大家重夫の世情考察

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IP FIRM商標事件

「IP FIRM」なる商標は、商標法3条1項6号に該当するとされて事例である。

東京地裁平成17年6月21日判決(平成17年(ワ)第768号、判時1913号146頁)
(控訴されたが控訴後和解)

「IPアドレス」といえば、Internet Protocol address のことで、IPは、Intellectual l Property 知的財産権のことだと連想する人も多い。

原告Xは、IP国際技術特許事務所を経営する弁理士で、登録商標「IP FIRM」(指定役務 第42類「工業所有権に関する手続の代理又は鑑定その他の事務、訴訟事件その他に関する法律事務、著作権の利用に関する契約の代理又は媒介」)の商標権者である。
被告Yは、東京IP特許事務所を経営する弁理士である。XYは平成15年11月迄、共同で特許事務所を経営し、同年12月、共同経営を解消した。

平成15年12月、Yは、「東京IP特許事務所」として新たな事務所を開き、「TOKYO IP FIRM」の欧文字、横書きで、IPの文字はデフォルメ化した標章(以下、被告標章1)を付した英文レターヘッドの使用を開始し、平成16年11月頃から、「TOKYO IP FIRM」の欧文字を通常の書体で、横書きにしたもの(以下、被告標章2)、ネットの事務所のホームページにおいて掲載した。
Xは、Yが被告標章1,2を広告等に付して使用する行為は、Xの有する商標権侵害であると主張、Y標章1、2の使用差止め及びY標章を付した名刺等の廃棄を求め訴えた。

[東京地裁]
民事46部の設楽隆一裁判長は、原告の請求をいずれも棄却した。
Xの商標は、第42類「工業所有権に関する手続の代理又は鑑定その他の事務、訴訟事件その他に関する法律事務、著作権の利用に関する契約の代理又は媒介」の指定役務を提供する事務所であることを一般的に説明しているにすぎず、需要者等において、指定役務について、他人の指定役務と識別するための標識であるとは認識し得ないものであるから、商標法3条1項6号に該当し、XのYに対するX商標権に基づく権利行使は、商標法39条が準用する特許法104条の3の規定により許されないとし、Xの請求を棄却した。

本来、商標登録を受けるべきでない、「需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができない商標」であった、そのため、権利行使できない、としたのである。知財高裁平成21年9月8日判決(アイデー事件)も商標法3条1項6号に当たるとしている。2009-2参照。

学習塾登録商標事件

被告学習塾が、「塾なのに家庭教師」という標章をチラシやウエブサイトで使用したことが、原告学習塾の登録商標の侵害ないし商標的使用であるとして訴えられ、その請求が棄却された事例である。

東京地裁平成22年11月25日判決(平成20年(ワ)第34852号)

原告(株式会社名学館)は、学習塾の経営並びにこれに関するノウハウの販売、経営指導及び業務受託等を行う会社で、直営校15,フランチャイズ契約校142である。
被告(株式会社東京個別指導学院)は、学習塾及び文化教室の経営並びにこれに関するノウハウの販売、経営指導及び業務受託等を行う会社で、直営学習塾192を経営している。

原告は、平成14年4月9日、指定役務第41類「学習塾における教授」に商標登録を出願し、平成15年6月20日設定登録された。本件登録商標は、「塾なのに家庭教師」の文字列と2つの感嘆符とを黄色に着色し、これに青色の縁取りが施された標章である。
原告は、被告が「塾なのに家庭教師」という標章をチラシやウエブサイトで使用したことが、原告学習塾の登録商標の侵害ないし商標的使用であるとして、被告が生徒募集、従業員募集等の折り込み広告に被告標章目録1ないし4,ウエブサイト上の広告に被告標章目録5の標章を付して提供することの禁止、1億7100万円の損害賠償を求め、また予備的請求も加えて提訴した。

 原告は、被告各標章は原告の登録商標と同一又は類似の商標と主張し、被告がチラシやウエブサイトで、「塾なのに家庭教師」を使用することは、商標的使用と主張した。
被告は、「塾なのに家庭教師」は、広く用いられて自他識別力がない、黄色の文字列、青色の縁取りの組合せ、文字列の工部の2つの感嘆符もないから、本件登録商標と類似していない、「塾なのに家庭教師」というフレーズを、チラシや被告ウエブサイトで使用する際、被告の出所を表示する「東京個別指導学院」「関西個別指導学院」又は「TKG」を付した。被告による被告チラシ及び被告ウエブサイトにおける被告標章の使用は、商標的使用でないと主張した。

