大家重夫の世情考察

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本と雑誌のフォーラム事件

ニフテイサーブ「本と雑誌のフォーラム」での名誉毀損事件である。

東京地裁平成13年8月27日判決(平成11年(ワ)第2404号、判時1778号90頁判タ1086号181頁)

Yは、インターネット上の電子掲示板の運営会社。
Xは、Yが提供するニフテイサーブの会員として、「本と雑誌のフォーラム」において、ID番号とハンドル名で意見表明をしていた。匿名で参加してきたAの第三者宛コメントに対しXが、「私に対する個人的侮辱だ」と発言し、Aが「やれやれ、妄想系ばっかりかい、この会議室は(笑)?」と応じ、言論による20通の書き込みの応酬がつづいた。

Xは、Yに対し、

  1. YがAの不法行為に対し適切な措置をとらなかったため、Xが精神的苦痛を被ったとして、債務不履行ないし不法行為により損害賠償を請求し、
  2. Yが発信者Aの契約者情報(氏名、住所)の情報を開示せず、Xの名誉権回復を妨害しているとして、

人格権による差止請求権及び不法行為に基づく妨害排除請求権を根拠に、Aの契約者情報(氏名、住所)を請求した。

[東京地裁判決]
原告の請求を棄却した。

  1. 言論による侵害に対し、言論で対抗するというのが表現の自由の基本原理であり、被害者が、加害者へ十分な反論をし、それが功を奏した場合、被害者の社会的評価は低下していないから、このような場合、不法行為責任を認めることは、表現の自由を萎縮させるおそれがあり、相当と言えない。
  2. 本件において、「会員であれば、自由に発言することが可能であるから、被害者が、加害者に対し、必要かつ十分な反論をすることが容易な媒体であると認められる。」
    「被害者の反論が十分な効果を挙げているとみられるような場合には、社会的評価が低下する危険性が認められず、名誉ないし名誉感情毀損は成立しない」
  3. 「被害者が、加害者に対し、相当性を欠く発言をし、それに誘発される形で、加害者が、被害者に対し、問題となる発言をしたような場合には、その発言が、対抗言論として許された範囲内のものと認められる限り、違法性を欠く」
  4. 「Aは、Xに対し、不法行為責任を負わない。よって、Aに不法行為が成立することを前提としたXのYに対する本件請求は」「理由がない。」
書込がXの挑発的発言に対する反論、対抗的言論で許されるという法理から、不法行為(名誉毀損)にならないとした点が興味を引く。

[参考文献]
山口成樹・別冊ジュリスト179号「メイデイア判例百選」226頁(2005年)。
大須賀寛之・ニフテイーサーブ「本と雑誌のフォーラム」事件・(岡村久道編「サイバー 判例解説」96頁)

女流麻雀士対2ちゃんねる事件

インターネット上の電子掲示板に書き込まれた発言により名誉毀損された者が、その発言の削除を掲示板運営者に求め、削除しなかったことが、不法行為とされ損害賠償が認められ、また、その発言の削除請求が認容され、しかし、当該発言の発信者情報の開示請求は棄却された事例である。

東京地裁平成15年6月25日判決(平成14年(ワ)第13983号、判時1869号46頁)

原告は、日本プロ麻雀連盟所属の20代の未婚のプロ麻雀士である。
被告は、インターネット上で、閲覧及び書き込みが可能な電子掲示板「2ちゃんねる」の開設者、管理運営者である。

平成14年1月、掲示板に、原告について、「整形しすぎ」「年いくつ誤魔化してんの?」「穴兄弟たくさんいるよ」などの書き込みがなされた。

原告は、

  1. 原告の名誉を毀損する発言等が書き込まれたのに、被告がこれら発言の送信防止措置を講じる義務を怠り、原告の名誉が毀損されるのを放置し、原告が損害を被ったなどとして、原告が被告に対し、民法709条に基づき、706万1000円の損害賠償を求め、
  2. プロバイダ責任制限法に基づき、掲示板に原告の名誉を毀損する発言等の書き込みをした者の情報の開示を求めて

