第8章 習近平総書記と王岐山と李克強 – 前編 - ≪第1部 中華人民共和国小史≫

2016年6月23日

 習近平は、序列2位の李克強からは仕事をとりあげ、多くの「小組」をつくり、習近平が長となっている。李克強はよく耐えている。
 また、経済の専門家である王岐山を司法、警察の責任者にして、腐敗撲滅にあたらせ、王岐山が実質的なナンバー2である。

2012年(平成24年)11月11日

 内部高官会議。 ここで、胡錦濤が全ての役職から退き、習近平同志に譲りたい、として軍事委主席も含めて、引退を表明、習近平は、その決断に最高の敬意を表明した(江沢民は、引退後も1年10月、軍事委主席を務めた)。
 当時、この胡錦濤が総書記と党中央軍事委員会主席をともに退任したことは、美挙であると称えられたが、令計画を重用した引責辞任であった可能性がある(加藤隆則・文藝春秋2015年8月号101頁)。

2012年11月15日。第18回党大会

 一中全会(第18回党大会第一次中央委員会全体会議)が開かれた。
 前国家主席の胡錦濤は、「国が滅びる」ことの危険性に厳粛に言及した。(石平「なぜ中国から離れると日本はうまくいくのか」PHP新書・2013年)165頁)。
習近平が中共中央総書記に選ばれ、「チャイナ・ナイン」は、「チャイナ・セブン」になった。遠藤誉論文(注73)によれば、次のようである。

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職位は、2013年からのものを予測している。派閥も遠藤論文による。

職位 派閥
1,習近平(59) 中央総書記、国家主席、国家軍事委員会主席 中立
2,李克強(57) 国務院総理 胡錦濤派
3,張徳江(66) 全人代委員長、常務委員会委員長 江沢民派
4,愈正声(67) 全国政協(中国人民政治協商会議全国委員会)主席 江沢民派
5,劉雲山(65) 中共中央精神文明建設指導委員会主任、
中共中央党学校校長、中共中央書記処第1書記
やや江沢民派
6,王岐山(64) 国務院副総理、中共中央紀律検査委員会書記(注74)(注75 やや江沢民派
7,張髙麗(66) 国務院第一副総理、2012年11月20日まで、天津市党委員会
書記
江沢民派

共産党 中央政治局常務委員(7名)

宮崎正弘が2013年7月発行の著書(注76)で記した「チャイナ・セブン」は、順位をつけていないが、遠藤論文と順番が異なっているので、順位をつけてみる。派閥の表現と認定を比較すると面白い。王岐山が3位というのは、実力順か、習近平の意向であろうか。ニュースソースの判断であろうか。

1,習近平 1953年6月生 党総書記、国家主席、党中央軍事委員会主席
2,李克強 1955年7月生 国務院総理 団派
3、王岐山 1948年7月生 党中央規律検査委員会書記
(宮崎正弘は、上?派、石平は、太子党という)
上?派(注77
4,劉雲山 1947年7月生 党中央書記処常務書記 上?派
5,張髙麗 1946年11月生 国務院常務副総理 上?派
6,愈正声 1945年4月生 全国政治協商会議主席 上?派
7,張徳江 1946年11月生 全国人民代表大会常務委員長 上?派

中央政治局委員(前掲宮崎正弘(注78)106頁による)(丹羽宇一郎「中国の大問題」(PHP新書・2014年)41頁は、馬凱をトップに韓正を末尾においている。)

○中央政治局委員(18名)

李源潮 1950年11月生 国家副主席 団派幹部
汪洋 1955年3月生 国務院副総理 団派幹部
馬凱 1946年6月生 国務院副総理 団派幹部
劉延東(女性) 1945年11月生 国務院副総理 団派幹部
劉奇葆 1953年1月生 党中央書記処書記、党中央宣伝部長 団派
許其亮 1950年3月生 党中央軍事委員会副主席 団派
王滬寧 1955年10月生 党中央政策研究室主任 団派
栗戦書 1950年8月生 党中央書記処書記、党中央弁公庁主任 団派
郭金龍 1947年7月生 北京市党委書記 団派
韓正 1954年4月生 上?市党委書記、上海市長 上?派
孟建柱 1947年7月生 党中央政法委員会書記 上?派
范長龍 1947年5月生 党中央軍事委員会副主席 中立
李建国 1946年4月生 全人代常務副委員長・中華全国総工会主席 団派
張春堅 1953年5月生 新疆ウイグル自治区党委書記
新疆生産建設兵団第1政治委員
団派
趙楽際 1957年3月生 党中央書記処書記。党中央組織部長 団派
孫春蘭(女性) 1950年5月生 前・天津市党委書記(注79 団派
孫政才 1963年9月生 重慶市党委書記 無派閥
胡春華 1963年4月生 広東 団派(注80

