性の判断をし、一部分についてその著作物性を否定したが、「著作物性の有無の判断は、まず、これらそれぞれの記述全体について行われるべきである」とし、全体として一個の転載行為がなされた、「原告各記述部分は、それ自体としてみても、原判決が著作物性を否定した部分を含め、いずれも、程度の差はあれ記述者の個性が発揮されていると評価することができるから、著作物性を認めるのが相当である。この点において、当裁判所は、原判決と判断を異にする。」とし、判決した

[判決主文]

  1. 原判決中、金員請求に関する部分(主文2,4項)を次の通りに変更する。
    1. 控訴人らは、連帯して、被控訴人X3に対し、5500円、被控訴人X11に対し、1100円、被控訴人X5に対し1100円、被控訴人X9に対し、1万2100円、被控訴人X9に対し2200円、被控訴人X4に対し、8800円、被控訴人X11に対し2200円及びこれらに対する平成13年10月26日から各支払い済みまで年5分の割合による金員を支払え。
    2. 被控訴人X2、同X7、同X6、同X10の各請求及び被控訴人X3、同X11、同X5、同X9、同X9、同X4、同X11のその余の請求をいずれも棄却する。
  2. その余の本件控訴及びその余の本件附帯控訴をいずれも棄却する。
  3. (省略)
  4. (省略)
ネットの文章を紙媒体にしたところ、著作権侵害に問われた事件である。

[参考文献]
光野文子・時の法令1678号48頁。
上野達弘・別冊ジュリスト179号「メイデイア判例百選」238頁(2005年)。

動物病院対電子掲示板事件

名誉毀損書き込み放置した管理者責任が問われた事件である。

東京高裁平成14年12月25日判決(平成14年(ネ)第4083号判時1816号52頁)
東京地裁平成14年6月26日判決(判時1810号78頁)

原告X1(動物病院)および原告X2(同院院長)は、被告Yが設置しているインターネット上の無料電子掲示板「Y2ちゃんねる」の「ペット大好き掲示板」に、X1を「悪徳病院」として批判、非難する発言が書き込まれていることを知った。
 X2は、名誉毀損発言の箇所を削除するよう求めたが、インターネットに不馴れなため、所定の削除依頼の方法に従ってなく、一部の削除にとどまった。
 X1,X2は、平成13年1月、訴訟を起こし、掲示板にXらの名誉毀損発言が掲載されたにもかかわらず、Yがこれらを削除するなどの義務を怠り、Xらの名誉が毀損されるのを放置したことにより、X1及びX2らそれぞれに対し、不法行為に基づき、損害賠償250万円を支払うよう、また、掲示板の名誉毀損発言の削除を求めた。

[東京地裁判決]
原告の請求のうち、損害賠償金額の一部を認容し、名誉毀損発言の削除を命じ、X側が勝訴した。「Yは、遅くとも本件掲示板において他人の名誉を毀損する発言がなされていることを知り、又は、知り得た場合には、直ちに削除するなどの措置を講ずべき条理上の義務を負っているものというべきである」と述べ、Yが、書き込まれた各発言を具体的に知っていたにもかかわらず、削除するなどの措置を講じなかったことから、Yの作為義務違反を認め、Xらへそれぞれ、200万円支払うことと、掲示板上の発言番号を特定し、その部分の削除するよう命じた。

[東京高裁判決]
Yは、控訴した。
控訴審は、合計400万円の損害賠償及び特定した掲示板上の発言の削除を命じる1審判決を支持し、控訴を棄却した。控訴審は、次の点を指摘した。
本件掲示板で、被害を受けた者が、その発言者を特定し、その責任を追及することは事実上不可能で、本件掲示板に書き込まれた発言を削除しうるのは、本件掲示板を開設し、これを管理運営する控訴人のみである。控訴人は、本件掲示板に他人の権利を侵害する発言が書き込まれないようにするとともに、書き込まれたときには、被害者の被害が拡大しないようするため、直ちにこれを削除する義務がある。「被害者自らが発言者に対して被害回復の措置を講じ得ないような本件掲示板を開設し、管理運営している以上、その開設者たる控訴人自身が被害の発生を防止すべき責任を負うのはやむを得ない。」と。また、名誉毀損の要件である公共性、公益目的、真実性・相当性について、1審同様、被害者の相手方が主張立証すべきであるとした。

