第3部 汚職、権力闘争で失脚した人々 – 後編 –

2016年6月28日

2014年 2月、金道銘・山西省人大常務委副主任(副部級)摘発される。

      2月、翼 文林・海南省副省長(副部級)、周永康の元秘書。元総理李鵬の長女への利益供与が浮上。
2014年7月29日 周永康(1942ー)(胡錦濤政権で党内第9位の中央政治局常務委員(注32)で、江沢民の妻の姉妹の娘賈曉燁と結婚(注33))を拘束。
12月5日、共産党中央は、周永康に重大な規律違反があったとして、党籍を剥奪、身柄を司法機関に送ることことにした。湯燦との関係については、福島香織前掲書参照。(注34) 周永康とその一族の摘発された汚職額は、145億ドル(約1兆4500円)といわれる。(注35

2014年 徐才厚(前、軍事委員会副主任)(注36)も失脚した。
徐才厚は、1943年生まれ、奉天省出身。 徐才厚は、第16集団軍政治部主任、1992年「解放軍報」社社長兼任。1997年、党中央委員会委員。
2014年6月末、党籍剥奪。徐は、人民解放軍上將、前中国共産党軍事委員会(中央軍委)副主席(注37)。徐才厚と湯燦(タンツアン)(中国共産党高官の公共情婦、師団級軍属歌手)との関係について福島香織前掲書参照。(注38)。
徐才厚は、2015年3月15日膀胱癌のため「病亡」した。71歳。

2014年6月 全国政治協商会議副主席の蘇栄氏が、解任された。(2015年2月参照)。
人事濫用によって金儲けの疑い。 令 政策・山西省政治協商会議副主席(副部級)、取調を受ける。令政策は、令計画の実兄。

     8月、任潤厚・山西省副省長(副部級)、摘発される。

     8月、何家成・国家行政学院副院長(正部級)摘発される。

2014年9月 国務院国有資産監督管理委員会(国資委)主任(大臣級)の蒋潔敏が解任、逮捕される(中国石油天然ガス集団から周永康によって引き上げられた)。蒋潔敏は、1955年生まれ、山東省出身。中国石油天然気集団(CNPC)会長から2013年3月、国資委主任に任命された。

2014年9月 習近平指導部発足から22カ月。自殺者、全体で1252人。行方不明者、6448人。海外逃亡者、8341人、総計 1万6041人(相馬勝「習近平の『反日』作戦」(小学館・2015年)90頁。)

2014年11月8日 「人民日報」(電子版)、資産を持ち逃げし、海外に逃亡した党、政府、国有企業幹部は、1992年から22年間で、2万人。持ち逃げした金額1兆元(約19兆5000億円)。 海外で逮捕され、送還された者、7000人(相馬勝「習近平の『反日』作戦」(小学館・2015年)93頁。)

2014年11月14日 馬発祥・海軍副政治委員、中将が、中国人民解放軍海軍大院の100号楼(ビル)15階から飛び降り自殺。馬中将は、郭伯雄の側近中の側近(相馬勝「習近平の『反日』作戦」(小学館・2015年)101頁。)

2014年12月22日 全国政治協商会議副主席である令計画・党統一戦線部長(58)が中国共産党により、「重大な規律違反」の疑いで取り調べていると国営新華社が報じた。令計画は、共産主義青年団(共青団)(団派)有力者の1人。
令計画の息子が女性と乗っていた高級車で人身事故を起こし、これがため、2012年の党大会で党政治局員昇格が見送られた(あるいは降格されたともいわれる)。この問題のもみ消しを当時の公安部門トップの周永康党政治局常務委員に働きかけたとされる。矢吹晋・高橋博は、習近平は、腹心の栗戦書を中共中央弁公庁主任に任命し、党大会の準備工作をさせるため令計画を栗戦書に替る必要があったとする。(注39
令計画:山西省平陸県出身。共産主義青年団(共青団)の中央組織へ。共青団中央宣伝部長。1995年から党中央弁務公庁で、胡錦濤の部下になる。1999年、同庁副主任、2007年同庁主任。2012年、党統一戦線部長。2013年、習近平政権下で、全国政治協商会議副主席。
日経島田学記者は2014年12月27日日経で、令計画・党統一戦線部長の失脚は、共青団出身であり、胡錦濤前国家主席に近かったため、党内に動揺が走ったとする。宮崎正弘・石平「2015年中国の真実」(ワック株式会社・2014年9月26日)91頁は、胡錦濤派の者は誰も摘発されないと予測していた。矢吹晋・高橋博「中共政権の爛熟・腐敗」(蒼蒼社・2014年11月)27頁は、薄熙来、周永康、徐才厚、令計画の四人組が、習近平体制を打倒するクーデタ説があった、と報じている。矢吹教授は、薄熙来と周永康の結託は、容易に想像できたが、「軍の副主席や胡錦濤政権の大番頭令計画がコミットしているとする話はにわかに信じがたい気分であった。」とする。令計画は、胡錦濤に信任されていたが、一方、山西省閥というべき「山西幇」でもあった。
兄の令政策・山西省政治協商会議主席が地元の炭坑経営者と癒着し、弟の令計画は、山西省出身の中央官僚を集め、人脈を作っていた。山西省は薄熙来の出身地で、石炭の主要産地という関係で、資源エネルギー省出身の周永康とつながっていた。(エコノミスト2015年2月17日号26頁(金子秀敏執筆))。薄熙来、周永康、徐才厚らとも親しく、胡錦濤だけでなく、薄らに保険をかけていた。