中央政治局委員候補がいる。

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△国務院(以下、Wikipediaによる。国務院常務会議は、国務院総理・副総理・国務委員および秘書長により構成、週1回開催)(注81

習近平   国家主席・共産党総書記・中央軍事委員会主席。
国務院総理 李克強 中国共産党中央政治局常務委員 序列第2位
国務院常務副総理 張髙麗 中国共産党中央政治局常務委員 序列第7位
金融・財政担当
国務院副総理 劉延東(女性) 中国共産党中央政治局委員
科学技術・教育・文化・衛生担当
国務院副総理 汪洋 中国共産党中央政治局委員、国家発展改革委員会・商務等。
国務院副総理 馬凱 中国共産党中央政治局委員、農業・民族問題担当
国務委員 楊晶(蒙古族) 中国共産党中央委員、国務院秘書長
中国共産党中央書記処書記、国務委員日常業務担当
国務委員 常万全 中国共産党中央委員、国防部長、中国共産党中央軍事委員会委員
国防動員担当
国務委員 楊潔?(ようけっち) 中国共産党中央委員 前外相。(注82
外交・華僑。台湾担当
国務委員 郭声? 中国共産党中央委員、公安部長、公安、司法、国家安全担当
国務委員 王勇 中国共産党中央委員、国務院国有資産監督管理委員会主任

2012年12月

 習近平は、「中央八項規定」を公表した。中央八項規定とは、中国人民の政治に対する信頼を回復することを目的とする規定である。この中に「倹約節約の励行」がある。具体的には、(1)政府部門人員の国外出張費、(2)公用車の購入・維持費、(3)公務接待費ー以上、「三公経費」を節約せよ、という達しである。中央八項規定が定められて以来、「三公経費」の予算、実績額が公表されるようになった。
2012年の三公経費総額は、9000億元(約12兆円)、同年の中国財政収入の10%に相当した(以上、三橋貴明「中国崩壊後の世界」(小学館新書・2015年)122頁)

2013年3月

第12期全国人民代表大会第1回会議で選出の各部・委員会の責任者。
 (日本の各省庁の大臣・長官に相当)(全員中国共産党員)(番号は、筆者が付した)
全国人民代表大会は、年1度、3月初めに北京の人民大会堂で開催される。

1,外交部部長 王毅
2,国防部部長 常万全(国務委員兼任)
3,国家発展改革委員会主任 徐紹史
4,教育部部長 袁貴仁
5,科学技術部部長 万鋼
6,工業情報化部部長 苗?
7,国家民族事務委員会主任 王正偉(回族)
8,公安部部長 郭声?(国務委員兼任)
9,国家安全部部長 耿惠昌
10,監察部部長 黄樹賢
11,民政部部長 李立国
12,司法部部長 呉愛英(女性)
13,財政部部長 楼継偉
14,人力資源社会保障部部長 尹蔚民
15,国土資源部部長 姜大明
16,環境保護部部長 周生賢(2015年2月、退任し、陳吉寧)(注83
17,住宅都市農村建設部部長 姜偉新
18,交通運輸部部長 楊伝堂
19,水利部部長 陳雷
20,農業部部長 韓長賦
21,商務部部長 髙虎城(注84
22,文化部部長 蔡武
23,国家衛生計画出産委員会主任 李斌(女性)
24,中国人民銀行行長 周小川
25,審計署審計長 劉家義

(25、審計署は、日本の会計検査院に相当する)

2013年(平成25年)

4月、中国共産党中央宣伝部工作会議を受けての通達「現在のイデオロギー領域状況に関する通報」、いわゆる「9号文件」が発せられた。「概略」を掲載する(高口康太「なぜ、習近平は激怒したのか」(祥伝社新書・2015年)102頁から)。

  1. 西側の憲政民主の喧伝には現在の指導者と中国の特色ある社会主義制度を否定する狙いがある。
  2. ”普遍的価値”の喧伝は、共産党執政の思想的・理論的基礎の動揺が狙いである。
  3. 市民的価値の喧伝は、共産党執政による社会的基礎の瓦解が狙いである。
  4. 新自由主義の喧伝は、わが国の基本的経済制度の改変が狙いである。
  5. 西側の報道観の喧伝は、党によるメデイア管制の原則と新聞出版管理制度への挑戦である。
  6. 歴史的ニヒリズムの喧伝は、中国共産党の歴史と新中国の歴史の否定が狙いである。
  7. 改革開放に対する疑念は、中国の特色ある社会主義の性質に疑いを持つものである。

