大家重夫の世情考察

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都立大学事件

大学内に2つのグループがあり、一方の学生が他方の学生等が傷害事件を起こしたという印象を与える文書を大学管理下のコンピュータ、ホームページに掲載し、掲載した学生に名誉毀損による損害賠償が命じられたが、大学は、文書の削除義務を負わないとされた事例である。

東京地裁平成11年9月24日判決(平成10年(ワ)第23171号、判時1707号139頁、判タ1054号228頁)

原告X1、X2、X3と被告Y1は、ともに被告Y2が設置する大学の学生で、X1、X2、X3とY1は、学生の自治組織をめぐり、対立するグループに属していた。
Y1は、Y2が学内に設置し、管理しているサーバーに、Y1が委員長をつとめるホームページを開設しており、ここにY1は、平成10年の新入生入学手続きの際に起こった両派の衝突事件で、複数の学生が傷害を負ったこと、その事件顛末を記載した文書を公開した。文書は、Xらが傷害事件を起こし、刑事事件になったという印象を与えるものであった。

X1、X2、X3は、Y1に対し、名誉毀損であるとし、Y1に対し、ホームページからの本件文書の削除、ホームページへの謝罪広告掲載と損害賠償(各33万円)を求め、Y2に対しては、名誉毀損文書の掲載を知った場合、速やかに削除すべき義務が条理上認められ、Y2は、掲載を知った後も放置した削除義務の不履行(故意又は過失による不法行為)をしたとし、ホームページからの本件文書の削除・謝罪広告掲載と損害賠償(各33万円)を求め訴訟を提起した。なお、この訴えが報道されるとY2は、本件ホームページの問題部分を閉鎖した。

[東京地裁]
民事第25部の野山宏裁判長は、Xらに各3000円の支払いを命じ、Y1に対するそのほかの請求とY2に対する請求を全部、棄却した。

当時、学生紛争があったこと及びインターネットのホームページが惹起した事件と言うことで注目された。

[参考文献]
森亮二「サイバー法判例解説」(岡村久道編・商事法務・2003年)4頁。

本と雑誌のフォーラム事件

ニフテイサーブ「本と雑誌のフォーラム」での名誉毀損事件である。

東京地裁平成13年8月27日判決(平成11年(ワ)第2404号、判時1778号90頁判タ1086号181頁)

Yは、インターネット上の電子掲示板の運営会社。
Xは、Yが提供するニフテイサーブの会員として、「本と雑誌のフォーラム」において、ID番号とハンドル名で意見表明をしていた。匿名で参加してきたAの第三者宛コメントに対しXが、「私に対する個人的侮辱だ」と発言し、Aが「やれやれ、妄想系ばっかりかい、この会議室は(笑)?」と応じ、言論による20通の書き込みの応酬がつづいた。

Xは、Yに対し、

  1. YがAの不法行為に対し適切な措置をとらなかったため、Xが精神的苦痛を被ったとして、債務不履行ないし不法行為により損害賠償を請求し、
  2. Yが発信者Aの契約者情報(氏名、住所)の情報を開示せず、Xの名誉権回復を妨害しているとして、

人格権による差止請求権及び不法行為に基づく妨害排除請求権を根拠に、Aの契約者情報(氏名、住所)を請求した。

[東京地裁判決]
原告の請求を棄却した。

  1. 言論による侵害に対し、言論で対抗するというのが表現の自由の基本原理であり、被害者が、加害者へ十分な反論をし、それが功を奏した場合、被害者の社会的評価は低下していないから、このような場合、不法行為責任を認めることは、表現の自由を萎縮させるおそれがあり、相当と言えない。
  2. 本件において、「会員であれば、自由に発言することが可能であるから、被害者が、加害者に対し、必要かつ十分な反論をすることが容易な媒体であると認められる。」
    「被害者の反論が十分な効果を挙げているとみられるような場合には、社会的評価が低下する危険性が認められず、名誉ないし名誉感情毀損は成立しない」
  3. 「被害者が、加害者に対し、相当性を欠く発言をし、それに誘発される形で、加害者が、被害者に対し、問題となる発言をしたような場合には、その発言が、対抗言論として許された範囲内のものと認められる限り、違法性を欠く」
  4. 「Aは、Xに対し、不法行為責任を負わない。よって、Aに不法行為が成立することを前提としたXのYに対する本件請求は」「理由がない。」
書込がXの挑発的発言に対する反論、対抗的言論で許されるという法理から、不法行為(名誉毀損)にならないとした点が興味を引く。