2014年12月9日 令計画の妻の弟、谷源旭黒竜江省公安庁副庁長が取調(産経2014年12月30日)。谷源旭は、国営中央テレビの番組制作部門勤務の後、寧夏回族自治区のテレビ局幹部。2010年、黒竜江省へ移動した。

2014年12月10日 河北省廊坊市中級人民法院は、中国国家発展改革委員会(発改委)の劉鉄男元副主任(次官級)に無期懲役の判決を下した。広汽トヨタ(トヨタ自動車と広州汽車集団(広東省)の合弁会社)は、広汽トヨタの販売店を北京に出店するために、発改委の工業局長だった。劉鉄男に頼った。劉は、広州汽車トップの張房有薫事長へ働きかけ、トヨタ正規店の営業認可取得をとりつけさせた。劉への報酬は、現金だけで、1000万元(2億円弱)。裁判所が認めた企業からの口利き料は、合計3558万元だった。2014年12月28日日経5面。

2014年12月 范 長秘・蘭州軍区副政委(中将)摘発される。

2015年1月6日 江沢民の長男江綿恒が中国科学院上?分院の院長を突然辞任した。

2015年1月13日 中国共産党は、1月13日、雲南省の元党委書記の白恩培の党籍剥奪と刑事責任の追及を決めた、と発表した(日経2015年1月14日)

2015年1月13日 山西省政府は、李小鵬省長の管轄から観察業務や国営企業管理などを外すと発表した。山西省出身、前、党統一戦線部長令計画の取調強化のための管轄調整とみられるとする。李省長は、李鵬元首相の子供。日経2015年1月14日。

2015年1月16日 中国共産党中央規律委員会は、海外機関によるスパイ活動の監視などを担当する国家安全省の馬建次官を「重大な規律違反と違法行為」の疑いで取調べていると発表した。馬氏は、失脚した令計画・前党統一戦線部長との関係が親密とされ、令氏の汚職問題に関連した取調(日経2015年1月17日付)。

2015年1月20日 全国政治協商会議は、令計画副主席を解任する方針を決めた。近く開く常務委員会で令氏解任を正式決定する(国営新華社)。(日経2015年1月21日夕刊)

2015年2月 2月16日、党中央規律検査委員会は、蘇栄氏(全国政治協商会議副主席を2014年6月解任された)を巨額の収賄など重大な規律違反と違法行為を犯したとして、党籍を剥奪したと発表した。今後は、司法機関が刑事責任を追及する。党中央規律検査委員会は、浙江省政治協商会議副主席を務めていた斯?良氏を重大な規律違反の疑いで調査していると発表した。斯氏は、習近平が浙江省のトップの時代、浙江省の党の組織部長だった。以上、日経2015年2月17日付け。

2015年2月 「周永康の腹心で手足でもあった劉漢兄弟」ら5人の死刑が執行された。
(長谷川慶太郎「中国大減速の末路」73頁)

2015年3月2日 中国国防省は、重大な規律違反や違法行為により郭正綱浙江省軍区副政治委員(少将)(前・中央軍事委員会副主席郭伯雄の息子)ら14人を立件、調査中と発表した。