訴えた。

[東京地裁]
民事24部の大橋寛明裁判長は、次のように判断した。

  1. 掲示板への各発言は、名誉毀損にあたる。
  2. 被告が当該発言の送信防止措置を講ずる条理上の作為義務を負う。送信防止措置を講じなかったことは、作為義務違反で、原告に対して不法行為になる。
  3. 被告は、本件発信者の氏名、住所及び電子メールアドレス、発言に係るIPアドレスを保有している証拠はない。従って原告の本件発信者の情報の開示請求は理由がない。
  4. 被告が、発言を削除せず、送信を継続し、原告の名誉を毀損し、名誉感情を侵害した不法行為について、精神的損害を慰藉する賠償金額は、90万円が相当で、弁護士費用10万が相当である。

とした。

発信者情報の開示請求は棄却され、当該発言の削除は認められた事例である。

R学園長対電子掲示板事件

1,特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律」(以下、プロバイダ責任制限法)4条1項に基づく発信者情報の開示請求に応じなかった特定電気通信役務提供者は、当該開示請求が同項各号所定の要件のいずれにも該当することを認識し、又は上記要件のいずれにも該当することが一見明白であり、その旨認識することができなかったことにつき重大な過失がある場合にのみ損害賠償責任を負うとされ、2,インターネット上の電子掲示板にされた書き込みの発信者情報の開示請求を受けた特定電気通信役務提供者が、請求者の権利が侵害されたことが明らかでないとして開示請求に応じなかったことにつき、重大な過失があったとはいえないとされた事例である。

最高裁平成22年4月13日判決(平成21年(受)609号、判時2082号59頁民集64巻3号758頁)
東京高裁平成20年12月10日判決(平成20年(ネ)第3598号、民集64巻3号782頁)
東京地裁平成20年6月17日判決(平成19年(ワ)第27647号、民集64巻3号769頁)

原告Xは、学校法人R学園(湘南ライナス学園)の学園長兼理事である。
被告Yは、電気通信事業を営む株式会社で、DIONの名称でインターネット接続サービスを運営している。

平成18年9月頃、電子掲示板サイト「2ちゃんねる」において、X及びXが勤務する学園に関する書き込みがなされた。「気違いはどう見てもライナス学長」などである。Xは、プロバイダ責任制限法に基づき、2ちゃんねるに対して、発信者情報開示の仮処分を申立て、開示を命ずる仮処分決定を得た。その結果、2ちゃんねる側から、Xに対し、本件書き込みの発信者情報としてのIPアドレスが開示された。これにより、本件書き込みは、被告Yが運営するインターネット接続サービスDION経由と判明した。
Xは、Yへ、平成19年2月27日、発信者の情報を開示するよう依頼した。
Yは、平成19年6月6日書面で、権利侵害の明白性が認められないと回答した。
Xは、Yを訴えた。

[東京地裁]
民事26部は、次のように判断した。

  1. 本件書き込みは、違法性が強度で社会通念上許される限度を超える表現ではない。原告の権利が侵害されたことが明らかであるといえない。
  2. 原告による発信者情報の開示請求は理由がない。

Xの請求を棄却した。

[東京高裁]
第12民事部は、「気違い」という表現は、きわめて強い侮辱的表現で、差別用語で、名誉感情を侵害した。控訴人Xには、発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があるとして、

  1. 別紙目録記載の時刻頃に目録記載の書き込みを送信した者の氏名又は名称住所、電子メールアドレスを開示せよ。
  2. Yが開示請求に応じなかったのは、重大な過失で、これによるXの精神的苦痛に対する慰謝料として10万円、弁護士費用5万円