[参考文献]
山口成樹・別冊ジュリスト179号「メイデイア判例百選」226頁(2005年)。
大須賀寛之・ニフテイーサーブ「本と雑誌のフォーラム」事件・(岡村久道編「サイバー 判例解説」96頁)

現代思想フォーラム事件

パソコン通信の電子会議室における発言が名誉毀損とされ、50万円の支払いを命じられたが、会議室主宰者とシステムオペレーターは、発言削除義務違反等の責任がなく、損害賠償を負わなかった事例である。

東京高裁平成13年9月5日判決(平成9年(ネ)第2631号・2633号・第2668号、5633号、判タ1088号94頁判時1786号80頁)
東京地裁平成9年5月26日判決(判時1610号22頁)

 パソコン通信ニフテイサーブの主宰者Y1(被告・控訴人)は、ニフテイサーブ上に、「現代思想フォーラム」を開設し、Y2(被告・控訴人)をシステムオペレーターにし、その管理運営に当たらせていた。X(原告・被控訴人)及びY3(被告・控訴人)は、ニフテイサーブの会員である。平成5年11月から平成6年3月にかけて、Y3は、Xが名誉毀損等に当たると主張する発言を書き込んだ。
シスオペのY2は、問題点を指摘したが、削除はしなかった。その後、平成6年2月15日、Y2は、Xの訴訟代理人から発言番号を特定し、削除要請を受けたため削除した。

同年4月、Xは、

  1. Y3に対し、名誉毀損等の不法行為に基づき、
  2. Y2に対し、名誉毀損等の発言を直ちに削除する作為義務の懈怠による名誉毀損を放置した不法行為に対し、
  3. Y1に対しては、Y2の使用者責任等の債務不履行責任に基づき、

各自1,000万円及びこれに対する遅延損害金の支払い及び謝罪広告を求め訴訟になった。

[東京地裁]
Y3の発言は、名誉毀損に当たる、Y2は、本件各発言を知ったときから条理上の削除義務を負うとし、本件各発言の一部につき削除義務を怠った過失があるとし、Y1は使用者責任を負うとし、Yらについて各自10万円、Y3についてはさらに、40万円の支払いを命じ、謝罪広告掲載要求は棄却した。

[東京高裁]
 控訴審は、Y3の発言の一部が、名誉毀損・侮辱に当たると認め、Y3へは、50万円の支払いを命じた。Y2及びY1については、発言削除義務違反等の責任が認められないとし、原判決を取消して、Y2、Y1に対するXの請求を棄却した。

地裁と高裁の意見が異なる点が興味を引く。

[参考文献]
橋本佳幸・判例時報1809号178頁(判例評論530号16頁)。
大谷和子・ニフテイーサーブ「現代思想フォーラム」事件・(岡村久道編「サイバー判例解説」98頁)。西土彰一郎・別冊ジュリスト179号「メイデイア判例百選」224頁(2005年)。牧野二郎「ネット関連訴訟の現状について」自由と正義2002年6月号68頁。
参考:http://www.law.co.jp/cases/gendai2.htm

