ホテル・ジャンキーズ事件

2015年12月24日

被告が、インターネットの掲示板への書き込みをした者の著作権を侵害したことは、認められたが2審で賠償額が減額された事例である。

東京高裁平成14年10月29日判決(平成14年(ネ)第2887号、第4580号)
東京地裁平成14年4月15日判決(平成13年(ワ)第22066号判時1792号129頁)

Y1(株式会社森拓之事務所)は、情報産業に関連する事業を営む会社で、「ホテル・ジャンキーズ」というホームページを設置、管理し、掲示板を設置し、書込みをさせていた。
Y2は、ホテルに関する執筆活動をしているジャーナリストで、Y1の取締役である。
Y3(株式会社光文社)は、図書、雑誌の出版を業とする株式会社で、Y1,Y2が執筆した書籍を出版、販売、頒布し、その宣伝広告をしている。
原告X1から原告X11までの11人は、Y1のホームページに文章を書き込んだ。被告らは、原告の文章を複製したとし、この行為は、著作権侵害であるとして、書籍の出版の中止を求め、また被告らに、X1らは、13万円から40万円までの損害賠償請求をした。

[東京地裁]
民事29部飯村敏明裁判長は、原告の書込みに著作物性を認め、被告らが複製権侵害をしたとした。被告Y3の過失を認定し、次の判決を下した。

  1. 書籍の出版、発行、販売、頒布、頒布のための広告及び宣伝の禁止。
  2. Y3(光文社)は、書籍並びにこれに関する印刷用紙型、亜鉛版、印刷用原板(フイルムを含む)の破棄。
  3. 被告らは、連帯して、X1、X2に対して、10万3300円、X10に対して10万7700円、X4に対して10万8800円、X7に対して、13万7400円、X8に対して10万2200円、X3に対して11万7600円、X6に対して10万2200円、X5に10万1100円、X9に対し10万3300円、X11に対して5万2200円の支払を命じた。

[東京高裁]
Yらは、控訴し、インターネットの特質を主張し、インターネットの書込みの著作物性の基準は、厳密な基準にすべし、と主張した。
民事第6部山下和明裁判長は、「創作性の高いものについては、少々表現に改変を加えても複製行為と評価すべき場合がある」「創作性の低いものについては、複製行為と評価できるのはいわゆるデッドコピーについてのみ」で、「少し表現が変えられれば、もはや複製行為とは評価できない場合がある」というように、「著作物性の判断に当たっては、これを広く認めた上で、表現者以外の者の行為に対する評価において、表現内容に応じて著作権法上の保護を受け得るか否かを判断する手法をとることが、できうる限り恣意を廃し、判断の客観性を保つという観点から妥当」とする。
原判決では、各記述について、一部分が省略された形で転載されているため、転載された部分毎に分けてそれぞれについて著作物性の判断をし、一部分についてその著作物性を否定したが、「著作物性の有無の判断は、まず、これらそれぞれの記述全体について行われるべきである」とし、全体として一個の転載行為がなされた、「原告各記述部分は、それ自体としてみても、原判決が著作物性を否定した部分を含め、いずれも、程度の差はあれ記述者の個性が発揮されていると評価することができるから、著作物性を認めるのが相当である。この点において、当裁判所は、原判決と判断を異にする。」とし、判決した

[判決主文]

  1. 原判決中、金員請求に関する部分(主文2,4項)を次の通りに変更する。
    1. 控訴人らは、連帯して、被控訴人X3に対し、5500円、被控訴人X11に対し、1100円、被控訴人X5に対し1100円、被控訴人X9に対し、1万2100円、被控訴人X9に対し2200円、被控訴人X4に対し、8800円、被控訴人X11に対し2200円及びこれらに対する平成13年10月26日から各支払い済みまで年5分の割合による金員を支払え。
    2. 被控訴人X2、同X7、同X6、同X10の各請求及び被控訴人X3、同X11、同X5、同X9、同X9、同X4、同X11のその余の請求をいずれも棄却する。
  2. その余の本件控訴及びその余の本件附帯控訴をいずれも棄却する。
  3. (省略)
  4. (省略)
ネットの文章を紙媒体にしたところ、著作権侵害に問われた事件である。

[参考文献]
光野文子・時の法令1678号48頁。
上野達弘・別冊ジュリスト179号「メイデイア判例百選」238頁(2005年)。