第9章 中国は、今後、うまくいくのだろうか ≪第1部 中華人民共和国小史≫

2016年6月24日

 中国は、うまくいっているのだろうか。うまくいくのだろうか。ウイグル、チベットその他国内各地で暴動が起こっているが、少しは、減少しているのだろうか。経済は、大丈夫だろうか。習政権は、軍部を管理下に置き、掌握しているのだろうか。中国国民、地方政府は、習近平に、したがっているか。
 習近平政権では、習近平総書記と党中央規律検査委員会王岐山とのコンビの報道が多い。王岐山・中央規律検査委員会書記が、「反腐敗キャンペーン」を叫び、周永康、徐才厚、令計画までも腐敗で摘発し、習近平は、「強いリーダー」としての姿を現してきた。
2015年1月末、中国共産党系のメデイアは、2013年、14年の2年間に、77人の官僚が自殺したとし、2003年から2012年までの10年間の官僚自殺者が68人であった、と報道した(注86
王岐山は、米国に逃亡している元政府高官が持ち逃げした金銭を回収すべく、米国に協力を求めるため訪米を検討中という(日経2015年3月23日)。
 金融プロの王岐山は、不正資金の持出しルート、隠匿場所を知悉しており、検察のプロとしても成功するだろう。しかし、江沢民の上?派、胡錦濤をトップとする共青団が、このまま習近平にひれ伏すとも思えない。次のような予想が成り立つ。

1.楽観説

  1. 習近平と王岐山のこの政策が功を奏し、中央、地方の官僚が協力し、うまくいく。
    汚職摘発で、国民の支持を得ている。江沢民は、周永康問題や、今後、子息や一派の者を習近平から汚職で摘発されるおそれがあり、身動きできない。胡錦濤は、腹心だった令計画、令完成の大失策で、習近平に正面から顔を向けられない状況にある。経済財政さえうまく、やれれば、やりすごせれば安泰である。
  2. アジアインフラ投資銀行(AIIB)設立は、多くの国の参加表明を受け、まず成功裡に推移している。
  3. 民主主義国であれば、政権をとる期間が限定されて、その都度、信任投票が行われるが、中華人民共和国の場合、対抗勢力がない。中国国民は、自分の生活さえうまくいけば、国のことに関心を持たない者が多い。共産党内部の争いで、首脳部が交替する。
  4. 人口が13億と巨大であること、経済規模も大きいこと、1党独裁で決断が速いこと、党および国務院の官僚組織がしっかりしていること、中国国民が、商業的能力があること等が挙げられる。中国共産党政権が多数の優秀な官僚を抱えている(矢板明夫「習近平」(文藝春秋・2012年)291頁)。
  5. 中国国民は、一時期、インターネットによって、自由に意見交換があったが、現在、ネット論壇は衰退し、在日の漫画家辣椒によれば、自律した市民が育たず、「愚民化」している。(高口康太「なぜ、習近平は激怒したのか」(祥伝社新書・2015年)204頁)
  6. 外国へ戦争を仕掛けるか。
    当面、汚職摘発に専念し、台湾、尖閣諸島を攻めることはしない。
    外国へ戦争を仕掛けることもない。
  7. 北朝鮮とは、不仲で、近藤大介「習近平は必ず金正恩を殺す」(講談社・2014年8月)と題する本もある。遠藤誉「完全版『中国外交戦略』の狙い」(ワック・2013年7月)183頁によると、中国共産党校の機関紙「学習時報」副編集長、鄧聿文(とう・いつぶん)が、英国の「フイナンシャル・タイムズ」に「中国は北朝鮮を捨てるべきだ」という論文を発表したところ、鄧聿文は、中共党中央から停職となった。同盟国、後見人という地位の変更はしない方針だ。このように、短期的には中国共産党の支配は揺るがない。

なお、もっとも楽観的な説は、徐静波「2023年の中国ー習近平政権後中国と世界はどうなっているか?」(作品社・2015年5月10日)である。
 2009年に「あと5年で中国が世界を制覇する」(ビジネス社)を著された副島隆彦氏は、独特の考え方をする人だが、中国が一党支配を止め、台湾、チベット、新疆ウイグル自治区に大きな自治権を与えれば、という条件付きで、中国は「平和な帝国」になり、発展すると説く。