外資企業私用メール事件

外資系企業の従業員の私用メール、セクハラ、パワハラの紛争事件である。

東京地裁平成13年12月3日判決(平成12年(ワ)第12081号、第16791号(反訴請求)、労判826号76頁、労経速報1814号3頁)
  1. 原告(反訴被告)X1は、甲野A子で、平成9年10月からF株式会社Z事業部に勤務している。事件当時、Z事業部営業部長Dの直属アシスタントである。
    原告(反訴被告)X2は、甲野B夫で、X1の夫である。
    被告(反訴原告)Yは、乙川C男で、他社を退職後、平成11年4月、F株式会社に入社し、5月取締役に就任、平成12年11月までZ事業部の事業部長である。
  2. Yは、平成12年2月中旬、X1へ、「仕事や上司の話など聞きたい」といって、飲食の誘いの電子メールを送っていた。平成12年3月1日、X1は、この勧誘のメールを快よく思わず、むしろ反感をいだき、Yを批判する内容のメール「(Yは)細かい上に女性同士の人間関係にまで口を出す」といったメールを夫であるX2へ、送信するつもりで、操作を誤り、Yあてに、送ってしまった。Yは、これを読み、X1及び訴外のX1の友人Eの電子メールを監視しはじめた。F社では、電子メールアドレスが公開され、パスワードも各自の氏名で構成されてたから、Yは、監視でき、Yをセクシュアルハラスメント行為で告発しようとするX1らの動きを知った。同年3月6日、X1がパスワードを変更したため、Yは、F社のIT部にX1及びE宛ての電子メールをY宛てに自動送信するよう依頼し、その後、この方法で監視した。
  3. 同年3月2日までに、夫であるX2は、YがX1にホテルへの誘いかけをしたこと、宴会の場で、抱きつき行為をしたこと、頻繁な飲食の誘いかけをしたこと等の行為を指摘し、Yをセクシュアル・ハラスメント行為で告発することも辞さないという警告の電子メール(以下、警告メール)を作成し、X1へ送信した。この動きを知ったYは、飲食の誘いは、個人的な付き合いを意図したものではなかったこと、誤送信メールはなかったことにするという内容の電子メールをX1へ送信し、口頭でも同様のことをX1へ述べた。
  4. 同月7日、X2は、Yへ、X1、X2の代理人を明示した警告メールを送信した。同月9日、Yは、X1の直属上司Dを呼び出し、警告メール作成に協力したのでないかと詰問し、Dは否定した。Dは、このことをX1、X2へ知らせた。Yは、これらの状況をX1の電子メール監視で把握した。
  5. 同月22日、Yは、X1を多摩川工場の事務要員に配置転換することを検討中であるとDへ伝えた。Dから知らされたX1は、代理人へ連絡を取って欲しいと、X2へ電子メールで伝えた。Yは、X1の電子メールを監視していたからこれを知り、未決定の人事を直接本人に伝えたDに不信感をもった。
  6. 同年4月7日、X1X2らの代理人は、Yへセクシャル・ハラスメント行為を行っているとして、書面で回答を求める趣旨の内容証明郵便を出した。X1への配置転換はなかった。同年5月、Dは、Z事業部アジア総括責任者Fへ以上の状況を伝えたが、Fは、Yを支持し、のち(同年12月27日)、Dは、営業部長から降格処分を受けた。
  7. 同年6月14日、X1がYからセクシャル・ハラスメント行為を受けたことYがX1の私的な電子メールをX1らの許可なしに閲覧したことを理由として、不法行為に基づく損害賠償を求めて訴えた。
    Yは、反訴を起こし、X1らがセクシャル・ハラスメントを捏造し、会社内外の者へ送信したことに対し、名誉毀損に基づき損害賠償を求めた。

[東京地裁判決]
民事40部綱島公彦裁判官は、次のように述べて、原告の請求を棄却した。

  1. 社内ネットワークシステムを用いた私的電子メールの送受信につき、日常の社会生活を営む上で、通常必要な外部との連絡の着信先として用いること、更に、職務遂行の妨げとならず、会社の経済負担もきわめて軽微なものである場合には、外部からの連絡に適宜即応するために必要かつ合理的な限度の範囲内において、発信に用いることも社会通念上許容されていると解すべきである。
  2. 従業員が社内ネットワークシステムを用いて電子メールを私的に使用する場合に期待し得るプライバシーの保護の範囲は、通常の電話装置の場合よりも相当程度低減されることを甘受すべきであり、監視の目的、手段およびその態様等を総合考慮し、監視される側に生じた不利益とを比較衡量のうえ、社会通念上相当な範囲を逸脱した監視がなされた場合に限りプライバシー権の侵害となると解するのが相当であるとされた。
  3. 原告X1が、社内ネットワークシステムを用いて、被告Yのセクシャル・ハラスメント行為等について、送受信を行なった被告X2らとの私的な電子メールをX1らの許可なしに閲覧したことを理由として、被告Yが閲読したことを理由とする損害賠償請求につき、原告らの電子メールは私的使用の程度は限度を超えており、被告Yによる監視という事態を招いた原告X1の責任、監視された電子メールの内容、事実経過を総合すると、被告Yの監視行為は、社会通念上相当な範囲を逸脱していない、原告らが法的保護(損害賠償)に値する重大なプライバシー侵害を受けたとはいえないとし、請求を棄却した。
  4. 被告Yによる、X1らがセクシャル・ハラスメントの事実を捏造し、会社内外の者へ送信したことに対し、名誉毀損による損害賠償を求めた反訴について、これを棄却した。
上記2.にあるように、電子メールが私用電話に比べ、プライバシー保護の範囲が相当程度低減されるー電話ほど保護されない、見られても仕方ない、と述べているのが注目される。いわゆるセクハラは事実認定が困難であるが、この事件は、原告が勝訴になってもおかしくなかったように思われる。