控訴審で、400万円の損害賠償と2倍になっていることが注目される。

[参考文献]
新保史生・別冊ジュリスト179号「メイデイア判例百選」228頁(2005年)。
潮見佳男・コピライト499号27頁。町村泰貴・判タ1104号85頁。同・NBL742号6頁。同・2ちゃんねる動物病院事件(第1審判決)・(岡村久道編「サイバー判例解説」42頁)同・2ちゃんねる動物病院事件(控訴審判決)・(岡村久道編「サイバー判例解説」58頁)

眼科医対電子掲示板事件

電子掲示板に医療法人の名誉信用を毀損する書き込みがなされ、医療法人が発信者情報の一部を把握している場合に、プロバイダ責任制限法4条の要件が肯定された事例。

東京地裁平成15年3月31日判決平成14年(ワ)第11665号判時1817号84頁、金判1168号18頁

 原告は、E眼科という名称で全国に眼科病院を運営する医療法人である。
 被告は、インターネット上で、電子掲示板を管理運営する者である。

 訴外のAが、平成14年2月16日、ハンドルネームBを名乗って、本件掲示板に、「E眼科のセミナーにいってきた。投稿者B。あのヤロー他院の批判ばかりだよ。Mが裁判かかえてるて。お前のところは、去年3人失明させてるだろうが!」というメッセージを書き込んだ。
 原告は、少なくともこの情報により1名の患者が手術取消をし営業利益を侵害されたこと、平成13年に患者が3人失明した事実はないこと。原告は、訴外Aと面談し、同人の住所氏名は、入手したこと。これは、名誉毀損、信用毀損であり、損害賠償請求権を行使するため、発信者情報の開示を求めるとし、「特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律」(プロバイダ責任制限法)4条の正当な理由があると主張し、被告に開示を求めた。また、原告はすでに訴外Aと面談しているが、Aが、原告と競業関係にある病院を運営する医療法人の理事長が経営する会社の正社員であったことから、医療法人へも損害賠償請求を検討中で、そのため本件発信情報が訴外人の個人のパソコンから発信されたか、勤務先のパソコンからの発信からか、知る必要があるとして、発信者情報の開示を求めて訴えた。

[東京地裁判決]
東京地裁民事6部の高橋利文裁判長は、原告(被害者)が発信者情報の一部を把握し、送信行為自体をおこなった者が特定されているような場合であっても、その余の発信者情報の開示を受けることにより、当該侵害情報を流通過程に置く意思を有していた者すなわち、当該送信行為自体を行った者以外の「発信者」の存在が明らかになる可能性がある、として、発信者情報の開示を受けるべき必要性があるとし、原告の請求を認容した。

平成13年11月22日成立し、平成14年5月27日施行の「特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律」(平成13年法律第137号)の4条をめぐる初めての裁判例である。動画無断使用事件(東京地裁平成25年10月22日判決平成25年(ワ)第15365号)参照。

[参考文献]
長谷部由紀子「プロバイダ責任制限法による開示命令(1)」『別冊ジュリスト』「メデイア判例百選」179号230頁。

女流麻雀士対2ちゃんねる事件

インターネット上の電子掲示板に書き込まれた発言により名誉毀損された者が、その発言の削除を掲示板運営者に求め、削除しなかったことが、不法行為とされ損害賠償が認められ、また、その発言の削除請求が認容され、しかし、当該発言の発信者情報の開示請求は棄却された事例である。

東京地裁平成15年6月25日判決(平成14年(ワ)第13983号、判時1869号46頁)

原告は、日本プロ麻雀連盟所属の20代の未婚のプロ麻雀士である。
被告は、インターネット上で、閲覧及び書き込みが可能な電子掲示板「2ちゃんねる」の開設者、管理運営者である。