2.悲観説

日本で、最近出版される中国についての出版物は、題名だけみても悲観説が多い。
古森義久・石平「自壊する中国 反撃する日本」(ビジネス社・2014年)
近藤大介「中国経済『1100兆円破綻』の衝撃」(講談社α新書・2015年)
石平・村上政俊「最後は孤立して自壊する中国ー2017年習近平の中国」(WAC・2016年)
宮崎正弘・室谷克実「悪あがきを繰り返し突然死の危機に陥る中国と韓国」(徳間書店・2016年)
 習近平は、強力な汚職摘発の実行で、国民の支持を得た。
しかし、経済が好転していない。格差が拡大した。中央、地方の官僚の志気が衰えている。
汚職も絶無でなく、構造化されている。司法制度が独立していない。暴動が各地で頻繁に起こっている。言論の自由がないが、世界からの情報は入るので、経済が不調がつづけば、不満分子が暴動を起こす。あるいは、軍事クーデターが起こる(宮崎正弘「中国大破綻」110頁)。
長谷川慶太郎は、「近い将来『血の海』になる」(長谷川慶太郎・田原総一朗「2020世界はこうなる」(SBクリエイテイブ・2016年)139頁)という。
そこで、次のような予想がある。

  1. 長谷川慶太郎・田村秀男「日&米堅調 EU&中国消滅」(徳間書店・2016年5月)において、田村秀男(産経新聞論説委員)は、中国共産党支配では、何事も進まない、と多くの中国人が感じてくると、中国共産党指導部の誰かが自分の存続のため党を割って、改革をやるか、あるいは党自身が自ら変えて行く、ゴルバチョフ方式になる。だが、そういう時期はかなり先になるというのが私の感想」という。
  2. これ対し、評論家長谷川慶太郎は「私は中国崩壊は近いと思います。」という。この問答で面白いのは、田村は、中国共産党が、中国の金を統制している、中国の崩壊を国際世界は止めようとしている、として、まだ時間的に持つ、という。長谷川は、チヤイナリスクは、中国の政治体制の崩壊につながる、「2020年まで中国は、持ちません。」と断言する。
  3. 習近平政権が維持できず、胡錦濤が復活する(注87)。
  4. 胡錦濤でなく王岐山がトップに就き、混乱を収拾し、天下をとる(注88

福島香織「権力闘争がわかれば中国がわかる」(さくら舎・2015年11月)283頁は、もし、習近平政権が胡錦濤や政治局メンバーに責められて、習近平、李克強らがそろって引退する事態も考えられる。そのとき、王岐山のみが習近平に引退や路線変更を求めることができる、とする。王岐山がキーマンという。福島は、王岐山が次であると断言はしないが、その可能性が大きいと示唆する。福島は、SAPIO2016年6月号16頁で、王岐山は、習近平の個人崇拝キャンペーンに反対で、これを妨害したこと、実業家、北京市政協委員の任志強が習近平SNS「微博」で、習近平の「メデイアの姓は党」キャンペーンを批判し、中央メデイアも任志強を叩いたが、任志強の親友は王岐山で、中央規律検査委員会が中央宣伝部にガサ入れをしたこと、を述べている。3月3日の全国政治協商会議開幕式後、習近平の背後から王岐山が肩に手をかけ、王岐山が横柄であると石平が指摘したが、福島は「少なくとも王が習の個人崇拝志向に批判的」とし、「”倒習”が現実となる可能性は想像以上に大きいかもしれない」という。
習近平政権と言うが、実は、2016年、王岐山が真の実力者かもしれない。
だが、習近平が、政権を投げ出した時、習近平・王岐山に押さえつけられていた反対派、江沢民、胡錦濤の反対派が、王岐山をトップにすることを許さないと思う。
オ、習近平の後継は、胡錦濤、王岐山以外のたれかが就く。
石平は、「2022年、胡春華が国家主席になる」とした(「習近平にはなぜもう100%未来がないのか」(徳間書店・2015年11月30日)160頁、162頁)。
 日本人としては、中国が大混乱になり、日本人の会社、店が暴動、略奪の被害を受け、中国在住の日本人が暴行されたり、監禁されたり、殺傷されたり、多数の難民が日本に押し寄せることだけは何としても防ぎたい(筆者は、別稿で、過去、対日暴動の行われた日時、場所を記録し、日本企業が、そこには再び進出しないように注意を喚起したい。)。

3.中間説

 津上俊哉「巨龍の苦闘」(角川新書・2015年5月10日)は、「短期の中国経済崩壊はない」とし、習近平政権がそれなりに改革を進めていること、中国の高度成長は止まったが、それでも年率、数%で成長する巨大市場が他にないこと、日本、中国間で、「不慮の事態」を絶対起こさないようにすること、中国の実力相応の国際的地位を認め、「日本も中国の大国化に一目置いた」態度を示し、経済政策で折り合い、協力姿勢を示す、そのために「経済面での協力案件」を見出す、ことを提案している。
 不測の事態が起こらなければ、また日本など世界各国も、相応の強力をすれば、あと10年間は、この状態が続く、と見ている。津上俊哉の経済分析を私は、十分理解できていないが、見通し、結論は妥当のように思われる。
 中国で建機を売り、中国市場をウオッチしているコマツの相談役坂根正弘は、「バブル崩壊中国経済の反転は近い」とし、「中国経済に関して悲観的になることには賛成ではありません」という(文藝春秋2015年11月号104頁)。中間説としたが楽観説とした方がいいかも知れない。伊藤忠も、中間説ないし楽観説であろう。