[参考文献]
押以久子「従業員の電子メール私的利用をめぐる法的問題」(労働判例827号29頁。真嶋理恵子「東京地裁、使用者による従業員のEメールの無断モニタリングとプライバシー侵害につき、使用者側に軍配(平成12年(ワ)第12081号)」NBL734号6頁。荒木尚志・別冊ジュリスト179号「メイデイア判例百選」238頁(2005年)。
永野仁美・ジュリスト1243号153頁(2003年4月15日)。小畑史子・労働判例百選〈第7版〉(別冊ジュリスト165号)46頁。藤内和公・法律時報75巻5号100頁(2003年)。

日経クイック情報事件

会社が従業員のパソコン等を調査し、入手した個人データを返却せず、多数人に閲覧させた等を理由として、従業員がプライバシー侵害等で会社を訴えたが請求棄却となった事例である。

東京地裁平成14年2月26日判決(平成12年(ワ)第11282号、労判825号50頁。)
  1. 原告Xは被告Y1に平成9年10月から平成12年3月1日まで雇用されていた。
    被告Y1は、経済情報及び関連情報をコンピュータ処理し、販売を業とする会社。
    被告Y2は、Y1の管理部部長。被告Y3は、Y1の経営企画グループ部長。被告Y4は、同グループ員で社内システム委員会の委員。被告Y5は、Y1の取締役営業第一部長であった者。
    Xは、平成10年頃からY1の営業第一部に勤務し、社内システム委員会の委員であった。
    平成11年12月上旬頃、営業第2部の訴外AからY1のシステム委員会委員の訴外Bに、平成11年6月頃から、日経新聞社電子メデイア局管理部長の訴外Cの名前でAを誹謗中傷する電子メールが複数回送られ迷惑であるという苦情があった。内容は、Aと営業部所属の契約社員訴外Dが接近することを阻止する目的でAを非難するものであった(以下、誹謗中傷メールという)。
  2. Y1が調査したところ、誹謗中傷メールが、Y1の営業部が共有する端末からフリーメールアドレスを使ってAに送信されたこと、同時に共有端末を使用してフリーメールアドレスからXの社内アドレスへ6通の電子メール、Xの個人の電子メールアドレスへ2通の電子メールが送信され、Xの机上の端末を使用して、Xの社内アドレスからフリーメールサーバーに1通の電子メールが送信されていた。
  3. Y1は、平成11年12月17日、Xへ第1回事情聴取を実施した。Xは、誹謗中傷メールの発信者であることを否定した。しかし、調査過程でXの「個人使用」の領域からXの私用メールが多数発見された。Y1は、その一部を印刷、Y1の社長、Y2、Bが閲覧した。
    平成12年1月13日、第2回事情聴取が行われ、Xは、誹謗中傷メールの発信者であることを否定した。翌日1月14日、Xは、退職日を3月1日とする退職願をY5へ提出した。同日、Y1は、経営会議を開催し、Xに対し、私用メールが就業規則に該当するとして譴責処分を決定し、1月17日、Xに伝達し、Y1社員告知板に告知した。Y1は、Y2を通じて1月20日、同月21日から出社停止、同月31日付けで退職するようXへ申し入れたが、Xが抗議し、Xは、3月1日退職した。
  4. Xは、
    1. Y2、Y3、Y5による第1回事情聴取が名誉毀損等に当たる
    2. Y2、Y3、Y4、Y5によるX使用のパソコン等の調査、その際入手のXの個人データをその後も返還せず、印刷物にし、閲覧し、多数の者に閲覧させたことは、Xの個人情報に対する所有権及びプライバシーの侵害に当たる
    3. Y2、Y3、Y4、Y5による第2回事情聴取がXの名誉毀損等に当たる
    4. Y2、Y5が、Xの退職日を1月31日に繰り上げること及び出社停止を求めたことは、強要、脅迫である