[東京地裁]
民事46部の大鷹一郎裁判長は、「被告による被告チラシ及び被告ウエブサイトにおける被告各標章の使用は、本来の商標としての使用(商標的使用)に当たらないから、その余の点について判断するまでもなく、本件商標権の侵害行為又は侵害行為とみなす行為のいずれにも該当しない」として、原告の請求を棄却した。

「塾なのに家庭教師」をチラシ、ウエブサイトに使うことは、商標的使用に当たらないとした。アリカ商標事件(2011-6)参照。

アリカ商標事件

登録商標の使用をしているかどうかが争われ、最高裁が「指定役務についての本件商標の使用をしていない」と判決した事例。

最高裁平成23年12月20日判決民集65巻9号3568頁判時2143号119頁
知財高裁平成21年3月24日判決平成20年(行ケ)第10414号

 日本の商標法は、継続して3年以上、日本国内において、商標権者、専用又は通常使用権者が、指定商品又は指定役務について、登録している登録商標を使用していないとき、何人もその登録商標を取り消すよう、特許庁に審判を請求することができる(50条1項)。ゲームソフトの企画、制作、販売等を業とするX(株式会社アリカ)は、平成13年1月22日、本件商標登録出願をし、平成14年3月1日、設定登録を受けた。
Y(株式会社ARICA)は、貸別荘や貸しビルなど不動産業者のようである。

 Yは、平成19年3月15日、本件商標につき、商標法50条1項に基づき、指定役務のうち第35類に属する6役務についての不使用を理由に、それらの役務に係る商標登録の取消の審判を請求し、同年4月4日その旨の予告登録がなされた。
特許庁は、平成20年9月26日、本件商標の「指定役務中、第35類『広告、経営の診断及び指導、市場調査、商品の販売に関する情報の提供、ホテルの事業の管理、広告用具の貸与』については、その登録を取り消す」旨の審決をした。
理由は、原告の提出した「会社案内」の「インターネットのホームページ」は、いずれも自社の商品ないし自社の開発した商品の広告にすぎない、本件商標を「商品の販売に関する情報の提供」の役務について使用していると認められない、であった。

Xは、この審決の取消を求め訴えを起こした。審決に対する訴えは、東京高等裁判所の専属管轄である(商標法63条)。知的財産高等裁判所法(平成16年6月18日法律第119号)により、東京高等裁判所内に知的財産高等裁判所が置かれ、ここで、知的財産権に関する訴訟が取り扱われる。

[知財高裁]
Xは自社のウエブサイトで、自社が開発したゲームソフトを紹介するとともに、本件各商品を販売するA社、B社の各ウエブサイトを閲覧し、同ウエブサイトから利用者が本件商品が購入できるなど、「本件商標が使用されている」と主張した。
知財高裁平成21年3月24日判決は、本件各行為により、前記予告登録前3年以内に日本国内で本件指定役務についての「本件商標の使用をしていた」と判断し、Xが勝訴した。
これに不服のYは、最高裁へ上告した。

[最高裁]
最高裁第3小法廷(大谷剛彦裁判長、那須弘平、田原睦夫、岡部喜代子、寺田逸郎裁判官)は、「原判決を破棄する。被上告人の請求を棄却する。」との判決を下した。

理由は、

  1. 本件指定役務は、「商業等に従事する企業に対して、その管理、運営等を援助するための情報を提供する役務をいう」とし、
  2. Xの各行為は、Xのウエブサイトで、Xが開発したゲームソフトを紹介するとともに、他社の販売する本件各商品を紹介するに過ぎない、「商業等に従事する企業に対して、その管理、運営等を援助するための情報を提供するものとはいえない」とし、本件各行為により、Xが本件指定役務についての本件商標の使用をしていたといえない、

とした。

商標権に関連して2009-2、2005-6などがある。

[参考文献]西村雅子・判例評論647号17頁(判時2166号163頁)

チュパ・チュプス対楽天市場事件

インターネット・ショッピングモールの運営者は、同モールの出店者による商標権侵害行為について責任を負わない、とされた事例である。

知財高裁平成24年2月14日判決(平成22年(ネ)第10076号判時2161号86頁)
東京地裁平成22年8月31日判決(平成21年(ワ)第33872号判時2127号87頁判タ1396号311頁)