×

 日本は、アメリカ抜きで中国との外交を行えない。 アメリカが中国をどうあつかうか。日本は、アメリカと緊密な連絡をとり、中国が、ともかく武力の行使など暴発しないよう注意が必要である(注89)。
 中国は、かねてから考えていたのか、アジアインフラ投資銀行(AIIB)の設立を呼び掛けてきた。日本は、米国とともに不参加を表明した。
 ところが、英国が、(米国陣営を裏切って)、中国主導のインフラ投資銀行参加を表明し、ドイツ、フランス、イタリア、ルセンブルグも参加するという。これを見て、日経2015年3月20日社説は、「中国が主導するインフラ銀に積極関与を」と説いた。真壁昭夫「AIIBの正体」(祥伝社新書・2015年)は日本も参加すべきと言う(202頁)。右田早希「AIIB不参加の代償」(ベスト新書・2015年)は、「ただでさえ少子高齢化に悩む日本は、アジアでの孤立への道を選ぶべきではない」という(まえがき)。
 一方、AIIBは、必ず失敗する、参加しないのが正解、というのは、長谷川慶太郎「中国大減速の末路」(東洋経済・2015年)23頁。宮崎正弘「『AIIBアジアインフラ投資銀行』の凄惨な末路」(PHP・2015年6月)37頁、石平氏などである。
 中国政府ないし中国共産党は、株式相場に対し、介入して相場を操作しており、中国経済の外貨準備高など数字には信用がおけず、鉄鋼、セメント等の在庫が貯まっており、失業者が多く、果たして、国際機関として透明性のあるインフラ投資銀行が設立運営できるか、疑問は多い。こういう理由で、筆者も参加しないという日本政府の決定に賛成である。

×

 2015年2月上旬、広東省広州市の「西鉄城(シチズン)精密有限公司」は、工場を閉鎖し、約1000人の中国人従業員を一斉解雇した。シチズンは、経済補償金の法定額(勤続年数×1カ月平均給与)、5年勤続ならば、5ヶ月分を最低支払わなければならない。また、プラスαを、1・2月分あるいはそれ以上、支払ったのだろうか。2月5日に閉鎖を発表し、一週間で、従業員全員の契約解除合意を取り付けたらしい。これより以前、シチズンは、広東省、広州市などの共産党委、省長、副省長などに、根回しをし、ここでも相当額の金銭を供与したのでないか)と、わたしは、想像した。習近平、王岐山は、汚職絶滅を叫んでおり、少額で済んだかも知れない。 長谷川慶太郎によると、「中国では20人以上の従業員を解雇する場合、1か月前までに通知する義務がある」「しかし、今回は工場閉鎖による一斉解雇であるため」「通知義務は生じ」ず、「従業員への解雇通知は、前日に行われ」「給与の2カ月分の退職金が支払われ」た。「もちろん事前の1月に同社は、工場閉鎖の手続き地元当局に申請し」許可を得ていた。「工場閉鎖によって工場の設備などはそのまま現地においていくことにな」り、「シチズンは500億円くらいの損失」という(「2万5000円超え時代の日本経済」(ビジネス社・2015年7月10日)95頁)。
 日本経済新聞編「中国バブル崩壊」(2015年10月8日)78頁以下によると、雇用契約解除の承諾を渋る従業員の前で、サインを始めた2人の若者が出て、中国人従業員の間に(あきらめの空気がら流れ始めたところ)、「あいつらはうちの工場の人間ではないぞ!捕まえろ!」と、サクラをつかった一幕もあったようである。シチズンは、相当に研究したことを窺わせる。