2015年3月20日 中国共産党中央規律検査委員会は、福建省の徐鋼・副省長(56)に重大な規律違反と違法行為があったとして、調査中と発表した。汚職容疑であると思われる。福建省は習近平が2012年まで、17年間勤務しており、習近平が福建省長時代に、徐鋼は、省政府副秘書長を務めていた。日経2015年3月21日。

     3月、徐 健一・第一汽車集団薫事長(副部級)、トヨタ自動車,VWが合弁を組む中国側を差配する経営者。摘発される。

2015年4月3日 中国、天津市の人民検察院(地検に相当)は、周永康を収賄や職権濫用、国家機密漏洩などの罪で、天津市第1中級人民法院に起訴した。2014年7月、党は、「重大な規律違反」で、取調中と発表していた。
(湖南省党委員会組織部の張英紅研究員が、同部発行の雑誌「当代党建」に「政法委員会は、司法の独立を阻害している」「党の1部門に過ぎない政法委員会が司法を管理するのは不当である」という論文を発表した。これが、北京大学のインターネットに転載され、海外に広がった。当時の党中央政法委員会の周永康副書記(公安部長兼任)が張英紅を名指しで批判、張英紅は組織部を追われるということがあった。興梠一郎「中国激流」(岩波新書・2007年4月13日9刷)83頁)。

     4月 王天晋・シノベック総経理(副部級)摘発される。

2015年4月下旬 胡錦濤前指導部で、軍制服組の最高位であった郭伯雄・全中央軍事委員会副主席(72)の身柄を拘束していることが判明した。

2015年4月17日 北京市の中級人民法院は、9号文件(中国共産党が、幹部向けに敗する秘密文書で、民主主義や人権擁護などの価値の普及禁止)を海外メデイアに漏洩したとして、女性ジャーナリスト髙瑜(71)に懲役7年を言い渡した。

2015年6月11日 天津市第1中級人民法院は、周永康・前党中央政治局常務委員・前党中央政法委員会書記(72)に対し、収賄、職権濫用、国家機密漏洩罪で、無期懲役の判決を言い渡した。 周は、息子や妻とともに計約1億3000万元(約26億円)の賄賂を受け取り、職権を濫用私的に国家資産を流用、国家に約14億8600万円(約300億円)の経済損失を与えたとされた。「いずれも死刑を免れる金額の範囲内」(加藤隆則・文藝春秋2015年8月号96頁)。周は、その場で罪を認め、上訴を断念、判決が確定した。

2015年7月12日 最高人民法院の奚曉明副院長の調査を発表した。

2015年7月20日 中国共産党政治局会議で、令計画・前党統一戦線工作部長(58)に重大な規律違反があったとして、党籍剥奪、公職追放処分としてうえで、司法送致をきめた。最高検察院は、同日、収賄の疑いで令氏を逮捕を決めた。

2015年7月21日 党中央規律検査委員会は、広東省党規律検査委員会の副書記を解任し、党籍剥奪処分にしたと発表した。

2015年7月24日 中央規律検査委員会は、河北省党員会の周本順(チョウ・ペンション)書記を「重大な規律違反と法違反」の疑いで調査している、と発表した。周本順は、湖南省の出身、司法部門担当の党政法委員会が長く、2008年から2013年にかけて、党政法委員会秘書長だった。周永康の元秘書の1人。

2015年7月27日 中央規律検査委員会は、吉林省の谷春立副省長を「重大な規律違反と法律違反」の疑いで、調査していると発表した。

2015年8月7日 谷春立・吉林省副省長が免職処分になった(新華社通信)。

     8月13日 党中央規律委員会は、国有自動車大手、中国第一汽車集団の徐建一・前薫事長(会長に相当)の党籍を剥奪したと発表した。職権を使って住宅購入など便宜を図らせ、幹部登用にからみ贈賄を受けた。周永康らと関連があった。

2015年8月10日 8月11日中国軍機関紙「解放軍報」は、谷俊山・元軍総後勤部副部長(中将)が10日、軍事法院(裁判所)において、執行猶予付の死刑判決を言い渡されたと報じた。谷俊山の収賄額は200億元(約4千億円)。産経ニュースによれば、汚職金額が1億元(約20億円)を超えれば死刑判決が相場であるが、谷俊山は、上司であった徐才厚、郭伯雄の2人の前軍事委員会副主席の汚職について供述し、当局と司法取引したからだ、という。

