大家重夫の世情考察

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エステックサロン名簿流出事件

エステックサロン経営社の管理するウエブサイトに送信した個人の氏名、住所、職業、電話番号等が流出し、プライバシー侵害で、経営者が敗訴した事件である。

東京地裁平成19年2月8日判決(平成14(ワ)7790号、平成15(ワ)7975号、平成16年(ワ)8051号、1部認容、1部棄却(控訴)、判時1964号127頁)

被告Yは、エステックサロンを経営する会社である。Yは、インターネット上にウエブサイト等を開設することにし、訴外A社((株)ネオナジー)とサーバーコンピュータのレンタル契約などを締結した。平成11年頃、Yは、ホームページの政策、保守についてもAと契約し、Yは、ホームページの閲覧者から、質問に対する回答を集めるなどして、そのサイトに送信した個人の氏名、住所、職業、電話番号、メールアドレス等の個人情報を保管し、蓄積していた。集積した個人情報は、サーバー内の特定の電子ファイル(本件電子ファイル)に格納され、本件電子ファイルへの第三者からのアクセスを拒否する設定がなされた状態で保管された。Yは、本件電子ファイルにアクセスし、これに格納された個人情報を被告の社内のパソコンに転送し、それを保管していた。

 平成14年3月、年々アクセス数が増加し、サーバーの容量が十分ではなくなったため、Aは、Yの同意を得て、本件ウエブサイトをY専用のサーバーに移設する作業を行った。
その際、本件本件電子ファイルは、インターネット上の一般の利用者が、特定のURLを入力することで自由にアクセスし、閲覧することのできる状態に置かれた。
同年5月26日頃、インターネット上に開設された掲示板「2ちゃんねる」に「大量流出!TBCのずさんな個人情報管理」との表題のもとに5種類のURLと「おなごの個人情報とかスリーサイズが丸見えじゃん」といった書き込みがなされた。AもYもそれまで全く知らなかった。

X1からX14までの14人が個人情報の流出により、プライバシー権侵害で訴えた。
原告X1からX14まで、それぞれ、115万円(慰謝料100万円、弁護士費用15万円)を請求し、それぞれ訴訟提起の日から支払済みまでの年5分の金員の支払を求めた。

民事15部(阿部潤裁判長、中里敦、丹下友華裁判官)は、

  1. 本件ウエブサイトからインターネット上に流出したことは、原告X等のプライバシーを侵害する
  2. Aが民法709条の不法行為責任を負う
  3. 被告Yは、Aに対し実質的な指揮、監督関係にあり、民法715条の使用者責任を負う
  4. 原告Xらは、情報流出事故で、精神的苦痛を受けている
  5. 原告X10を除く各被告は、2次的被害を受けており、各3万円の慰謝料が相当である
  6. 原告X10は、慰謝料1万7000円が相当である
  7. 弁護士費用として、各原告あたり、5000円が相当である

とした。

判決は、Yは、

  1. X1からX9までは、3万5000円
  2. X10に対し2万2000円
  3. X11からX13まで、に対し、各3万5000円
  4. X14に対し、3万5000円

それぞれ、訴訟提起日から支払済みまでの年5分の金員を支払うよう命じた。

少なくとも平成14年3月から平成14年5月26日頃まで、第三者の閲覧可能な状態に置かれ、原告のうち、早い者は、平成15年早々に訴訟提起している。
この判決は、事件発覚後、被告Yが、謝罪のメールを発し、全国紙に謝罪の広告をだし、発信者情報開示請求請求訴訟を提起し、保全処分事件の申立を行ったことを評価し、原告1人当たり、3万円としたと考えられる。筆者としては、このプライバシー侵害に対し、3万円はやや低すぎると思う。

発信者情報NTT請求事件

ネットのチャットルームにおける書込みがプライバシー侵害、名誉毀損に該当する等として、発信者情報開示請求が認められたが、プロバイダーによる情報開示請求の拒否につき重過失がないとして、損害賠償請求が棄却された事例である。

大阪地裁平成20年6月26日判決(平成20年(ワ)第461号、判タ1289号294頁)

Xは、私人である。
Yは、エヌ・テイ・テイ・コミュニケーションズ株式会社である。

インターネットのチャットルームにおいて、Aが、原告Xについて、その住所、氏名を公開し、「郵便局の配達員クビになった」、「誰もが認める人格障害」「引き籠もり40歳」などと記載した。
Xは、プロバイダ責任制限法4条1項に基づいて、Aの住所、氏名の開示を求めたが、拒否された。Xは、「別紙アクセスログ記載の参加日時から退出日時までの間に同目録記載のIPアドレスを使用してインターネットに接続していた者の氏名及び住所を開示せよ」および百万円の損害賠償を請求して訴訟を提起した。

[大阪地裁]
第17民事部の西岡繁靖裁判官は、Xのプライバシー権が侵害されたことが明白で、名誉を毀損されたことも明白で、開示を受ける正当な理由があるとして、Aの住所、氏名の開示請求を認めた。
しかし、損害賠償請求については、被告Yに、故意、重過失を認めず、原告Xの損害賠償請求は理由がない、とした。
Aは、原告Xから、(弁護士が発信者の住所を調べ、判明したら原告が極道をAの下に送るから待ってろよ)、との脅迫を度々受けており、被告Yとしては、Aの意見を尊重して、原告の開示請求に応じることはできないと判断した事情があった。

発信者情報開示請求について、被告側にもいろいろの事情がある。

検索サイト表示差止請求事件

ヤフー・ジャパンの検索サイトで自分の名前を検索すると、逮捕事実が表示されとして、名誉毀損及びプライバシー侵害に基づく損害賠償及び差止めを求めたが、請求が認められなかった事例である。