    として、Y2、Y3、Y4、Y5に対して、民法709条、719条、Y1に対して、民法715条1項、719条に基づいて慰藉料500万円及び弁護士費用50万円の支払いと前記データの交付と削除及び印刷物の交付を請求した。

[民事第11部]
多見谷寿郎裁判官は、「原告の本訴請求は理由がない」として、主文「1、原告の請求をいずれも棄却する。2,訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を下した。

多見谷寿郎裁判官は、次のように判断した。

  1. 企業が行う調査及び命令は、企業の円滑な運営上必要かつ合理的なものであること、方法、態様が労働者の人格や自由に対する行過ぎた支配や拘束ではないことを要する。
  2. 社内における誹謗中傷メールの送信という企業秩序違反事件の調査を目的とし、その送信者と疑われる合理的理由がある以上、原告に対して事情聴取を行う必要性と合理性が認められる。
  3. 2回にわたる事情聴取は、社会的に許容しうる限界を超えて原告の精神的自由を侵害した違法な行為ではない。
  4. 原告のメールファイルの点検は、行う必要のあるものであったし、その内容は業務に必要な情報を保存する目的で会社が所有し管理するファイルサーバー上のデータ調査であることから、社会的に許容しうる限界を超えて原告の精神的自由を侵害した違法な行為とはいえない。
  5. 処分を相当とする事案に関して、必要な範囲で関係者がその対象となる行為の内容を知ることは当然で、私用メールであっても違法な行為でない。
  6. 処分事案に関する調査記録を、削除しないとしても違法でなく、原告が具体的に必要とする事情が認められない以上、返還義務はない。
  7. 会社は、退職の日付けを早めようとしたが、社会的に許容しうる限界を超えて原告の精神的自由を侵害した違法な行為とはいえない。
  8. 私用メールは、送信者が文書を考え作成し送信することにより、その間、職務専念義務に違反し、私用で会社の施設を使用する企業秩序違反行為になるだけでなく、私用メールを読ませることにより受信者の就労を阻害し、受信者からの返信メールの求めに応じてメール作成、送信すれば、そのことにより受信者に職務専念義務違反と私用企業施設使用の企業秩序違反を行わせることになる

とした。

この判決には、異論もあると思われる。

[参考文献]砂押以久子・労働判例827号29頁。

動物病院対電子掲示板事件

名誉毀損書き込み放置した管理者責任が問われた事件である。

東京高裁平成14年12月25日判決(平成14年(ネ)第4083号判時1816号52頁)
東京地裁平成14年6月26日判決(判時1810号78頁)

原告X1(動物病院)および原告X2(同院院長)は、被告Yが設置しているインターネット上の無料電子掲示板「Y2ちゃんねる」の「ペット大好き掲示板」に、X1を「悪徳病院」として批判、非難する発言が書き込まれていることを知った。
 X2は、名誉毀損発言の箇所を削除するよう求めたが、インターネットに不馴れなため、所定の削除依頼の方法に従ってなく、一部の削除にとどまった。
 X1,X2は、平成13年1月、訴訟を起こし、掲示板にXらの名誉毀損発言が掲載されたにもかかわらず、Yがこれらを削除するなどの義務を怠り、Xらの名誉が毀損されるのを放置したことにより、X1及びX2らそれぞれに対し、不法行為に基づき、損害賠償250万円を支払うよう、また、掲示板の名誉毀損発言の削除を求めた。

[東京地裁判決]
原告の請求のうち、損害賠償金額の一部を認容し、名誉毀損発言の削除を命じ、X側が勝訴した。「Yは、遅くとも本件掲示板において他人の名誉を毀損する発言がなされていることを知り、又は、知り得た場合には、直ちに削除するなどの措置を講ずべき条理上の義務を負っているものというべきである」と述べ、Yが、書き込まれた各発言を具体的に知っていたにもかかわらず、削除するなどの措置を講じなかったことから、Yの作為義務違反を認め、Xらへそれぞれ、200万円支払うことと、掲示板上の発言番号を特定し、その部分の削除するよう命じた。