平成14年1月、掲示板に、原告について、「整形しすぎ」「年いくつ誤魔化してんの?」「穴兄弟たくさんいるよ」などの書き込みがなされた。

原告は、

  1. 原告の名誉を毀損する発言等が書き込まれたのに、被告がこれら発言の送信防止措置を講じる義務を怠り、原告の名誉が毀損されるのを放置し、原告が損害を被ったなどとして、原告が被告に対し、民法709条に基づき、706万1000円の損害賠償を求め、
  2. プロバイダ責任制限法に基づき、掲示板に原告の名誉を毀損する発言等の書き込みをした者の情報の開示を求めて

訴えた。

[東京地裁]
民事24部の大橋寛明裁判長は、次のように判断した。

  1. 掲示板への各発言は、名誉毀損にあたる。
  2. 被告が当該発言の送信防止措置を講ずる条理上の作為義務を負う。送信防止措置を講じなかったことは、作為義務違反で、原告に対して不法行為になる。
  3. 被告は、本件発信者の氏名、住所及び電子メールアドレス、発言に係るIPアドレスを保有している証拠はない。従って原告の本件発信者の情報の開示請求は理由がない。
  4. 被告が、発言を削除せず、送信を継続し、原告の名誉を毀損し、名誉感情を侵害した不法行為について、精神的損害を慰藉する賠償金額は、90万円が相当で、弁護士費用10万が相当である。

とした。

発信者情報の開示請求は棄却され、当該発言の削除は認められた事例である。

DHC名誉毀損事件

インターネットの電子掲示板に書き込まれた発言によって、名誉を毀損されたという化粧品会社とその代表取締役が掲示板の管理運営者に対して求めた当該発言を削除しなかったことを理由とする不法行為に基づく損害賠償請求が一部認容された事例である。

東京地裁平成15年7月17日判決(平成14年(ワ)第8603号、判時1869号46頁)

原告X1は、化粧品の輸出及び製造販売等を目的とする会社デイーエイチシーである。
原告X2は、X1の代表者代表取締役である。
被告Yは、インターネット上で、閲覧及び書き込みが可能な電子掲示板である本件ホームページを開設し、これを管理運営する者である。

平成13年3月12日から同年7月7日までの間、本件ホームページに、「私がDHCを辞めた訳」「DHCの苦情!」「DHCの秘密」(以下、本件発言)などが掲載された。
Xらは、本件発言は、X2の人格等を誹謗中傷し、その名誉を毀損する違法な発言で、また、化粧品会社X1の品位を貶め、取り扱い商品を誹謗中傷し、その名誉及び信用を毀損する違法な発言であるとして、Yは、

  1. X1に対し5億円、
  2. X2に対し、1億円、
  3. 被告Yは、X1に対し、2ちゃんねるにおける別紙4発言目録4記載と同一の発言の削除をせよ、
  4. 被告Yは、X2に対し、2ちゃんねるにおける別紙3発言目録記載の発言と同一の発言を削除せよ、

と請求し、提訴した。

[東京地裁]
民事49部の齋藤隆裁判長は、次のように判決した。

  1. 被告は、原告X1に対し、金300万円及びこれに対する平成14年5月12日から支払い済みまで年5分の割合による金員を支払え。
  2. 被告は、原告X2に対し、金100万円及びこれに対する平成14年5月12日から支払い済みまで年5分の割合による金員を支払え。
  3. 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。(4,以下省略)
DHCという最近有名になった化粧品会社が、誹謗中傷された事件である。

弁護士対経由プロバイダPRIN事件

氏名不詳者により電子掲示板「2ちゃんねる」に名誉毀損書き込みがなされた弁護士が、プロバイダ責任制限法に基づき、経由プロバイダに対してしたは発信者情報の開示請求が認容された事例である。

東京地裁平成15年9月17日判決(平成15年(ワ)第3992号、判タ1152号276頁)

原告は、航空旅客手荷物運搬等を行う訴外B会社の顧問を務める弁護士である。
被告は、「PRIN」の名称で、インターネット接続サービス等の通信事業を営む株式会社である。