京都地裁平成26年8月7日判決(毎日新聞2014年8月23日)

原告は、2012年11月、サンダルに小型カメラを装置し、女性を盗撮し、同年12月、京都府迷惑行為防止条例違反で逮捕され、2013年4月、執行猶予付の有罪判決を受けた者である。

原告が、ヤフー・ジャパンの検索サイトで、自分の名前を検索したところ、逮捕された事実が表示された。
原告は、ヤフー・ジャパンに対して、名誉毀損、プライバシー侵害を理由として、差止めと損害賠償を求めた。
京都地裁は、1,検索結果の表示によって、原告の名誉を毀損したとはいえないが、仮に、検索結果の表示の内、スニペット部分について、原告への名誉毀損が成立すると解し、違法性阻却を検討する。

原告の逮捕事実は、盗撮という特殊な行為態様の犯罪事実に関するもので、社会的関心の高い事柄で、原告逮捕からまだ1年半程度しか経過していないことから、サイトの事実表示は公共の利害に関する事実に関する行為であり、違法性は阻却されないとした。プライバシー侵害については、違法性が阻却され、不法行為は成立しないとした。
損害賠償については、判断の必要なく、検索結果の表示により原告の人格権が違法に侵害されているとも認められない、として、差止めは理由がないとした。

いわゆる「忘れられる権利」の事件である。京都地裁は、これを認めなかった。原告が抹消して欲しいという事実から、「1年半」しか経過していないことが、大きな理由と思われる。
紙媒体であるが、交通事故で傷害を負い、後遺症がある旨の虚偽申告し、誤信した保険会社から保険金の支払を受け、そのことが発覚した被告が、原告出版社発行「交通事故民事判例集」に実名が載り、「保険金詐欺事件」なる索引により、詐欺被告人と同視した扱いをされ、名誉・信用が毀損に掲載されたとして、謝罪文の掲載と500万円の賠償を求めた事件で、長野地裁飯田支部平成元年2月8日判決(昭和63年(ワ)23号、判時1322号134頁、判タ704号240頁)。大手新聞社の縮刷版のことを考えると、「忘れられる権利」は、紙媒体には影響を及ぼすべきではない。

[参考文献]
中島美香「検索サイトに対して検索結果の表示と差止めを認めた地裁判決の紹介ー京都地 裁平成26年8月7日判決について」 http://www.irc.co.jp/newsletter/law/2014/law201408.html
神田知宏「ネット検索が怖いー『忘れられる権利』の現状と活用」ポプラ新書・2015 年5月7日発行。
福井健策編「インターネットビジネスの著作権ルール」(著作権情報センター・2014年)252頁。

グーグル検索サイト削除決定事件

グーグルの検索サイトにかって不良グループに属していたこと関する情報が表示されていたため、グーグルに削除を求め、削除を求めた237件のうち、122件について削除の仮処分を決定した事件である。

東京地裁平成26年10月9日決定(朝日2014年10月10日1面、毎日2014年11月09日)(尾村洋介)(http://newsphere.jp/national/20141014-1/

 グーグルの検索エンジンで、自分の名前を検索すると、検索結果として表示される見出しと検索先の記事の一部を表示する「スニペット」にかって不良グループに属していたことに関する情報が表示され、すでにこのグループとは全く関係がないが、融資を申し込んだ銀行から「風評被害対策をしなければ融資できない」と指摘され、グーグルに対し、検索結果237件の削除を求めた。

 関述之裁判官は、「検索結果の一部はプライバシーの一部として保護されるべきで、人格権を否定している。検索サイトを管理するグーグルに削除義務がある」と認め、検索結果から『男性は素行が不適切な人物との印象を与え実害も受けた』として男性側の請求を認め、約230件のうち、およそ半数の237件の削除を命じた。

朝日新聞は、1面トップで「グーグル検索結果削除命令」「名前入力で犯罪思わせる内容」との見出し、6段記事で報じた。
 この事件の弁護人神田知宏弁護士は、後掲「ネットが怖い」40頁以下でEU裁判所2014年5月13日判決を知り、訴訟を提起し、5月後、この決定を得た、と述べている。

[参考文献] 神田知宏「ネット検索が怖いー『忘れられる権利』の現状と活用」(ポプラ新書・2015年5月7日)45頁。
尾村洋介「http://mainichi.jp/feature/news/p20141109mog00m040005000c.html
福井健策編「インターネットビジネスの著作権とルール」(著作権情報センター・2014年)252頁(池村聡執筆)

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中国政官データ[2016年5月版]

著者:大家 重夫(Shigeo Ohie)のご紹介

著者:大家 重夫(Shigeo Ohie)の写真

2013年 フランス ランスにて

プロフィール

1934(昭和9)年生まれ
久留米大学名誉教授・国際日本語普及
協会理事
LAIT(IT知財法務研究所)
客員研究員

京都大学法学部卒
1960年文部省(現・文部科学省)
1970年文化庁著作権課長補佐
1988年私立久留米大学法学部教授。
1995年久留米大学法学部長
2005年久留米大学特任教授・名誉教授
2011年日本ユニ著作権センターより
「著作権貢献賞」を受賞

主な著書に

  • 肖像権(1979年・新日本法規)
  • 改訂版ニッポン著作権物語(1999年・青山社)
  • タイプフェイスの法的保護と著作権(2000年・成文堂)
  • 唱歌『コヒノボリ』『チューリップ』と著作権(2004年・全音楽譜出版社)
  • 肖像権 改訂新版(2011年・太田出版)
  • 美術作家の著作権 その現状と展望
    (福王子一彦と共著・2014年・里文出版)
  • ウルトラマンと著作権
    (上松盛明氏と共編・2014年・青山社)
  • インターネット判例要約集(2015年・青山社)

などがある。

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