[東京高裁判決]
Yは、控訴した。
控訴審は、合計400万円の損害賠償及び特定した掲示板上の発言の削除を命じる1審判決を支持し、控訴を棄却した。控訴審は、次の点を指摘した。
本件掲示板で、被害を受けた者が、その発言者を特定し、その責任を追及することは事実上不可能で、本件掲示板に書き込まれた発言を削除しうるのは、本件掲示板を開設し、これを管理運営する控訴人のみである。控訴人は、本件掲示板に他人の権利を侵害する発言が書き込まれないようにするとともに、書き込まれたときには、被害者の被害が拡大しないようするため、直ちにこれを削除する義務がある。「被害者自らが発言者に対して被害回復の措置を講じ得ないような本件掲示板を開設し、管理運営している以上、その開設者たる控訴人自身が被害の発生を防止すべき責任を負うのはやむを得ない。」と。また、名誉毀損の要件である公共性、公益目的、真実性・相当性について、1審同様、被害者の相手方が主張立証すべきであるとした。

控訴審で、400万円の損害賠償と2倍になっていることが注目される。

[参考文献]
新保史生・別冊ジュリスト179号「メイデイア判例百選」228頁(2005年)。
潮見佳男・コピライト499号27頁。町村泰貴・判タ1104号85頁。同・NBL742号6頁。同・2ちゃんねる動物病院事件(第1審判決)・(岡村久道編「サイバー判例解説」42頁)同・2ちゃんねる動物病院事件(控訴審判決)・(岡村久道編「サイバー判例解説」58頁)

眼科医対電子掲示板事件

電子掲示板に医療法人の名誉信用を毀損する書き込みがなされ、医療法人が発信者情報の一部を把握している場合に、プロバイダ責任制限法4条の要件が肯定された事例。

東京地裁平成15年3月31日判決平成14年(ワ)第11665号判時1817号84頁、金判1168号18頁

 原告は、E眼科という名称で全国に眼科病院を運営する医療法人である。
 被告は、インターネット上で、電子掲示板を管理運営する者である。

 訴外のAが、平成14年2月16日、ハンドルネームBを名乗って、本件掲示板に、「E眼科のセミナーにいってきた。投稿者B。あのヤロー他院の批判ばかりだよ。Mが裁判かかえてるて。お前のところは、去年3人失明させてるだろうが!」というメッセージを書き込んだ。
 原告は、少なくともこの情報により1名の患者が手術取消をし営業利益を侵害されたこと、平成13年に患者が3人失明した事実はないこと。原告は、訴外Aと面談し、同人の住所氏名は、入手したこと。これは、名誉毀損、信用毀損であり、損害賠償請求権を行使するため、発信者情報の開示を求めるとし、「特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律」(プロバイダ責任制限法)4条の正当な理由があると主張し、被告に開示を求めた。また、原告はすでに訴外Aと面談しているが、Aが、原告と競業関係にある病院を運営する医療法人の理事長が経営する会社の正社員であったことから、医療法人へも損害賠償請求を検討中で、そのため本件発信情報が訴外人の個人のパソコンから発信されたか、勤務先のパソコンからの発信からか、知る必要があるとして、発信者情報の開示を求めて訴えた。

[東京地裁判決]
東京地裁民事6部の高橋利文裁判長は、原告(被害者)が発信者情報の一部を把握し、送信行為自体をおこなった者が特定されているような場合であっても、その余の発信者情報の開示を受けることにより、当該侵害情報を流通過程に置く意思を有していた者すなわち、当該送信行為自体を行った者以外の「発信者」の存在が明らかになる可能性がある、として、発信者情報の開示を受けるべき必要性があるとし、原告の請求を認容した。

平成13年11月22日成立し、平成14年5月27日施行の「特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律」(平成13年法律第137号)の4条をめぐる初めての裁判例である。動画無断使用事件(東京地裁平成25年10月22日判決平成25年(ワ)第15365号)参照。