6月24日、上?の株式相場で、株価が下落した。
7月17日、朱建栄東洋学園大学教授(上海出身、1992年、学習院大学で「毛沢東の朝鮮戦争」により政治学博士、日本人女性と結婚)(数年前日本国籍を取得)は、会議出席のため、上?市に赴いたところ、中国国家安全部により、スパイ容疑で逮捕監禁された。
これにより「日中間の有力者どうしの人的交流が一気に減ってしまった」と丹羽宇一郎は嘆いている(「中国の大問題」(PHP新書・2014年)200頁)。

注73
遠藤誉「チャイナセブン」(朝日新聞出版・2014年)14頁及び注16の論文。

注74
宮崎正弘「中国バブル崩壊が始まった」(海竜社・2013年)106頁。

注75
王岐山を上?派とするのもある。Wikipediaによれば、王岐山の妻、姚明柵の父は、姚依林元国務院常務副総理(第1副首相)であるから、太子党でもあろう。王岐山は、金融のプロで、徹底した親米派、アメリカ・オバマ大統領、ポールソン財務長官も「すごく王岐山を買っている」(副島隆彦・石平「中国崩壊か繁栄か」(李白社・2012年)70頁)。

注76
宮崎正弘「中国バブル崩壊が始まった」(海竜社・2013年7月31日、2刷8月29  日)106頁は、王岐山が李克強の次の3位が注目される。

注77
前掲宮崎正弘「中国バブル崩壊が始まった」106頁。石平「中国崩壊カウントダウン」(宝島130頁社・2014年)209頁。ニューズウイーク日本版2014年12月30日・2015年1月6日合併号(通巻1429号)51頁でクリス・パッテンオックスフォード大学総長は「習近平が汚職を摘発する党中央規律検査委員会のトップに王岐山前副首相を起用した理由の1つは王夫妻には子供がなく、親族のために追及の手を緩める心配がなかったからだという見方も一部にある」と述べている。

注78
前掲宮崎正弘「中国バブル崩壊が始まった」106頁。

注79
日経2014年12月31日朝刊8面、大越匡洋記者は、孫春蘭は、失脚した令計画・党統一戦線部長の後任になる模様と報じた。

注80
2014年12月27日日経朝刊にて、北京の島田学記者は、こう予測する。2017年発足の次期最高指導部で、国家主席の有力候補者として、胡春華・広東省党委員会書記(共青団)、孫政才・重慶市党委書記。最高指導部入りの候補者として、汪洋副首相(共青団)、張春賢・新疆ウイグル自治区党委書記、劉奇葆・党中央宣伝部長(共青団)、趙楽際・党中央組織部長(共青団))を挙げる。

注81
高橋博+21世紀中国総研「中国最高指導者WHO’S WHO」(蒼蒼社・2013)316頁。

注82
英国のロンドン経済学院修士課程を修了後、帰国。駐アメリカ大使館に10年勤務、駐米大使を勤めた。ブッシュ大統領一家とも個人的な親交がある。沈才彬「中国沈没」(三笠書房・2008年)43頁。

注83
2015年2月27日、ロンドンインペリアルカレッジで学び、2007年から清華大学学長であった陳吉寧(51歳)が環境保護大臣に就任した。

注84
汪洋の部下に当たる商務大臣について、ネットの産経新聞2015年2月12日の記事がある。髙虎城商務相の息子(32)が、米国の金融大手JPモルガン・チェースに2007年に採用されたこと、国外の政府高官への贈賄を禁じた海外腐敗行為防止法違反の疑いがもたれている。産経によれば、息子は社内の人事担当者に性的なメールを送るなどで問題を起こし2009年まで雇傭された。採用には、米国務長官などを務めた元同社の幹部の意向が働いたこと、髙氏は息子の雇傭継続を求め、同社に便宜を図ることを約束、息子は、同社を離れたのち、ニューヨーク証券取引所などを転々としたという。
日経2015年3月8日付けによれば、7日の記者会見で、息子の縁故採用についての関連質問を封じるため、国外メデイアの質問が封じられた。外務省の華春蛍副報道局長は、9日の記者会見で、「外交問題でない」としコメントを避けた。