 原告Xは、イタリア法人であるペルフエツテイ・ヴァン・メッレ・ソシエタ・ペルアチオニ(Perfetti Van Melle S.p.A)で、商標「Chupa Chups」に関する登録商標を有している。
 被告Yは、楽天株式会社で、自らインターネットショッピングモール「楽天市場」を運営している。

原告は、被告が運営する「楽天市場」というインターネットショッピングモールにおいて、被告が主体となって出店者を介し、あるいは出店者と共同で、あるいは幇助して、原告の商品の周知または著名表示若しくは原告の登録商標に類似する標章を付した各商品を展示又は販売(譲渡)する行為は、

  1. 商標権侵害であり、
  2. 不正競争防止法2条1項1号又は2号違反である

と主張して、被告に対し、商標法36条1項及び不正競争防止法3条1項に基づき、上記の類似した標章を付した商品の譲渡等の差止めと民法709条及び不正競争防止法4条に基づく損害賠償金の支払を求め提訴した。

[東京地裁]
民事46部の大鷹一郎裁判長は、本件各出店者の出店ページに登録された右各商品の展示及び販売について、当該出店ページの出店者が当該商品の「譲渡」の主体で、被告は、その主体でない。Yの行為は、商標法2条3項2号の「譲渡のための展示」又は「譲渡」に該当しない、不正競争防止法2条1項1号及び2号の「譲渡のための展示」又は「譲渡」についても、商標法2条3項2号と同様に解するのが相当である、として、請求を棄却した。

[知財高裁]
第一部中野哲弘裁判長は、次のように述べ、控訴を棄却した。
 この被告のようなサイトの運営者は、単に出店者によるウエブページの開設のための環境等を整備するだけでなく、運営システムの提供・出店者からの出店申込みの拒否・出店者へのサービスの一時停止や出店停止等の管理・支配を行い、出店者からの基本出店料やシステム利用料の受領等の利益を受けている。
 このような事例で、ある出店者による商標権侵害があることを、サイト運営者が知ったとき又は知ることができたと認めるに足りる相当の理由があるに至ったときは、その後の合理的期間内に侵害内容のウエブページからの削除がなされない限り、右期間経過後から、商標権者は、サイトの運営者に対し、商標権侵害を理由に、出店者に対するのと同様の差止請求と損害賠償請求をすることができると解する。
 本件において、商標権者からの指摘又は出訴等を切っ掛けとして、「楽天市場」運営者は、その8日以内に、本件商標権侵害品の展示を削除しており、商標権侵害の事実を知り又は知ることができたと認めるに足りる相当の理由があるときから合理的期間内にこれを是正した。「楽天市場」の運営が、商標権者の本件商標権を違法に侵害したとまではいえない。原判決は結論において誤りがない。控訴を棄却するとした。

楽天市場というインターネットのショッピングモールの運営者に、あまりに厳格な注意義務を課せば、運営者になろうとする者がいなくなるだろう。控訴審判決のいうように、合理的な期間内に是正したらば、よしというべきであろう。

[参考文献] 水谷直樹・発明2010年11月号37頁。

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中国政官データ[2016年5月版]

著者:大家 重夫(Shigeo Ohie)のご紹介

著者:大家 重夫(Shigeo Ohie)の写真

2013年 フランス ランスにて

プロフィール

1934(昭和9)年生まれ
久留米大学名誉教授・国際日本語普及
協会理事
LAIT(IT知財法務研究所)
客員研究員

京都大学法学部卒
1960年文部省(現・文部科学省)
1970年文化庁著作権課長補佐
1988年私立久留米大学法学部教授。
1995年久留米大学法学部長
2005年久留米大学特任教授・名誉教授
2011年日本ユニ著作権センターより
「著作権貢献賞」を受賞

主な著書に

  • 肖像権(1979年・新日本法規)
  • 改訂版ニッポン著作権物語(1999年・青山社)
  • タイプフェイスの法的保護と著作権(2000年・成文堂)
  • 唱歌『コヒノボリ』『チューリップ』と著作権(2004年・全音楽譜出版社)
  • 肖像権 改訂新版(2011年・太田出版)
  • 美術作家の著作権 その現状と展望
    (福王子一彦と共著・2014年・里文出版)
  • ウルトラマンと著作権
    (上松盛明氏と共編・2014年・青山社)
  • インターネット判例要約集(2015年・青山社)

などがある。

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