[参考文献]
長谷部由紀子「プロバイダ責任制限法による開示命令(1)」『別冊ジュリスト』「メデイア判例百選」179号230頁。

女流麻雀士対2ちゃんねる事件

インターネット上の電子掲示板に書き込まれた発言により名誉毀損された者が、その発言の削除を掲示板運営者に求め、削除しなかったことが、不法行為とされ損害賠償が認められ、また、その発言の削除請求が認容され、しかし、当該発言の発信者情報の開示請求は棄却された事例である。

東京地裁平成15年6月25日判決(平成14年(ワ)第13983号、判時1869号46頁)

原告は、日本プロ麻雀連盟所属の20代の未婚のプロ麻雀士である。
被告は、インターネット上で、閲覧及び書き込みが可能な電子掲示板「2ちゃんねる」の開設者、管理運営者である。

平成14年1月、掲示板に、原告について、「整形しすぎ」「年いくつ誤魔化してんの?」「穴兄弟たくさんいるよ」などの書き込みがなされた。

原告は、

  1. 原告の名誉を毀損する発言等が書き込まれたのに、被告がこれら発言の送信防止措置を講じる義務を怠り、原告の名誉が毀損されるのを放置し、原告が損害を被ったなどとして、原告が被告に対し、民法709条に基づき、706万1000円の損害賠償を求め、
  2. プロバイダ責任制限法に基づき、掲示板に原告の名誉を毀損する発言等の書き込みをした者の情報の開示を求めて

訴えた。

[東京地裁]
民事24部の大橋寛明裁判長は、次のように判断した。

  1. 掲示板への各発言は、名誉毀損にあたる。
  2. 被告が当該発言の送信防止措置を講ずる条理上の作為義務を負う。送信防止措置を講じなかったことは、作為義務違反で、原告に対して不法行為になる。
  3. 被告は、本件発信者の氏名、住所及び電子メールアドレス、発言に係るIPアドレスを保有している証拠はない。従って原告の本件発信者の情報の開示請求は理由がない。
  4. 被告が、発言を削除せず、送信を継続し、原告の名誉を毀損し、名誉感情を侵害した不法行為について、精神的損害を慰藉する賠償金額は、90万円が相当で、弁護士費用10万が相当である。

とした。

発信者情報の開示請求は棄却され、当該発言の削除は認められた事例である。

DHC名誉毀損事件

インターネットの電子掲示板に書き込まれた発言によって、名誉を毀損されたという化粧品会社とその代表取締役が掲示板の管理運営者に対して求めた当該発言を削除しなかったことを理由とする不法行為に基づく損害賠償請求が一部認容された事例である。

東京地裁平成15年7月17日判決(平成14年(ワ)第8603号、判時1869号46頁)

原告X1は、化粧品の輸出及び製造販売等を目的とする会社デイーエイチシーである。
原告X2は、X1の代表者代表取締役である。
被告Yは、インターネット上で、閲覧及び書き込みが可能な電子掲示板である本件ホームページを開設し、これを管理運営する者である。

平成13年3月12日から同年7月7日までの間、本件ホームページに、「私がDHCを辞めた訳」「DHCの苦情!」「DHCの秘密」(以下、本件発言)などが掲載された。
Xらは、本件発言は、X2の人格等を誹謗中傷し、その名誉を毀損する違法な発言で、また、化粧品会社X1の品位を貶め、取り扱い商品を誹謗中傷し、その名誉及び信用を毀損する違法な発言であるとして、Yは、

  1. X1に対し5億円、
  2. X2に対し、1億円、
  3. 被告Yは、X1に対し、2ちゃんねるにおける別紙4発言目録4記載と同一の発言の削除をせよ、
  4. 被告Yは、X2に対し、2ちゃんねるにおける別紙3発言目録記載の発言と同一の発言を削除せよ、

と請求し、提訴した。

[東京地裁]
民事49部の齋藤隆裁判長は、次のように判決した。

  1. 被告は、原告X1に対し、金300万円及びこれに対する平成14年5月12日から支払い済みまで年5分の割合による金員を支払え。
  2. 被告は、原告X2に対し、金100万円及びこれに対する平成14年5月12日から支払い済みまで年5分の割合による金員を支払え。
  3. 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。(4,以下省略)
DHCという最近有名になった化粧品会社が、誹謗中傷された事件である。