2015年10月7日 中央規律検査委員会、福建省省長の蘇樹林(53)を重大な規律違反で、調査中と発表した。

2015年10月12日 湖北省中級人民法院(地裁)は、国有資産監督管理委員会の蒋潔敏元主任について、収賄、職権濫用の罪で懲役16年の実刑判決を下し、財産100万元(約1900万円)の没収すとした。蒋潔敏は、周永康の元側近。
また、四川省共産党委員会の李春城元副書記に対し、収賄、職権濫用で、懲役13年、100万元(約1900万円)没収とした。李春城も周永康の元側近。

2015年10月16日 党中央規律検査委員会は、河北省の元トップ周本順・元同省党委員会書記を党籍剥奪処分にしたと発表した。収賄や機密漏洩の疑いで身柄を司法機関に送る。
党中央規律検査委員会は、同日、天津市の元副市長だった国家安全生産監督管理総局の楊棟梁元局長(閣僚級)の党籍を剥奪した。

2015年12月10日 民間投資会社「復星集団」会長の郭広昌(48)が、当局の拘束下に置かれた。郭は、浙江省出身、復旦大学卒後、1992年、復星の前身の会社を設立、投資、保険、医薬、不動産など幅広い分野に事業を拡大、中国を代表する民営複合企業体に仕上げた。復星集団の傘下の上?豫園旅游商城は、日本の北海道の占冠村(しむかっぷむら)にあるスキーリゾート「星野リゾートマム」の全株式を11月約183億円で取得した。 郭は間もなく釈放された。事情聴取であった。日経2015年12月16日6面。

2016年1月12日 天津市第2中級人民法院(地裁)は、李東生・元公安次官に対し、収賄罪で、懲役15年、違法所得100万元(約1800万円)を没収する判決を下した。李被告は上訴しないという。2016年1月13日付け日経。

2016年1月15日 劉建超・中央規律検査委員会国際協力局長は、令完成の身柄の引き渡しを「米国と協議中」として、令氏の問題を公の場で認めた。
呉玉良・中央規律検査委員会副主席は、「四川省の魏宏・省長が重大な規律違反で、反省しており、相応の処理をするとして、調査中である」ことを認めた。

2016年1月22日 四川省人民代表大会(議会)は、魏宏・省長の辞表願い受理。
昨年末から、姿を見せず、共産党当局は、「重大な規律違反で反省中」としていた。

2016年1月26日 党中央規律検査委員会は、1月26日夜、国家統計局の王保安・局長(兼国家統計局党組書記)を「重大な規律違反」の疑いで調査に入ったと発表した。王局長は1月19日、2015年の経済成長率を発表し、同月26日記者会見のあと、拘束された(石平・村上政俊「最後は孤立して自壊する中国」(ワック・2016年5月)38頁)。

2016年3月4日 党中央規律検査委員会は、3月4日、、元遼寧省のトップで、党中央委員の王珉氏を「重大な規律違反」で調査していると発表した。汚職容疑といわれる。
王珉氏は、2007年から党中央委員、2009年11月遼寧省書記。2015年から全人代の教育科学文化衛生委員会の副主任であった。

2016年3月13日 全国人民代表大会の会期中である13日、2015年に汚職で摘発された公務員は、5万4249人(前年比1.5%減)と公表した。
贈収賄の金額が100万元(約1750万円)以上の大規模汚職は、4490件(前年比22.5%増)。
閣僚・省長級以上の摘発は、41人(前年、28人)で、前年の約1.5倍。

注32
富坂聰、文藝春秋2014年9月号198頁。

注33
遠藤誉「中国人が選んだワースト中国人番付」(小学館新書・2014年)39頁以下。

注34
福島香織「現代悪女列伝」(文春新書・2013年)150頁。

注35
石平「中国崩壊カウントダウン」(宝島130頁社・2014年)156頁

注36
宮崎正弘「中国・韓国を本気で見捨て始めた世界」(徳間書店・2014年)39頁~41頁。矢吹晋・高橋博「中共政権の爛熟・腐敗ー習近平「虎退治」の闇を切り裂く」蒼蒼社・2014年)42頁。

注37
富坂聰、文藝春秋2014年9月号198頁。

注38
福島香織「現代悪女列伝」(文春新書・2013年)136頁。

注39
矢吹晋・高橋博「中共政権の爛熟・腐敗ー習近平「虎退治」の闇を切り裂く」蒼蒼社・2014年)32頁。