 前・駐中国大使丹羽宇一郎が社長、会長を務めた伊藤忠商事は、中国国有企業、中国中信集団(CITIC)の傘下企業に1兆2000億円の出資を決めた。タイ財閥大手のチャロン・ポカパン(CP)グループと組み出資するという。(6月の株主総会で出資条件などを巡り提案は否決されたが、鉢村剛最高財務責任者(CFO)は、既存株主から株を引き受けることを含め方法を検討すると出資を模索するー日経2015年8月12日)。
 「橘玲の中国私論」(ダイヤモンド社・2015年3月)115頁を読むと、邱永漢の言うとおりに、天安門事件直後の当時に、中国に投資していれば、金持ちになれたという。「日本の企業人の多くは嘲笑していた」。「ユニクロの柳井氏など一部の例外を除いて、日本の企業や経営者はこの一攫千金のゴールドラッシュに完全に乗り遅れた」というのである。続々と、中国から撤退している今、逆に、資金を出し、人を出し、進出するという逆張りが、あるいは正解かも知れない。
 しかし、景気が悪くなったり、何か「こと」が起こると、反日デモで、日本人が襲われ、監禁され、帰国を許されず、身体生命の危険の可能性が否定できない。
 経団連は、反日デモで、店舗、工場などを破壊された都市の一覧表を作り、今後、そこには、進出しないと宣言すべきである。遅まきながら筆者は作成中である。
 長谷川慶太郎前掲「2万5000円超え時代の日本経済」97頁は、「伊藤忠の経営判断は大きな間違いである。」と断定する。長谷川慶太郎は、まもなく中国は崩壊する、在留邦人12万8000人が心配だが、中国が潰れるのを静かに見守るしかできないという(「破綻する中国、繁栄する日本」(実業之日本・2014年2月10日)46頁)。
 津上俊哉「巨龍の苦闘」249頁も、不慮の事態を想定し、日本企業は、在中国の日本人に「非日系エアラインの香港行きオープンチケットを持たせておくことが必要」であると述べている。
 丹羽于一郎氏は、大使時代、反日デモで、乗っていた公用車が取り囲まれた。今後、反日デモや日本人に危害を加えることは絶対にないと、いいきれるのであろうか。 丹羽宇一郎氏には、中国人と会う都度、「2014年4月、商船三井の船舶が差し押さえられ40億円支払ったが、こういうことを2度とすれば、ほかの日本企業は、中国に行かなくなる」と話して貰いたいと思う。

×

筆者には、習近平が、司法権を独立させること、国民の人権を守ること、一党支配を止め、複数政党制、普通選挙への道を示すこと、はできないと思う。
経済が順調であれば、習近平は、このまま任期を終える。そうでなければ、突発的な事故(習近平、王岐山らへの暗殺)や大暴動により、大混乱が起こる可能性がある。
私としては、中国在住の日本人13万人の安全を祈るばかりである。

注86
城山英巳・週刊文春2015年2月12日号49頁。

注87
黄文雄・石平「日本に敗れ世界から排除される中国」(徳間書店・2014年12月)78頁

注88
宮崎正弘・石平「2015年中国の真実」(ワック・2014年9月26日)88頁~92頁。

注89
宮崎正弘「中国バブル崩壊が始まった」(海竜社・2013年)132頁。
2013年6月7日、8日、米国、カリフォルニア州パームスプリングズのサニーランドの別荘で、米中首脳会談が開かれた。宮崎正弘「中国バブル崩壊が始まった」131頁以下が説くように、(習近平は、アジア太平洋の米中分割統治を狙い)(尖閣諸島問題で中国が奪おうとするのに米国の中立)を求めた。オバマ大統領は、「そういう話には乗らなかった」が、会談直後、パームスプリングス郊外で記者会見した楊潔?国務委員(前外相)は、「関係方面が責任ある態度をとって挑発行為をやめ、対話を通じて妥当な問題処理と解決の軌道に立ち戻るよう望む」と述べて、日中間に領土問題が存在しないのに、あるかのように中国との領土交渉に応じるよう、「盗人猛々し」い発言をした。西尾幹二「アメリカと中国はどう日本を『侵略』するのか」(KKベストセラーズ・2014年)48頁は、このままでは、「中国の太平洋2分割支配にアメリカは譲歩し続けるばかりになり、具体的にはアメリカが日本に様々な妥協、日本人には許せない条件を求め続け、犠牲を強いるようになるだろう。」と警告する。また西尾幹二責任編集「中国人国家ニッポンの誕生」(ビジネス社・2014年)において、日本の自民党が1000万人の外国人を受けいれる計画を発表したが、西尾は、このことについて、徹底的な批判をしている。関岡英之も移民問題の本質は、中国人問題であるとして、移民受け容れ、に反対する。
 私も大量の移民受け容れに反対である。ただ、少数の、日本に有用な人材の受入れは、検討すべきである。日本国内外で、日本語教育をし、日本語を習得した人材を多く養成する。外国人行政を一元化し、内閣直属の外国人庁を創設し、優秀な人材、適切な人材のみを受け入れ、悪質外国人は、追放すべきである。政治的亡命者、経済難民については、厳密に認定の上、日本語教育を施し、受け入れるべきである。