パワードコム発信者情報開示事件

WinMXによるファイル送信は、「特定電気通信」=(不特定多数の者によって受信されることを目的とする電気通信の送信)に当たり、特定電気通信の始点は、特定電気通信役務提供者でなくてもよいから、本件ファイル送信が、「特定電気通信」に該当し、被告(株)パワードコムへ、発信者情報開示が命ぜられた事例である。

東京地裁平成15年9月12日判決(平成14年(ワ)第28169号)

原告Xは、ネット上、名誉毀損された者である。
被告Yは、株式会社パワードコムである。

 原告Xは、コンピュータプログラムWinmx を利用して行われた方法で、インターネットを経由した情報の流通で、(ユーザー942)という者が、Xのプライバシーを侵害した文章を書いていることを知った。
ユーザー942は、被告Y提供の通信装置を利用し、Yによって、インターネットプロトコルが付与され、Yは、ユーザー942の住所、氏名に関する情報を保有している。
Yは、Xらから本件発信者情報の開示を請求されたので、ユーザー942に対し、開示を問い合わせたところ、「勘弁して貰いたい」と回答した。YはXへ開示しなかった。
Xは、インターネット接続を提供したプロバイダであるYを被告として、発信者の住所氏名の開示を求めて訴えた。
 裁判で、WinMXによる電子ファイルの送信が、「特定電気通信」か、特定電気通信は、特定電気通信役務提供者が、始点に立つものである必要があるか、について論ぜられた。

[東京地裁]

民事第38部菅野博之裁判長は、次のように判断した。

  1. WinMXによるファイル送信は、プロバイダ責任制限法2条の「特定電気通信」の定義である「不特定の者によって受信されることを目的とする電気通信の送信」に当たる。
  2. 特定電気通信は、特定電気通信役務者が、その始点に立つものであることを要しない。

「判決主文」

  1. 被告は原告等に対し、平成14年12月6日22時48分ころに「61.204.152.48というインターネットプロトコルアドレスを使用してインターネットに接続していた者の氏名及び住所を開示せよ。
  2. 訴訟費用は被告の負担とする。
被告が東京地裁平成15年4月24日判決平成14年(ワ)第18428号(羽田タートルサービス事件)を援用したが、東京地裁は、別件判決であり、そもそもプロバイダ責任制限法のインターネット適用のない事案で、斟酌することはできないと、述べている。ナップ型音楽ファイル交換事件(東京高裁平成17年3月31日判決、東京地裁平成15年1月30日中間判決)は、送信者側コンピュータから受信者側コンピュータに対する電子ファイルの送信において、受信者側ユーザーが、アイデイーやインターネットプロトコルアドレスにより特定されていたとしても、送信側ユーザーから見て「不特定の者」に当たる、とする。
プロバイダについては、一般社団法人日本インターネットプロバイダー協会があり、正会員148,賛助会員6という(2015年6月)。なお、堀之内清彦「メデイアと著作権」(論創社・2015年)256頁。

[参考文献]森亮二・NBL771号(2003年10月15日)6頁。

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中国政官データ[2016年5月版]

著者:大家 重夫(Shigeo Ohie)のご紹介

著者:大家 重夫(Shigeo Ohie)の写真

2013年 フランス ランスにて

プロフィール

1934(昭和9)年生まれ
久留米大学名誉教授・国際日本語普及
協会理事
LAIT(IT知財法務研究所)
客員研究員

京都大学法学部卒
1960年文部省(現・文部科学省)
1970年文化庁著作権課長補佐
1988年私立久留米大学法学部教授。
1995年久留米大学法学部長
2005年久留米大学特任教授・名誉教授
2011年日本ユニ著作権センターより
「著作権貢献賞」を受賞

主な著書に

  • 肖像権(1979年・新日本法規)
  • 改訂版ニッポン著作権物語(1999年・青山社)
  • タイプフェイスの法的保護と著作権(2000年・成文堂)
  • 唱歌『コヒノボリ』『チューリップ』と著作権(2004年・全音楽譜出版社)
  • 肖像権 改訂新版(2011年・太田出版)
  • 美術作家の著作権 その現状と展望
    (福王子一彦と共著・2014年・里文出版)
  • ウルトラマンと著作権
    (上松盛明氏と共編・2014年・青山社)
  • インターネット判例要約集(2015年・青山社)

などがある。

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