氏名不詳の本件発信者は、被告にインターネットでアクセスし、ウエブサイト「2ちゃんねる」内の電子掲示板に、「最悪のアルバイト会社 Part 7」という名前のスレッドに対し、原告を中傷する内容の記事(合計11本)を投稿した。
訴外B会社は、「2ちゃんねる」の訴外管理者Cを仮処分で訴えた。B会社のCに対する仮処分命令申立事件の和解となり、和解条項によりCは、本件各記事に関するアクセスログの情報を開示した。しかし、掲示板への投稿は匿名で行えるため、Cは、投稿した者につきIPアドレス以外の情報を保有していない。
原告は、上記アクセスログを被告に提出し、本件発信者の個人情報の開示を求めたが、被告は、拒否した。原告は、本件発信者に対して、名誉毀損の損害賠償請求訴訟をするためには、本件発信者の氏名、住所が必要である。そこで、原告は、被告に対し、本件発信者へインターネット接続を提供していること、被告は、プロバイダ責任制限法4条1項の「開示関係役務提供者」に該当する、とし同項に基づいて、発信者情報の開示を求め提訴した。

[東京地裁]
民事第32部井上哲男裁判長は、「したがって、発信者からウエブサーバーへの情報の送信とウエブサーバーから不特定多数の者への情報の送信を、それぞれ別個独立の通信であると考えるべきではなく、両者は一体不可分であり、全体として1個の通信を校正すると考えるのが相当である。」「両者が一体となって構成された1個の通信は、発信者から不特定多数の者に対する情報の送信にほかならないものであるから、これが『不特定の者によって受信されることを目的とする電気通信』であることは明らかである。」
「発信者からウエブサーバーへの情報の送信は、発信者から不特定多数への情報の送信という『特定電気通信』の一部となると解する」とする。
経由プロバイダである被告は交換機などの特定電気通信設備を用いて、発信者と不特定多数の者の間で行われる通信を媒介した者で、「特定電気通信役務提供者」に当たるとした。 原告は、記事11本について、名誉毀損を主張したが、裁判長は、2本は、原告の社会的地位を低下させるものでないとし、次のように判決した。

「主文]

  1. 被告は、原告に対し、別紙アクセスログ目録記載1ないし6,同9ないし11の各日時ころにおいて、各IPアドレスを割当てられた電気通信設備を管理する者の氏名及び住所を開示せよ。
  2. 原告のその余の請求を棄却する。
  3. 訴訟費用は被告の負担とする。
経由プロバイダについて、最高裁平成22年4月8日判決民集64巻3号676頁もプロバイダ責任制限法2条3項の「特定電気通信役務提供者」とした。
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中国政官データ[2016年5月版]

著者:大家 重夫(Shigeo Ohie)のご紹介

著者:大家 重夫(Shigeo Ohie)の写真

2013年 フランス ランスにて

プロフィール

1934(昭和9)年生まれ
久留米大学名誉教授・国際日本語普及
協会理事
LAIT(IT知財法務研究所)
客員研究員

京都大学法学部卒
1960年文部省(現・文部科学省)
1970年文化庁著作権課長補佐
1988年私立久留米大学法学部教授。
1995年久留米大学法学部長
2005年久留米大学特任教授・名誉教授
2011年日本ユニ著作権センターより
「著作権貢献賞」を受賞

主な著書に

  • 肖像権(1979年・新日本法規)
  • 改訂版ニッポン著作権物語(1999年・青山社)
  • タイプフェイスの法的保護と著作権(2000年・成文堂)
  • 唱歌『コヒノボリ』『チューリップ』と著作権(2004年・全音楽譜出版社)
  • 肖像権 改訂新版(2011年・太田出版)
  • 美術作家の著作権 その現状と展望
    (福王子一彦と共著・2014年・里文出版)
  • ウルトラマンと著作権
    (上松盛明氏と共編・2014年・青山社)
  • インターネット判例要約集(2015年・青山社)

などがある。

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