とし、これをXへ支払うようYへ命じた。

[最高裁]
第3小法廷(田原睦夫裁判長、藤田宙靖、堀籠幸男、那須弘平、近藤崇晴裁判官)は、東京高裁の判決中、損害賠償請求を認めた部分を廃棄し、同請求を棄却すべきものとした。発信者情報開示請求に関する上告は、上告受理申立理由が上告受理の決定において、排除されたので、棄却された。

最高裁の結論を冒頭に掲げたが、1審と3審最高裁が同じ判断をした。

芸能人発信者情報開示請求事件

芸能活動を行いブログを開設している芸能人が、インターネット上のあるブログにより、著作権侵害され、名誉感情が侵害されたとして、誰が投稿したか、NTTコミュニケーション株式会社に発信者情報の開示を請求した事件である。

東京地裁平成26年1月27日判決(平成25年(ワ)第18124号)

原告は、芸能活動を行っている者で、インターネット上にブログを開設している。そのブログに平成23年4月、「やっぱりハッピーでえ~(※^0^※)」と題する記事(原告記事1)を、平成24年3月、「バーチャルで遊んで下さい!!訂正、追記」と題する記事(原告記事2)を掲載した。
 株式会社サイバーエージェントが提供するブログサービスを利用して、インターネット上に「嘘を暴く快感!嘘を見逃すな!!」というブログに平成25年1月20日付け投稿の記事(以下、本件記事)、原告の顔写真が掲載されており、そこに原告の記事の一部が転載され、「妄想が激しく、嘘つき」「数々の嘘を暴き」というサブタイトルもあった。
 原告は、いわゆる経由プロバイダである被告NTTコミュニケーションズが、本件記事の発信者情報を保有しているとして、「特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律」第4条第1項に基づき、開示を求めて訴えた。

[東京地裁民事29部判決]
大須賀滋裁判長は、次のように判断し、「被告は、原告に対し、別紙発信者情報目録記載の各情報を開示せよ。」と判決した。

  1. 原告の文字によって記載された部分は、いずれも原告の著作物であると認め、原告は、作成者として著作権(複製権、公衆送信権)を有する。
  2. 被告は、「引用」を主張するが、本件記事1全文や本件記事2のうちの24行を引用する必要性があるとは認められないとして、著作権法32条1項の引用を認めなかった。
  3. 「本件記事」を本件ブログ上に投稿する行為は、原告著作権(複製権、公衆送信権)を侵害するものと認めた。
  4. 原告が本件記事発信者に対し、不法行為(著作権侵害)に基づく損害賠償請求権を行使するためには、被告の保有する本件発信者情報の開示を受けることが必要である。
芸能人も攻撃され、また、攻撃者に対して、芸能人が敢然と戦う、のである。
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中国政官データ[2016年5月版]

著者:大家 重夫(Shigeo Ohie)のご紹介

著者:大家 重夫(Shigeo Ohie)の写真

2013年 フランス ランスにて

プロフィール

1934(昭和9)年生まれ
久留米大学名誉教授・国際日本語普及
協会理事
LAIT(IT知財法務研究所)
客員研究員

京都大学法学部卒
1960年文部省(現・文部科学省)
1970年文化庁著作権課長補佐
1988年私立久留米大学法学部教授。
1995年久留米大学法学部長
2005年久留米大学特任教授・名誉教授
2011年日本ユニ著作権センターより
「著作権貢献賞」を受賞

主な著書に

  • 肖像権(1979年・新日本法規)
  • 改訂版ニッポン著作権物語(1999年・青山社)
  • タイプフェイスの法的保護と著作権(2000年・成文堂)
  • 唱歌『コヒノボリ』『チューリップ』と著作権(2004年・全音楽譜出版社)
  • 肖像権 改訂新版(2011年・太田出版)
  • 美術作家の著作権 その現状と展望
    (福王子一彦と共著・2014年・里文出版)
  • ウルトラマンと著作権
    (上松盛明氏と共編・2014年・青山社)
  • インターネット判例要約集(2015年・青山社)

などがある。

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